草原讃歌
- 作者: ナンシーヒューストン
- 出版社/メーカー: 水声社
- 発売日: 2013/01
- メディア: 単行本
- クリック: 2回
- この商品を含むブログ (2件) を見る
ヨーロッパからの移民、土地を追われるカナダ・インディアン。自然を支配する西欧文明、自然との共存をめざす土着の文化。堅実な妻、奔放な愛人。相反する価値観にひきさかれながら20世紀を生きぬいた祖父の遺稿。その断片をつなぎつつ、孫娘が家族四代の歴史を背景に人間の救済/再生を物語る。
渋い…とても渋い作品だ。今まで読んだナンシーヒューストン作品と趣が違っていたので、もしかして別人?と思うほど。
カナダ移民二世のパドンが亡くなり、孫であるポーラがパドンの遺した手稿を読み解きながら彼の人生を語る。
黄金を求めて英国からカナダに渡ってきたパドンの父ジョン。粗野で酒飲みで気に入らなければ子どもを殴る。母ミルドレッドは敬虔なクリスチャンで家事を完璧にこなし家族を支える鉄の女。
妹のエリザベスは狂信的なトリック信者で運命や人生になんの疑問を抱かないのだが、パドンは自分の理想と現実との間に折り合いをつけられない。
大学で哲学や歴史を学び深い思索の世界に入りかけたものの、一時の熱情で肉体関係をもったカレンが身ごもったことで結婚せざるをえなくなり、食べていくために高校教師になる。
妻が子どもを身ごもるたびに、自分が本来したかったことから遠ざかるようでいらだちを募らせるパドン。時には子どもにいらだち暴力をふるう。
高校を休職して執筆に専念しようとするがそれもままならない。
爆発寸前のパドンが出会ったのはブラックフット族の血を引くミランダという画家。
献身的に尽くしてくれる妻カレンへの罪悪感を抱きながらも、ミランダとの語り合い体を重ねることでようやくパドンの心に安らぎがうまれるのだが…。
貧困、暴力、宗教、侵略。
パドンの人生は絶望と失意に満ちていて読んでいてとても陰鬱な気持ちになる。
なんて勝手な男なんだろう、と読んでいていらいらもする。
ミランダとのことは家族から見れば裏切りでかないのだが、しかしパドンがミランダと出会えたことに、不快感だけではなく安堵の気持ちも抱いた。
パドンの物語と並行して語られるのがミランダが語るブラックフット族の歴史。
開拓という名前のもとに行われた宗教や教育の強制のおぞましさ。
悲惨な歴史さえも笑い飛ばすようなミランダが病に侵され記憶をどんどんなくしていくのがとても痛ましい。
ポーラがこうして物語ることで無念だらけだったパドンの人生が一瞬光を放つ。
また悲惨な歴史もこうして物語ることが大切なのだ、と思った。