りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

ナツメグの味

ナツメグの味 (KAWADE MYSTERY)

ナツメグの味 (KAWADE MYSTERY)

★★★

そのカクテルには隠し味があった。ほんの一つまみのナツメグが……。なにげない会話に秘められた冷ややかな狂気。素晴らしい技巧と洗練されたユーモア、わずかな頁の中に悪魔的な笑いと奇想を凝縮した異色作家コリアの傑作集。

古典的な奇想譚といった感じの話が多いが、見せ方がうまいので思わず引き込まれ、読み終わって「おおっ」とちょっとドキドキさせられる。只者じゃないな、ジョン・コリア。(←えらそう)

表題作の「ナツメグの味」。職場にやってきた陰気な男に同情を寄せ友情を育もうとする同僚たち。職場にたまたま遊びに来た知人はその陰気な男の過去を知っていて「近寄らない方がいい」とアドバイスする。しかし気のいい彼らはそんなことは信じない。そんな彼らに感謝してその陰気な男は自分の家に招待してくれるのだが…。
古典的な物語だから、結末はなんとなく想像がつく。でも想像しているより、何割か増しで驚かされる。他の作品もそう。作り方がうまいんだなぁ。飽きさせないし。(←やっぱりえらそう)

「猛禽」これもどこかで読んだことがあるような話なのだが(パトリックマグラアとか?)、見せ方がうまいので、思わず引き込まれるし、情景が目に浮かんできて、ぞぞぞ〜となる。朽ちた家をまず見せて、それから幸せな夫婦がいて、不吉な出来事があって、徐々に狂っていく感じがあって、最後にばんっ。

「だから、ビールジーなんていないんだ」もそう。読み薦めるうちに結末はだいたい想像がつくのだが、このラストは…。怖いよ…。

そして悪魔や魔王なんかも当たり前に出てくる。もてないあまり女を目の敵にするようになった醜男が地獄の管理人になったり、死神に連れて行かれそうになった男がうまく立ち回ったり、この世とあの世の境がないところも面白い。

でもねでもね…。もうほんとにこういう奇想短編は読みすぎちゃったのかもしれない。新鮮な驚きがないのよ。今年はこの手の奇想短編を封印しようかな、ほんとに…。と言いながら、「[ウィジェット]と[ワジェット]とボフ」も控えているんだよな…。