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りつこの読書と落語メモ

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未成年

 

未成年 (新潮クレスト・ブックス)

未成年 (新潮クレスト・ブックス)

 

 ★★★★

輸血を拒む少年と、命を委ねられた女性裁判官。深い余韻を残す長篇小説。法廷で様々な家族の問題に接する一方、自らの夫婦関係にも悩む裁判官の元に、信仰 から輸血を拒む少年の審判が持ち込まれる。聡明で思慮深く、しかし成年には数か月足りない少年。宗教と法と命の狭間で言葉を重ねる二人の間には、特別な絆 が生まれるが――。二つの人生の交わりを豊かに描きながら重い問いを投げかける傑作長篇。  

 宗教上の理由から輸血を拒む少年の裁判という極めて難しい判決を行わなければならない女性裁判員のフィオーナ。
難しい案件に頭を悩ませているフィオーナに長年連れ添った夫ジャックから信じられないような言葉を投げつけられる。彼女との結婚生活は今まで通り続けるつもりなので職場の若い女との不倫を認めてほしいと言うのだ。「最後のチャンスなんだ」という身勝手な言葉に呆然とするフィオーナ。

仕事で幾組もの夫婦の離婚に立ち会ってきたフィオーナだが、いざ自分の身に降りかかるとどうすればいいのかわからず右往左往してしまう。
怒りにまかせて鍵を替えてしまったり、謝罪の言葉を期待して何度もメールをチェックしたり。
しかしそんな状態にもかかわらず彼女は難しい裁判に真っ向から挑み、その少年アダムに会いに病院に出向いて行く。

彼女の下した判決は素晴らしいものだったと思う。アダムの生命の危機は彼女の判決のおかげで救われたわけだが、それまでは狂信的な宗教心の中である意味無菌状態で生きてきたアダムにすれば、一人荒野に放り出されたようなもの。
今まで宗教を無心に信じてきたように、今度はフィオーナに救済を求めてしまうもの、無理からぬことにも思える。

しかしフィオーナ自身も個人として見たら完璧な人間ではなく、夫との問題や自分が子どもを持たなかったこと、これからどんどん老いていくことに苦しんでいる。
彼女に自分の未来を全て託そうとするアダムの気持ちを受け止めきれなかったことは彼女の罪ではないけれど、罪悪感はきっと消えることがないだろうし、その痛みを抱えながら生きていくことになるのだ。

人間が人間に与えてしまう影響の大きさ。一歩踏み出してしまったために生まれる悲劇。
マキューアンらしい苦い物語だった。