ねじまき少女
- 作者: パオロ・バチガルピ,鈴木康士,田中一江,金子浩
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2011/05/20
- メディア: 文庫
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石油が枯渇し、エネルギー構造が激変した近未来のバンコク。遺伝子組替動物を使役させエネルギーを取り出す工場を経営するアンダースン・レイクは、ある日、市場で奇妙な外見と芳醇な味を持つ果物ンガウを手にする。ンガウの調査を始めたアンダースンは、ある夜、クラブで踊る少女型アンドロイドのエミコに出会う。彼とねじまき少女エミコとの出会いは、世界の運命を大きく変えていった。ヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞など主要SF賞を総なめにした鮮烈作。
★★★★
環境破壊によってエネルギー構造が激変した近未来。
石油は枯渇し、海面は上昇し、遺伝子組み換え操作の作物しか実らず、疫病が蔓延する。
エネルギーを作り出す工場を経営する「ガイジン」アンダースンとそこで働きながら起死回生のチャンスをうかがう中国人ホク・セン。
日本で新人類として開発されタイに連れて来られ捨てられて今は性の玩具になりさがった「ねじまき」のエミコ。
タイ国でナチスのような存在として国政を取り仕切る白シャツ隊のなかで「虎」と呼ばれ国民の英雄とあがめられているジェイディーと部下カニヤ。
世界は静かに終末に向かっている。
そんな中、儲けることしか頭にない企業や隙があればクーデターを起こしてやろうと企む政治家たちによって、国はさらに滅びる方向に加速をつけて進んでいく。
そんな中で、虐げられて人間の全ての尊厳を奪われてしまったねじまき少女のエミコが、実はものすごい潜在能力を秘めていたり、白シャツ隊のトップにいるジェイディーが正義感に燃えていて誰よりも優しくてユーモアもあって魅力的だったり、登場人物たちが実に人間臭くて生き生きと魅力的なのが、非常に面白い。
世界が終わりに向かっていても、私たち人間は最後まで誰かを好きになったり裏切ったり赦したり赦されたりしながら、自分の小さな世界の中でもがいていくのかもしれない。
それにしてもラストがなんとも不気味…。