りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

柳家小のぶ独演会

8/1(月)、お江戸日本橋亭で行われた「柳家小のぶ独演会」に行ってきた。
小のぶ師匠が「幻の落語家」と呼ばれているということを知っていつか見てみたいなぁと思っていたのだが、寄席で何回か見る機会があり、声量とは対照的に情熱的な高座に見るたびに「もっと見たい」気持ちがつのっていった。
その前に出てきた人たちがあまりぱっとしなくて客席がダレていても、この師匠が出てきて噺を始めると空気ががらっと変わって一気に落語の世界に連れて行ってくれる。
見れば見るほど好きになっていって、そんな師匠の独演会があると知ったら行かないわけにはいかない。
行ってみると会場は満員ですごい熱気。やっぱりみんな同じ気持ちなんだろう。

・市丸「狸の恩返し」
・市楽「浮世床(夢)」
・小のぶ「松山鏡」
~仲入り~
・小のぶ「船徳

 

小のぶ師匠「松山鏡」
「松山鏡」はもとはインドに伝わるお経から来ている、と小のぶ師匠。
盗人がこのまま町にいたらつかまってしまうから夜逃げをしようと思う。実際逃げたのは昼間だったので正確に言うと夜逃げじゃなく昼逃げなんですが。
すると街中で大きな箱を見つけた。
持ち上げようとするとひどく重い。
ありがたい。これがあれば逃げなくても済むと思い開けてみると中に入っていたのは鏡。当時鏡は大変珍しいものでこの男も鏡というものを知らなかった。
自分の顔がうつっているのを見て腰を抜かして「すみません!まさか入ってらっしゃるとは知らなかったもので!」
そこで笑いが起きると「…くだらないお経があったもんで」と言うのでまた大笑い。

親孝行な正助に褒美をやろうとお殿様。
何もほしくないと言う正助に「なんでも言っていいぞ」というと「一つだけあるけどこれは言ってもかなわねぇから」と正助。
「予にかなえてやれない望みはない。申してみろ」と言うのを固辞すると「はっきり申せ!」と大きな声。
正助に「死んだおやじに会いたい」と言われてそんなことは絶対無理なのに大きな声を出してしまった手前「できない」とは言えないのだ。

朝に晩にこっそり納屋に隠した鏡を見に行く正助を怪しんだおかみさんが箱の中の鏡を見つけて「おらみたいなこんなきれいな女を嫁にしておきながらこんな化け物みたいな女をかこって!」と怒るのがすごくおかしい。
また、納屋にいるのは父親と聞いた母親がいそいそと納屋に入っていき、箱を開ける前に髪の毛をなでつけてきれいにするのがとてもかわいい。
すごく楽しい「松山鏡」だった。

小のぶ師匠「船徳
長い仲入りのあとネタ出しされていた「船徳」を。
まくらを語り始めて「あれ?何をやるんでしたっけ」と言ったりしてなんとなくやりづらそうな小のぶ師匠。
いろいろうんちくを語りながらも「今日は調子が出ない」「ほんとに(ことばが)出てこない」「アルツハイマーじゃないですよ」「いや、ないとも言いきれないんだけど」と。
「ああそうだ。これは夕べ調べて急に入れたところで。やっぱり腹にないことをやるとわからなくなっちゃう」と言ったあとに「最近急にお客様がいらっしゃるようになったから…」と言うので大笑い。
「だから次回からは…来ないでください」と言って自分でもちょっと笑う。
「ここは飛ばしてもいいですか?あ、いい?ちょっとわからなくなっちゃうかもしれませんよ。え?そんなことはいい?そうですか。ここを飛ばすと短くなって1時間ぐらい短縮しちゃうかも。それでも黙って帰られるんですね?そうですか」
ちょっと黙った後に「言ってみるもんだ」。
さらに「じゃ、やっぱり次回も来てください」。

ぶわはははは!
普段寄席ではまくらも振らずに噺だけやってすっと帰るかっこいい師匠だけど、お茶目なんだなぁ。
話さなくてもその人柄がにじみ出てるから「もっと見たい」という気持ちにさせられたんだなぁ。

そんなふうにして始まった「船徳だったんだけどこれがもう楽しい楽しい。
船頭になりたいと言い出す若旦那が披露目をやろうと言うのもおかしいし、若い衆を呼び出しに行く女中も、親方が呼んでるから小言だ!と言ってさぐりあう若い衆も、生き生きしていてすごく楽しい。
また船に乗る蝙蝠傘をもった男と船を怖がる男の会話もすごく楽しくて目に浮かんでくる。

船に乗ってからも若旦那がどんどんいやになってくる様子が楽しく、「世話のやける船だなぁ」「手数がかかるねぇ」と言いながら手伝ってやる客がおかしい。
到着して男が「苦労しただけに喜びもひとしおだな」とつぶやいたのがめちゃくちゃおかしくて大笑い。
最高に楽しい「船徳」だった。

素敵だなぁと思いつつ自分にはハードルが高いかもとちょっとドキドキして行った会だったんだけど、ほんとに最初から最後まで楽しくて面白くて笑い通しだった。
小のぶ師匠、すばらしい!
また会があったらぜひ行きたい。