りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

赤へ

 

赤へ

赤へ

 

 ★★★★

ふいに思い知る、すぐそこにあることに。 時に静かに、時に声高に――「死」を巡って炙り出される人間の“ほんとう"。 直木賞作家が描く傑作小説集

 「死」を巡る短編集なのだがとても面白かった。

死は圧倒的でそれまでの何もかもを台無しにする力を持っている。「絶対」だと思っていたそれまでの暮らしも関係も夢見ていた未来もなにもかも。だからこそ人間は死に怯えじたばたするのだろう。

井上荒野さんの作品は時に何を伝えたかったの?と思うものもあるのだけれど、これはなんかわかるなーと思うものが多かった。「ボトルシップ」「赤へ」「どこかの庭で」「母のこと」が特に好き。

らくごカフェに火曜会 天どん・こみち二人会

8/2(火)、らくごカフェに火曜会 天どん・こみち二人会に行ってきた。

・天どん「友引寄席」
・こみち「甲府ぃ」
~仲入り~
・こみち「金魚の芸者」
・天どん「真景累ヶ淵~お累の婚礼」

天どん師匠「友引寄席」
天どん師匠の会には久しぶりに来たけど客層がちょっと変わってる?いやこれはこみちファンなのか?
楽屋のこみちさんがたてた音にすかさずつっこむ天どん師匠。
まくらの反応に不服があるのか、いやでもこれはいつも通りだったか?ぶつくさいいながら素人の落語をディスる噺をやりますよと「友引寄席」。

通りかかったセレモニーホールで素人演芸をやっていると知り軽い気持ちで入ってみると客は自分ひとり。
次々素人が出てきて、つまらない小噺をやったり、それに笑わないと意味がわからないのかと説明を始めたり「ワタシ一生懸命やったんですよぅ」と拗ねたり。
めんどくさい人たちが出てきて主人公がめんどくさがるという天どん師匠らしい新作だった。

こみちさん「甲府ぃ」
さきほどごそごそ音をさせてしまったのは大福を食べてたからでして、とこみちさん。
母乳の関係で卵を食べないようにしているんだけど、コンビニで売ってるお菓子で卵が入ってないものってめったにない
だから入ってないのを見つけるとうれしくなってついつい買ってしまいます、と。
そんなまくらから「甲府ぃ」。
豆腐屋のおやじさんがいい味を出してる。そしてこみちさんはなんといってもおかみさんがいいんだよなぁ。かわいらしくてちゃきちゃきしてて。
あんまり好きな噺じゃないけどテンポもよくて楽しかった。

こみちさん「金魚の芸者」
大好きな噺。これは小満ん師匠に教わったんだろうか。前にもいちどこみちさんで聞いたことがあるんだけど、金魚のまるっこがとってもかわいい。ばかばかしいけどちょっと色っぽくて好き好き。

天どん師匠「真景累ヶ淵~お累の婚礼」
落語でめったに寝ないんだけど、あらすじのところで撃沈…。すびばせん。

柳家小のぶ独演会

8/1(月)、お江戸日本橋亭で行われた「柳家小のぶ独演会」に行ってきた。
小のぶ師匠が「幻の落語家」と呼ばれているということを知っていつか見てみたいなぁと思っていたのだが、寄席で何回か見る機会があり、声量とは対照的に情熱的な高座に見るたびに「もっと見たい」気持ちがつのっていった。
その前に出てきた人たちがあまりぱっとしなくて客席がダレていても、この師匠が出てきて噺を始めると空気ががらっと変わって一気に落語の世界に連れて行ってくれる。
見れば見るほど好きになっていって、そんな師匠の独演会があると知ったら行かないわけにはいかない。
行ってみると会場は満員ですごい熱気。やっぱりみんな同じ気持ちなんだろう。

・市丸「狸の恩返し」
・市楽「浮世床(夢)」
・小のぶ「松山鏡」
~仲入り~
・小のぶ「船徳

 

小のぶ師匠「松山鏡」
「松山鏡」はもとはインドに伝わるお経から来ている、と小のぶ師匠。
盗人がこのまま町にいたらつかまってしまうから夜逃げをしようと思う。実際逃げたのは昼間だったので正確に言うと夜逃げじゃなく昼逃げなんですが。
すると街中で大きな箱を見つけた。
持ち上げようとするとひどく重い。
ありがたい。これがあれば逃げなくても済むと思い開けてみると中に入っていたのは鏡。当時鏡は大変珍しいものでこの男も鏡というものを知らなかった。
自分の顔がうつっているのを見て腰を抜かして「すみません!まさか入ってらっしゃるとは知らなかったもので!」
そこで笑いが起きると「…くだらないお経があったもんで」と言うのでまた大笑い。

親孝行な正助に褒美をやろうとお殿様。
何もほしくないと言う正助に「なんでも言っていいぞ」というと「一つだけあるけどこれは言ってもかなわねぇから」と正助。
「予にかなえてやれない望みはない。申してみろ」と言うのを固辞すると「はっきり申せ!」と大きな声。
正助に「死んだおやじに会いたい」と言われてそんなことは絶対無理なのに大きな声を出してしまった手前「できない」とは言えないのだ。

朝に晩にこっそり納屋に隠した鏡を見に行く正助を怪しんだおかみさんが箱の中の鏡を見つけて「おらみたいなこんなきれいな女を嫁にしておきながらこんな化け物みたいな女をかこって!」と怒るのがすごくおかしい。
また、納屋にいるのは父親と聞いた母親がいそいそと納屋に入っていき、箱を開ける前に髪の毛をなでつけてきれいにするのがとてもかわいい。
すごく楽しい「松山鏡」だった。

小のぶ師匠「船徳
長い仲入りのあとネタ出しされていた「船徳」を。
まくらを語り始めて「あれ?何をやるんでしたっけ」と言ったりしてなんとなくやりづらそうな小のぶ師匠。
いろいろうんちくを語りながらも「今日は調子が出ない」「ほんとに(ことばが)出てこない」「アルツハイマーじゃないですよ」「いや、ないとも言いきれないんだけど」と。
「ああそうだ。これは夕べ調べて急に入れたところで。やっぱり腹にないことをやるとわからなくなっちゃう」と言ったあとに「最近急にお客様がいらっしゃるようになったから…」と言うので大笑い。
「だから次回からは…来ないでください」と言って自分でもちょっと笑う。
「ここは飛ばしてもいいですか?あ、いい?ちょっとわからなくなっちゃうかもしれませんよ。え?そんなことはいい?そうですか。ここを飛ばすと短くなって1時間ぐらい短縮しちゃうかも。それでも黙って帰られるんですね?そうですか」
ちょっと黙った後に「言ってみるもんだ」。
さらに「じゃ、やっぱり次回も来てください」。

ぶわはははは!
普段寄席ではまくらも振らずに噺だけやってすっと帰るかっこいい師匠だけど、お茶目なんだなぁ。
話さなくてもその人柄がにじみ出てるから「もっと見たい」という気持ちにさせられたんだなぁ。

そんなふうにして始まった「船徳だったんだけどこれがもう楽しい楽しい。
船頭になりたいと言い出す若旦那が披露目をやろうと言うのもおかしいし、若い衆を呼び出しに行く女中も、親方が呼んでるから小言だ!と言ってさぐりあう若い衆も、生き生きしていてすごく楽しい。
また船に乗る蝙蝠傘をもった男と船を怖がる男の会話もすごく楽しくて目に浮かんでくる。

船に乗ってからも若旦那がどんどんいやになってくる様子が楽しく、「世話のやける船だなぁ」「手数がかかるねぇ」と言いながら手伝ってやる客がおかしい。
到着して男が「苦労しただけに喜びもひとしおだな」とつぶやいたのがめちゃくちゃおかしくて大笑い。
最高に楽しい「船徳」だった。

素敵だなぁと思いつつ自分にはハードルが高いかもとちょっとドキドキして行った会だったんだけど、ほんとに最初から最後まで楽しくて面白くて笑い通しだった。
小のぶ師匠、すばらしい!
また会があったらぜひ行きたい。

炎の眠り

 

炎の眠り (創元推理文庫 (547‐3))

炎の眠り (創元推理文庫 (547‐3))

 

 ★★★★

ぼくは呆然としていた。目の前に、三十数年前に死んだ男の墓がある。そこに彫られた男の肖像が、なんとぼくそのものだったのだ! そのとき見知らぬ老婆が 声をかけてきた。「ここにたどり着くまで、ずいぶん長いことかかったね」捨て児だったぼくは、両親の顔すら知らない。そう、自分が本当はなにものなのか も……衝撃作!

大好きなジョナサンキャロルを久しぶりに再読。

ダークファンタジーっていわれてもなんだかあんまりピンとこないんだけど、リアルの中にファンタジーがひょいっと踏み込んでくるところがたまらなく魅力的。

恋人を送った帰り道に奇怪な自転車に乗った奇怪な男が自分に向かって聞いたことのない名前で呼び掛け「よく戻ってきた!」というシーン。すごく印象的でぞくぞくする。

唐突だったり荒かったりするところもあるけど、フィクションを読む楽しさがぎっちりつまってる。

また少しずつ再読していこうと思う。

 

 

第199回長崎寄席

 7/30(土)、ひびきホールで行われた「第199回長崎寄席」に行ってきた。

・辰の子「狸札」
・扇治「たがや」
・扇辰「一眼国」
~仲入り~
・源氏太郎 笑いの音楽
・南なん「中村仲蔵

扇辰師匠「一眼国」
とげとげしいまくらにびっくり…。完全に引いてしまった。

源氏太郎先生 笑いの音楽
主催者の方が「かなり高齢なので心配なんですけど、ご本人はとてもやる気満々でいます。どうなりますか」とおっしゃっていたけど、いやぁほんとにびっくりした。

ギター弾きながらハーモニカ吹いて足のカスタネットでリズムを刻んで皿回し。芸も凄いけど、ご本人から発散されるパッションが凄い。今年88歳になられると。すごい。そして素晴らしい。

南なん師匠「中村仲蔵
源氏太郎先生のことを「ご本人がとても楽しんでやっているのが伝わってきて、素晴らしいですね」と。ほんとにそう。
「私で最後です。気を確かにがんばりましょう」の言葉に癒される。ほんとにこの師匠からにじみ出る優しさとおかしさには慰められるなぁ…。

南なん師匠の「中村仲蔵」は初めてだったんだけど、こんな「中村仲蔵」は今まで見たことがない。
弁当幕のぱっとしない役でがっかりした仲蔵を鼓舞する妻の一言。その言葉で気持ちを持ち直して自分なりの定九郎をやろうと誓う仲蔵。
なかなかいい工夫が思い浮かばない中、雨宿りに入った蕎麦屋に飛び込んできた浪人。その印象的な姿に釘付けになった仲蔵が浪人に話しかけて姿を確認するところ。二人の会話がもう芝居を見ているようで鳥肌がぞわぞわ。

それなのにところどころ、ふっと力が抜けるおかしさがあって、それがいかにも南なん師匠らしくて楽しい。

芝居のシーンは本当にその鮮やかな姿が目に浮かぶようで、でも想像もしていなかったような客の反応に仲蔵がどんどんがっかりしていくのが、結末を知ってるだけになんともいえない気持ちに。
がっかりして帰ってきた仲蔵に妻が「でもお前さん思う通りの芝居ができたんだろう?だったらよかったじゃないか」というのがいい。最高の女房だなぁ。

上方に旅立とうと河岸を通りかかった時に、「仲蔵の定九郎が凄かった。あれはぜったい見た方がいい!」と客が話しているのを聞いて、「ああ、一人でも俺の芸をわかってくれた人がいた」と喜ぶところで、仲蔵と南なん師匠が重なって見えて思わず涙が…。

すごく南なん師匠らしい「中村仲蔵」で胸を打つものがあった。すばらしかった。

池袋演芸場7月下席昼の部

7/30(土)、池袋演芸場7月下席昼の部に行ってきた。この日は夜もあったので途中退席。すんません。

・小多け「たらちね」
・やなぎ「?」(将棋部と囲碁部の夏の大会の新作)
・龍馬「人形買い」
・小燕枝「あくび指南」
とんぼ・まさみ 漫才
・左龍「棒鱈」
・雲助「夏泥」
~仲入り~
・さん助「熊の皮」

やなぎさん「?」(将棋部と囲碁部の夏の大会の新作)
やなぎさんの新作を初めて聴いた。面白かった!てっきり「夏の甲子園」と思わせておいて、まさかの将棋部のばかばかしさ。笑った笑った。

龍馬師匠「人形買い」
楽しい。一之輔師匠のと同じく、おしゃべりな定吉に焦点が当たっている「人形買い」。
「うちの女中のおよそさんのあだ名が円周率なんですけどどうしてだか知ってます?ゆとり教育だったので円周率が”およそ3”」には笑った。

小燕枝師匠「あくび指南」
もうめちゃくちゃ素敵な「あくび指南」でこれが見られただけでほんとに行ってよかった!と思えるほど。
「一番難しいのは寄席のあくびです。落語に詳しいお客様がなんの噺を聴いてももう聞き飽きていて退屈して、あからさまにではなくわからないようにやるあくび」って。大笑い。

そしてあくびの師匠のあくびが確かにとても粋で素敵で客席から思わず拍手が出るくらい。
習いに来た男が「中につーっと行くとなじみの女が出てきて”おまえさん。久しぶりじゃないの”」っていう流れがなんともいえず楽しくてたまらない。
ほんとに素敵だったー。

雲助師匠「夏泥」
よく落語協会でかかっているのと違う形なんだけど、これがすごく雲助師匠らしくてかっこいい。
泥棒にお金を出してもらうと男が「すまねぇなぁ。ありがとよ。…だけどこれはそっくりかえすよ」。この繰り返しがたまらなくバカバカしくて楽しい。

雲助師匠の「夏泥」の男は、明らかに泥棒とのやりとりを楽しんでいて出すものを全部出させようとしているようなのだが、遊び心があるから嫌な感じがない。
人のいい泥棒が「まったく今日は金を持ってたからよかったようなものの。持ってなかったら恥をかくところだった」と言ったの、初めて聴く台詞だったけど最高だ。この泥棒のこと、ほんとに好きになっちゃった。

さん助師匠「熊の皮」
テッパンの面白さ。
おかみさんに洗濯しろと言われて「いいよ。洗濯好きだよ。毎日やってるし」と言うのが何回聞いてもおかしい。

柳家小三治独演会 松戸市民会館

7/29(金)、松戸市民会館で行われた「柳家小三治独演会」に行ってきた。

・こみち「金明竹
小三治「お化け長屋」
~仲入り~
小三治粗忽長屋

こみちさん「金明竹
わーい、こみちさん。
女性の着物には紐が4本必要なんですが今日は紐を忘れてしまいまして、とこみちさん。
スタッフの方にビニール紐をもらってそれで着てます。ビニール紐があれば勝ったも同然です。
前にやっぱり紐を忘れたことがあったんですがその時は他の演者もいないしスタッフもいないし古い会館で何もない。どうしよう!困った!と思ったら、人間追い詰められると知恵が出てくるものですね。楽屋のすみにゴミ袋が転がってまして、これを使ってどうにか着ることができました。
見た目は何の不足もなかったんですが、動くとがさがさ音がするのには参りました。

そんなまくらから「金明竹」。使いの者が話しているうちにどんどんテンポがあがっていくのが楽しい。
おかみさんがいかにもおかみさんらしくかわいらしいのもいいなぁ。
楽しい「金明竹」だった。この噺、好きなんだよね。

小三治師匠「お化け長屋」
選挙の話をしかけては「いややっぱりこの話はあぶねぇからやめたほうがいいな」とやめてみたり、また言いたそうにしてみたり。
ろくなやつがいねぇ…は本音だよなぁ。ほんと。もうね…。
ポケモンGOのことも、「スマホをこんなふうにやりながら家に入ってきちゃう」って間違った理解をしているのが面白い。
落語にはいろんな種類の噺がありまして…と言って怪談噺の説明が始まったので「お化け長屋」かな、と思ったらやっぱりそうだった。まくらでたいがい予想がつくようになってきたぞ。

まくらはゆらゆらしてたけど、この日の「お化け長屋」はとっても面白かった!もうキレキレ。
最初の男の怖がりようと、もくべえさんの怪談噺のこわいところ。
それが二人目の男がことごとく話の腰を折るものだから、もくべえさんがすっかり調子を崩すところ。
リズムがあって聴いていてウキウキしてくる。なんともいえず楽しかった。

小三治師匠「粗忽長屋
1席目を長くやりすぎました、と小三治師匠。今日はもうこれで終わりにしてもいいくらい。とご本人がおっしゃってたということは、やはりすごい会心の出来だったっぽい。
まぁそうは言ってももう一つ落語らしいのをやりますかね、と言って「粗忽長屋」。こんな入り方も面白い。
刈り込んだ短めの「粗忽長屋」だったけど、たまらなくおかしい。もうなんだろう、何度も見ているのに何度もおかしくて笑ってしまう。
まめでそそっかしい男と無精でそそっかしい男の関係性がなんともいえずあたたかくてそこが見ていて幸せに感じるところなのかもしれない。

松戸の会は遠いのもそうだけど始まりが早いので毎年有休をとって行くんだけど、行った甲斐があったなぁと満足で帰ってきた。

連雀亭・きゃたぴら寄席

7/29(金)、連雀亭のきゃたぴら寄席に行ってきた。

・市童「ろくろ首」
・遊里「噺家の夢」
・ふう丈「?」(お年寄りが地区センターでボケ防止5カ条を確認するという新作)
・らく人「蜘蛛駕籠

市童さん「ろくろ首」
おおお、市助さんだ。二ツ目になってからあんまり見ることがなかったからなんか一方的に懐かしい友だちに会ったような気持ちに。
与太郎がかわいくて楽しい。時計が二つなって「ごもっともごもっとも、だな」ってかわいい台詞。

遊里さん「噺家の夢」
自分の地元のなまはげヘリの話など、長いまくらからの「噺家の夢」。
前にろべえさんで聞いたことがある。そうか、これは芸協噺なのか。もしかして喜多八師匠が芸協の方から教えてもらって落語協会でもやられるようになったのかな。
ばかばかしいけど楽しい。好きだ。

ふう丈さん「?」
前に見た時と同じ、ふう丈さんを贔屓にしてくれるおばさまの話。「ふう丈さんはいつ二枚目になるの~?」って…。何回聞いてもおかしい。
地区センターみたいなところで、老人が集まって老化防止の体操をやっている。そこで一人のおばあさんが「ボケ防止の5カ条」を教えて、もう一人がそれに対して自分はどうだ、と語るという噺。
面白かったけど、サゲがちょっと当たり前すぎてさみしいような。

 

小んぶにだっこ

7/28(木)、落語協会で行われた「小んぶにだっこ」に行ってきた。
毎回本当に楽しみなこの会。会場に向かう時、小んぶさんが入り口に立ってる姿を想像するとうれしくなって顔がにやけてしまう。

・小んぶ「反対俥」
・小んぶ「ネタバレ(新作)」
・小んぶ「抜け雀」

小んぶさん「反対俥」
ポケモンGOが流行ってますね、と小んぶさん。
家にテレビがなくて、寂しいからと実家から持ってきたラジオが壊れて、情報を入手する手段がなくなってしまった。でもそんな私でもポケモンGOのことは知ってました。
スマホを持っているのでやってみようかと思いダウンロードしてやってみることに。
自分はそれまでポケモンって知らなかったので、よく意味がわからない。それでもポケモンを見つけてボールを投げてつかまえることはできるようになって、「これが面白いのか?」と疑問を持ちながらもやってる。
噺家なんていうのはひねくれ者が多いので楽屋でやってる人はいなくて「あんなのやるのはバカだ」という意見が大半。いまさら自分はやってるとは言えず「ふんふん」と話に混じっている。

ジムというのがあってそこで自分のポケモンを戦わせることもできる。
そろそろ行ってみるかとどうやるかもわからずジムに行ったんだけど、さすがにそういうところに出るようなポケモンは強くてまるで太刀打ちできない。
気のせいだとは思うけど相手と向き合った時、自分のポケモンが「おい、どうしたらいいんだよ」と不安そうな顔でこっちを振り向く。そしてぼこぼこにやられて死んでしまう。
ああ、おれのせいでこいつが死んでしまった、すまなかったと思いながら、でもまた新しいポケモンを捕まえている。

小んぶさん!そのヤラれたポケモン、げんきのかけらで回復させられるから!と教えてあげたい!
そうか。お見送りしてくれたときにそう話しかければよかった!

そんなまくらから「反対俥」。
最初の病弱な俥屋がおかしいおかしい。ふにゃ~と力の抜ける加減がおかしくて大笑い。
そして威勢のいい俥屋の走り方がなんか独特ですごいおかしい。この噺を教わった時、次の日すごい筋肉痛になるって言われて、まさかそんな…と思ったんだけど、昨日老人ホームでやって今日は太ももがすごい筋肉痛、と。
威勢のいい俥屋さんはどんどん南へ行って最後は種子島。ロケットと張り合う。っていったい誰に教わったんだろう?

小んぶさん「ネタバレ(新作)」
今朝できた新作とのこと。落語に出てくる登場人物ってそのままネタバレになってることが多い。「けちべえ」とか「与太郎」とか。それでそういう名前でネタバレしてる新作ってどうかなと思って作ってみた、と。
刑事に尋問をうけている主人公。その名も「冤罪」。「俺じゃない。俺はやってない」と言うのだが信じてもらえない。そこにやってきたのが「真犯人」という名前の刑事。自分にはこの仕事はあわないから今日でやめる、という…。
シュールというかバカバカしいというか型破りというか。ほんとに独自で面白いなあ。このまま変にすれずに独自な新作を作っていってほしいな。

小んぶさん「抜け雀」
これがまた独特な抜け雀で。
宿屋の主人がとにかくお人よしでじんべえさんというより与太郎っぽい。とにかくお客に逆らわない。なんでもにこにこ受け入れる。それがいかにも小んぶさんらしくて面白い。

あの客は怪しい。金をもらって来い。言いづらいならこう言いな。
おかみさんに言われて客のところに行って棒読みで言い始めると、客が「いいよ。わかったよ。全部聞こえてた」。
ぶわははは。面白くしようと思ってそうしたというより、小んぶさんが自分でそう考えたんだろうなというのが伝わってきてすごくおかしい。
客が衝立に絵を描くと言いだして、墨をすれと言われてするんだけど、「あ、いいにおい、ほら」と墨を客の鼻先にやって、「やめろよ」と鬱陶しがられるのがおかしい。「お前鼻だけはいいな」と言われると「ほめられちゃった」と本気で喜んでいる。
「そんな目なら銀紙でもつめとけ」と言われて「はい。やっておきます」。ここでもさからわない。
客が一文無しと聞いて怒り狂うおかみさんが「もういやだ。あんた、離縁しておくれ」と言うと「やだ!」とそこはきっぱりさからう。

絵師の父親が来て雀を休ませたほうがいいと聞くと「わかりました。私が描きます」と宿屋の主人。「お前は書いちゃだめだよ」と父親が慌てるのがおかしい。
鼻だけはいい、目に銀紙を入れろと言われた主人が「あ!(銀紙入れるの)忘れてた」と言うのがもう…なんだよ、それ。おかしすぎる!

ほんとに小んぶさんらしい「抜け雀」で大笑いだった。楽しかった!

坂の途中の家

 

坂の途中の家

坂の途中の家

 

 ★★★★

刑事裁判の補充裁判員になった里沙子は、子どもを殺した母親をめぐる証言にふれるうち、いつしか彼女の境遇にみずからを重ねていくのだった―。社会を震撼させた乳幼児の虐待死事件と“家族”であることの心と闇に迫る心理サスペンス。  

 子育ての経験のない角田さんがなぜこんなにも孤立した母親の気持ちをリアルに描けるのだろう。
補充裁判員になった里沙子が、子どもを殺した母親・水穂に共感しすぎて精神の均衡を失っていったように、読んでいる私も里沙子に共感しすぎておかしくなりそうだった。読んでて、うあーーーっ!と頭をかきむしりたくなるような追い詰められ感。

もっとまわりの人に頼ればよかったのに。そう言われるけれど、そんなに簡単なものじゃない。
だけどたとえば夫が自分と同じぐらいの真剣さで子育てに関わっていれば。悩みを打ち明けられる友だちがいれば。こんなふうに孤立しておかしくなっていくことはないのだと思う。

結局、夫の方は傍観者に過ぎないから妻が孤立してしまう。それまで築いてきた夫婦関係が「対等」なものではなかったから、ノイローゼ気味になった妻はどんどん追い詰められてしまう。

子育ては決して地獄ではないのだから、人目を基準にしないで楽しくやろう。彼女らにそう言いたい気持ちでいっぱいだなぁ…。

二ツ目勉強会

7/26(火)、池袋演芸場で行われた二ツ目勉強会に行ってきた。

・市丸「まんじゅうこわい
・日るね「ろくろ首」
・はな平「宿屋の仇討」
・小んぶ「三方一両損
~仲入り~
・歌扇「締め込み」
・喬の字「千両みかん」

日るねさん「ろくろ首」
私、ぼーっとしているんですけど朝はもっとぼーっとしてるんです。
これじゃいけないと思ってコーヒーの粉を買ってきまして、毎朝これを飲んで頭をすっきりさせようと思ったんです。
お湯を沸かして入れようと思って、なんでだかカップのほうじゃなくてコーヒーの入ってる瓶のほうに入れてしまいまして…。蟻の巣みたいに、ぽつぽつぽつって…わかりますかね?
一回で使えなくなってしまいました。みなさんもお気を付けください。

初めて見た日るねさん。噂にたがわずなんかすごいぞ。いろんな意味で。かわいいけど。
そんなまくらから「ろくろ首」。
おそれていたよりは落語はちゃんと落語らしくてほっ…。
時折素に戻るようなところがあってドキドキしたけど、ところどころがなんか面白い。
なんとなくさん助師匠っぽい「ろくろ首」だった。

はな平さん「宿屋の仇討」
旅の仕事の話。
旅に行くときはその地方でしか食べられないものが食べたいと思い食べログで調べてから行く。
会場の近くで星が3.5以上の店。
でも最近の旅の仕事は泊りはめったになくて主催者もできるだけお金を使いたくないんでしょう。とっとと追い返そうとする。
こちらはそのあたりでおいしいものを食べようと思って、調べはついてるんですよ。
なのに会が終わるとすぐに飛行場に連れていかれちゃう。これがつらい。

かと思えば打ち上げに命かけてる主催者さんもいます。
前にお寺で落語会があったとき。
11時半ぐらいから始まって2時間の予定。前半はフツウだったんですけど仲入りになったらお客さんの席にお膳が並べられまして、さらにお酒とコップも。でも中には入れないんです。完全な「おあずけ」状態。
その状態で落語に入ったんですけど、もうみんな目が血走ってきちゃって…。
落語が終わった瞬間、酒が運ばれてきて「かんぱーい」。
それから本堂で飲みはじめどんちゃん騒ぎ。
「こんな場所でこんなに飲んでいいんですか」と住職に聞くと「お釈迦さまもお喜びでしょう」
…ほんとかよ!

1時から始まった宴会が終わったのが夜の0時。
ホテルに帰ったら一緒だった文菊兄さんから電話がかかってきて「飲みなおそう」。
えええ?もう飲みなおす隙間なんかありませんから!そういったものの「大丈夫大丈夫」と言われ2時まで飲んだ。

そんなまくらから「宿屋の仇討」。
まくらも面白かったけど落語もとっても面白い。
メリハリがあってテンポがよくて。
えばってるお武家様に、はしゃぐ江戸っ子3人組に、間に入って右往左往する伊八。
3人のキャラクターが立っていてなんともいえず楽しい。

隣の部屋でうるさがっているのが侍と聞いてしゅんとなった3人組がすぐにそのことを忘れて相撲をとったり「ゲンちゃんは色男」と歌いだしたりするのが楽しくて大笑いだった。

小んぶさん「三方一両損
小んぶさんの「三方一両損は前に小んぶにだっこで聞いたことがある。
確かあの時はシュールな新作をやったあとに「仲直りのしるしに」と言ってやったんだった。わははは。

この噺、あんまり好きじゃないんだけど、小んぶさんのはなんかこの二人の男たちが面白がりながら意地を張り合っているような感じがあるので、聞いていて楽しい。
そして時々小んぶさんらしい「引いた」セリフがあるところが好き。

お奉行様の前でなんでこうなったかを金太郎が説明してちょっと激昂すると「え?情緒不安定?」っていうのがすごいおかしい。
楽しかった。

歌扇さん「締め込み」
登場するや「待ってました」の掛け声。
おじさんファンがついてる?
「締め込み」はなんかあまりにもよく聞くので正直新鮮味が…

喬の字さん「千両みかん」
ついつい南なん師匠の「千両みかん」と比べてしまうのだが、みかんが見つかって南なん師匠の番頭さんは自分と若旦那の命が助かってよかった~と喜ぶんだけど、喬の字さんのは自分の命が助かったことだけを喜んでいるんだよな
そのちゃっかりさが若々しいともいえるけど、ちょっと「おや」と思ったり。

魔法の夜

魔法の夜

魔法の夜

 

 ★★★

夏の夜更け、町中をさまよう人びとが交叉し、屋根裏部屋の人形たちが目を覚ます…作家の神髄が凝縮された小宇宙!

 大人になれない男、彼を見守り続ける老女、恋に恋する少女、マネキン、マネキンに恋する男、月に呼ばれる少女、不良に憧れる不良になれない少年、少女たちのギャング団。

夜の魔法にかかったひとたちが何かに導かれるように家を飛び出して夜の街をさ迷う。不思議と懐かしく馴染みのある感じがしたのは、私自身も夜の持つ魔法にかかったせいなのだろうか。

ミルハウザーらしいといえばらしいし、物足りないといえば少し物足りない。

さん助 燕弥 ふたり會

7/23(土)、お江戸日本橋亭で行われた「さん助 燕弥 ふたり會」に行ってきた。

・百んが「道具屋」
・さん助「手紙無筆」
・燕弥「お化け長屋」
~仲入り~
・燕弥「干物箱」
・さん助「鰻の幇間

さん助師匠「手紙無筆」
珍しく明るい色の羽織を着て出てきたさん助師匠。新調したらしいのだが思っていたより明るい色が出た。これを楽屋で着たらさぞやからかわれるだろうと思っていたら、みんなイケナイモノを見たかのようにさっと目をそらす…。ぶわははは。

今度仕事で福岡に行くのだけれど、予算があまりないと言われ、格安ツアーを自分で探すことに。
1年前にスマホに変えたけれどまるで使いこなせていない。でもこういうことがあると必死になり、検索して格安のツアーを見つけネットで予約。これがもう大変。ログインしてくださいと言われてもログインの意味がわからない。ええ?なに?ユーザー登録?わからないながらもどうにか入力して予約画面までたどり着けたのだが、そこに予約番号を入れないといけなくて、その番号がメールで送られてきたのだけれど、これぐらいの数字はメモしなくても覚えられるわ!と入れるとエラー。また入れてエラー。何回かエラーになったらまた振り出しに戻ってしまった!そんなこんなで予約するのに3時間もかかってしまった。

そんなまくらから噺に入ろうとしてふと思い直して「普段はこんなことしないんですがせっかくなんでみなさんこの羽織を写真に撮ってください」と。
うおおー。珍しいー。何を思ったーー?
撮りたかったけどスマホの電源を落としてしまっていたのであきらめちゃった。頑張って撮ればよかったかな。

そんなまくらから「手紙無筆」。
明らかに読めてない兄貴の強がりがかわいい。
「それがなによりの手掛かりになる」
何度聞いても好きなセリフ。

燕弥師匠「お化け長屋」
マイクの音、大きくないですか?と燕弥師匠。空調は大丈夫?と聞くと客席から「さむい」という声。「寒いってよー」と声をかけてああだこうだとやっていると、着替え中のさん助師匠がほよっと舞台に出てきた。その姿はまるでおじいちゃんのよう(笑)。いなくなってから燕弥師匠が「なんですかあれは。住職の着替えですか」と言ったのがおかしかった~。

怪談噺をやってみたらどうですかと言われたこともあるんだけど、自分はやるつもりはない。うちの一門のニンじゃないっていうのもあるし、自分はお化けが苦手。前に家で「お菊の皿」をさらっていたとき、お菊の幽霊が出てくるところで背筋がぞぞっとした。気のせいかもしれないけど感じちゃったものはしょうがない。あんなに怖くない噺ですらそうだから本気の怪談なんかできるわけない。

そんなまくらから「お化け長屋」。
苦手と言いながら、もくべえさんが語る怪談の部分がしっかり怖くて面白い。しゅっとしてかっこいいから本気の怪談とかやったら絵になるのになー。
一人目の男の怖がりようと、二人目の男のまるで怖がらないところの対比が楽しい。

燕弥師匠「干物箱」
二人目の子が今小学1年生なんだけどこれが絵に描いたようなバカで、と燕弥師匠。子どもの頃は夏休みが待ち遠しかったけど、親になってみると本当に夏休みが恨めしい。うるさくてしょうがない。早く終わらないかと思ってる。
そんなまくらから「干物箱」。おやじの笑顔より女の子の笑顔がいいとのろける若旦那に思わずにやり。こういう若旦那は燕弥師匠にぴったりだなぁ。
明るくて楽しい「干物箱」だった。

さん助師匠「鰻の幇間
独り言を言いながら歩いている一八。ああだこうだと理屈っぽくてなんかすごく楽しい。羊羹を持ってご贔屓の家を尋ねるも空振り。二軒目では渡さずに帰ろうと思っていた羊羹をとられてしまい「なんだあの家は。魚の方から食いついてきた」。

向こうから来た男が誰だか思い出せないまま知ってるふりをして話を合わせて鰻屋へ。向かいながら下駄を褒められて得意になって薀蓄を語る。こんなに薀蓄を語る一八は初めて見たんだけど「下駄のことだったら1時間でも喋れます」には笑った。

2階に上がってみれば部屋で子どもがコマを回してるわ、酒は頭がくらっとくるぐらいまずいわ、漬物は飲みこめないぐらいまずいわ…。そのくらっとくる様子がなんともいえず楽しい。
そのうち客がはばかりに行ってしまい、「いいお客をつかまえた」とご満悦の一八がめくるめく妄想。これがすごく面白い。

なんと客に逃げられたのが鰻が出てくる前なんだな。こういうの初めて。
それから店の女がいかにも融通が利かなそうで話し方もぞんざいでイラっとくるのが楽しい。何度も「コマを回すな!!」と言うのもおかしくて大笑い。

あんまり好きな噺じゃないんだけどすごく楽しかった。だまされるところじゃなくて調子が良くて妄想激しい一八に焦点があたっていたからかもしれない。

えどはく寄席

7/23(土)、江戸東京博物館で行われた「えどはく寄席」15時の回に行ってきた。

・南玉 江戸曲独楽
・南なん「千両みかん」

南玉先生 江戸曲独楽
何度も見ているけれど、こんなに近くで(ほんとに目の前!)見たことはなかったので、見入ってしまった。五感のすべてを研ぎ澄まさせてものすごい集中力でやられているのが伝わってきて思わずこちらも息を止めてしまう。素晴らしい芸。

南なん師匠「千両みかん」
普段からいろいろネタを探しています、という南なん師匠。以前怖い映画を見たんですが今でも時々それを思い出すとぞっとします。
悪党が家に忍び込んでいてそこの夫婦を縛り上げる。そして狂犬病にかかった犬をロープでつないでそのロープの近くに蝋燭を置いている。蝋燭が徐々に溶けていくとその熱でロープが切れて狂犬が襲ってくる。そんな仕掛けをして悪党は出て行ってしまった。
縛られた奥さんの方が旦那に向かって「ねぇ!なんとかしてよ!」。
「いや…なんとかしろと言われても…」
「だったら何か歌でも歌って!」
「そんな気分じゃないよ。でも…わかったよ。歌うよ。♪ハッピバースデートゥーユー、ハッピバースデートゥーユー、ハッピバースデーディアわんちゃんー、ハッピバースデートゥーユー♪」
すると犬が思わず蝋燭をふっと消す。

もうこの犬が顔を横に向けて蝋燭をふっと消した姿がたまらなくおかしくて笑った笑った。いつまでもおかしくて、いまも思い出すと笑ってしまう。多分あのおかしさは前の方に座ってないとわからなかったかもしれないけど、もうこれが見られただけで来た甲斐があったなぁ。

そんなまくらから「千両みかん」。
南なん師匠の「千両みかん」はこれで三回目なのだが、やはり大きなざわざわした会場ということで、前に見た時よりわかりやすくやられていて、お客さんや会場でやりようが変わるんだなぁ。それをものすごい近くで見られる幸せ。

若旦那から話を聞いててっきり女の子だと思い込んだ番頭が「つやつやした?」「かおりのいい?」とにやにやするのがかわいい。
みかんを求めてあっちの八百屋こっちの八百屋と走り回る番頭が「みかんありますか?」と聞く言い方によって相手の答え方も変わってくる。最後に店先で倒れ込みながら「みかんあります?」「ないよ!…うちはあらものやだからね!」。

みかん問屋にたどりついて蔵をあけるシーンでは大きな蔵が目の前に見えてきて、涼しい風がこちらにも吹いてくるよう…。

若旦那にみかんを届けた番頭が心の底から若旦那が元気になったことを喜んでいて、そこからわが身を振り返って虚しくなるところが、なんか身につまされておかし悲しい。

オープンなスペースでお客さんは満員だけれど子どもも多くておそらくほとんどが初めて落語を聞くお客さん、というなかなかアウェイな環境。そこで「千両みかん」という地味な噺をやってしまう南なん師匠が大好きだ。

貝がらと海の音

 

貝がらと海の音 (新潮文庫)

貝がらと海の音 (新潮文庫)

 

 ★★★★★

郊外に居を構え、孫の成長を喜び、子供達一家と共に四季折々の暦を楽しむ。友人の娘が出演する芝居に出かけ、買い物帰りの隣人に声をかける―。家族がはら む脆さ、危うさを見据えることから文学の世界に入った著者は、一家の暖かな日々の移りゆく情景を描くことを生涯の仕事と思い定め、金婚式を迎える夫婦の暮 らしを日録風に、平易に綴っていく。しみじみとした共感を呼ぶ長編。  

 いただいたものや作ったものをご近所におすそわけし、娘や息子の家を訪ね、おくりものをし合う。頂いたお花を飾り、頂いたお総菜を味わい、妻の作ったおはぎをお供えし味わい、孫の手紙や習字を楽しむ。

なんて豊かな暮らしなのだろう、昔は物がないからこんなふうに暮らせたんだねと思って読んでいたら、そんなに昔のことではないということに途中で気づいて驚く。

消費することだけが幸福なのではないと教えてくれる。
こんな風に毎日を穏やかに感謝して過ごせたら本当に素敵だと思う。自分の神経が毛羽立ってきているなぁと思ったら読みたい本。心が慰められる。