りつこの読書と落語メモ

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謎の独立国家ソマリランド

謎の独立国家ソマリランド

謎の独立国家ソマリランド

★★★★

西欧民主主義敗れたり! ! 著者渾身の歴史的<刮目>大作 終わりなき内戦が続き、無数の武装勢力や海賊が跋扈する「崩壊国家」ソマリア。その中に、独自に武装解除し十数年も平和に暮らしている独立国があるという。果たしてそんな国が存在しえるのか? 事実を確かめるため、著者は誰も試みたことのない方法で世界一危険なエリアに飛び込んだ──。世界をゆるがす、衝撃のルポルタージュ、ここに登場!

今まで高野さんの作品はエッセイしか読んだことがなかったのだが、こちらが本職なのだ。
「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、誰も知らないものを探す。」まさにそれを体現している。

内戦が続き「崩壊国家」として知られるソマリアの北部に平和を維持している独立国「ソマリランド」がある。
陸は無数の武装勢力に埋め尽くされた「リアル北斗の拳」、海は海賊が闊歩する「リアルONE PIECE」、そんな一角にそこだけ10数年も平和を維持している独立国があるなんて…。まさに謎の国「ラピュタ」ではないか。
興味をそそられた作者はわずかな伝手を頼りに自分の目で「ラピュタ」を確かめるため、現地へ向かう。

この人の行動力は本当にすごい。
とにかく先入観は捨てて、現地に行ってそこに住む人たちと直接話をしよう、自分の目で確かめよう、空気を感じ取ってこようという一貫した姿勢。
もちろん危険もいっぱいだし、タカリ癖のあるアフリカ人の中に入って「カモネギ」状態になって身ぐるみはがされそうになる。
親切にしてくれた人がたかってきたりしたときの失望感は大きいのではないかと思うのだが、がっかりしてからの立ち直りの速さと、それをむしろ逆手にとってさらに行動をおこすパワーには本当に恐れ入ってしまう。

ソマリランドはいったいどういう国家なのか。

結果から言えば、「猛々しいライオンの秩序ある群れ」だった。
ソマリランドの人間は、基本的にはエチオピア人のリシャンが言っていたとおり、「傲慢で、荒っぽい」人たちである。「弱肉強食」とうい言葉をこれほど実感させる民族は珍しい。
(中略)
ところがこの猛獣のソマリ人は、孤立したトラではなく、社会生活を営むライオンだった。群れの動物なのである。ライオンの群れの掟は明確で厳しい。そしてどのソマリ人も群れ(氏族)の網できっちりまとめられているので、大それた逸脱行為はしにくい。氏族間の戦争になっても、それを解決するメソッドが確立されている。
そのうえに成立したのがソマリランド共和国なのだ。

ソマリランドについてそう結論づけた作者なのだが、ソマリランドの謎は深まるばかり。それを知るためにはソマリ人自体をもっと知らねばならない。
そう思った作者は、ソマリアの他の地域に足を踏み出していく。
「海賊」の根拠地とされるプントランド。そして「リアル北斗の拳」状態の首都モガディシオへ。
平和を維持しているソマリランドとは違ってそこは護衛なしでは歩けず、外人とわかれば誘拐されるのが当たり前、常に銃声が聞こえるようなところへ。

自分が漠然といだいていたイメージが覆され、世界は広く決して単純ではないということを思い知らされる。
独立心に富みせっかちで契約を重んじ攻撃的なソマリ人は日本人とは相性がよくないのだろうと分析しながらも、どんどんソマリ化していきその魅力にはまっていく作者が面白い。
甘ったるい「共感」とはまるで違った「理解」があり「結びつき」が生まれていく様子には感動を覚えた。
想像していたよりずっと硬派なルポだった。すばらしい。