りつこの読書と落語メモ

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丁庄の夢―中国エイズ村奇談

 

丁庄の夢―中国エイズ村奇談

丁庄の夢―中国エイズ村奇談

 

 ★★★★★

本書は、「生と死が対話する」という構造を持った悲劇の物語である。この物語は「死者」である一人の少年の口から次から次へと語られる。象徴と現実の間で、作者は稀有の想像力を駆使し、叙述の起伏に沿って物語の哲学を構築している。これは単に「エイズ村」の悲劇というだけでなく、中国の大地で生きている八億の農民の共通した戸惑いなのである。1990年代の中国河南省、政府の売血政策で100万人とも言われるHIVの感染者を出した貧農の「エイズ村」を舞台に繰り広げられる、死と狂気と絶望と哄笑の物語。「現代の魯迅」と評される第一級の反体制作家が書下ろし、たちまち15万部を売り切ったスキャンダラスな傑作。  


貧しさから脱却したい一心で国が勧める売血政策に乗って売血をした人たちが次々熱病(エイズ)にかかって死んでいく丁庄の村。
この売血を先頭に立って行い人一倍金儲けしたのがこの少年の父親でそのことに恨みを抱いた村人によって少年は毒殺されてしまうのだが、この死んだ少年によって丁庄の村の悲劇が語られる。

これ以上の感染を防ぐためにと役人から言われた祖父が、学校を熱病患者の最後の住処にと解放すると、熱病にかかった人たちはようやく安住の地を得たよう。しかし平和な日々は長くは続かない。学校の中で人のものを盗む者が出てきて、さらに自分だけが利益を得ようする者たちが祖父を追い出しにかかる。
学校の中で生まれた熱病患者同士のロマンス。男の方が叔父だったものだから祖父は恥辱を受け学校を追われてしまう。

金儲けしか頭にない父は売血で村が壊滅状態になったことに何の反省もしないばかりか、さらには政府から支給される棺桶を独り占めにし、死後の伴侶探し等の商売で財を成す。
そんな息子の行為に胸を痛め怒りを抱きながらもなすすべのない祖父。

墓を暴いてでも盗もうとし、死後の幸福を得たくて村中の木を切り倒す人間の浅ましさ。
家族から見放され学校に入れられて、誰からも後ろ指をさされる「賊愛」をおかしてしまった二人。絶望しかない中で心を通わせあった二人に唯一救いを感じた。

凄まじい物語だがそれでも単なる「告発」ではなく、文学に昇華されているのが凄いと思った。