りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

祝福

祝福

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★★★★

女ごころを書いたら、女子以上! ダメ男を書いたら、日本一!! 女主人公5人VS.男主人公5人で贈る、夢の紅白短篇競演。あの代表作のスピンオフやあの名作短篇など十篇を収録した充実の一冊。

なんてことなくてとりとめがないけど空気を伝えてくる物語たち。「それで?(だからなに?)」と聞きたくなるような話ばかりなのだが、懐かしかったり妙に身につまされたりして、このなにも起こらない微妙な感じが癖になる。

「マラソンをさぼる」
まるで接点のない不良と一時的に仲良くなって、もしかすると彼を助けてあげられたかもしれない…いや、自分にそんな力があったとは思えない、そんな後悔にも似た気持ち。
だからなに、というわけではないのだけれど、なんとなくそういう出会いや後悔が自分自身を作っているような気がする。

「噛みながら」
銀行強盗に遭うというありえないような状況なのになんとなくぼんやりしてしまったりどうでもいいような昔のことを思い出したり妙に他人事のように感じてしまっていたり…。もちろんこういう経験はないのだがなんか自分にも同じような経験があったような気持ちになってしまう。
これ、面白いなー。

「十時間」
おかあさん、帰って来たんだよね?そこだけどうしても確認したい。
私にもそんな夜があった。ほんとにひとりぼっちになっちゃうかもと不安だった。
あの気持ちは今でも私の中に残っていて、親への恨み…とはちょっと違うけど、危うさとして記憶されている。
そんな誰にも話したことのない私の夜の記憶を、長嶋有がこんなふうに克明に描いているのだろう。私のように感じた読者が他にもいるのだろうか。