地の群れ
- 作者: 井上光晴
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 1992/08
- メディア: 文庫
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長崎原爆の被爆者が群れ住む“海塔新田”。―そこを舞台に、原爆、部落、朝鮮、炭鉱等、あらゆる戦後的主題を擬縮させ、虐げられた人々が虐げあう悲惨と残酷をえぐるなかから人間の条件を問うた、井上文学の核心を示す代表作。
ヘヴィな小説だった。そして非常に感想が書きづらい…。何を書いてもバカ丸出しになってしまいそうというか、そんな風な読み方しかできないのか!と怒られそうで。
被爆したことを恥と感じたり差別するというのがいかにも日本的な感じがしていや〜な気分になった。
虐げられている者が同じように虐げられている者を誹謗中傷する。
被害者が加害者になり、差別的な言葉を吐き、互いの憎悪を募らせる。
ここに出てくる人たちは本当に普通の人たちで、自分の置かれている状況や感情をきちんと理解したり言葉で説明したりすることができない。
でも自分の家族や生活を守るために、世間の空気や近所の視線にはとても敏感だ。
だから彼らのとった行動は今こうして読むと「なんで…」と思うけれど、その場にいたらそうなるのが自然、そうせざるをえなかったのだろう。その状況であれば自分たちもきっと…。
それが見たくないものを見せられているようで、読んでいて非常に苦しい。
そしてここに描かれる戦争の爪痕の生々しさ。
家や財産、大切な家族を奪われるだけでなく、人間の尊厳すら奪われてしまう。戦争をしていいことなんて一つもない。
人間の醜い面をこれでもかと見せつけられ、毒にやられたけれど、たしかにここには人間が描かれているのだと思った。
読んでいてとてもしんどかったけれど、読んでよかった。