りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

柳家小さん十三回忌追善興行 小さんまつり

神保町で鯉八さんを見たあとは新宿3丁目に移動して「柳家小さん十三回忌追善興行 小さんまつり」の初日へ。
開演の一時間前に着いたのにすでに末廣亭の前は人だかり。整理券をもらってくださいと言われ取りに行くと180番代。うへぇ。
みなの目当ては小三治師匠だろう。今更ながら小三治人気を目の当たりに…。
これは立ち見になってしまうかもと思ったのだが、どうにかぎりぎり桟敷席に座ることができた。

・小燕枝・さん喬 口上
・さん福「ひと目上り」
・遊平かほり 漫才
・市馬「南瓜屋」
・三寿「うわばみ飛脚」(?)
・小里ん「千早振る」
・小燕枝「強情灸」
・小ゑん「下町せんべい」
・馬楽「深川」(踊り)
・小さん「一眼国」(?)
馬風 漫談
〜仲入り〜
馬風小三治・市馬 当代、先代会長放談
花緑祇園祭
・小菊 俗曲
小三治「欠伸指南」

さん福師匠「ひと目上り」
初めて見た師匠。
「そうか、それでこの落語はひと目上りっていうんだな」には笑った。

三寿師匠「うわばみ飛脚」(?)
この師匠も初めて見た…。柳家ってほんとに奥が深いのね…。
しかもこの師匠、お囃子じゃなくて歌を流しながら歌いながらの登場。
噺も、お腹を空かせたうわばみが箱根の山道で人間を食おうと待ち構えているんだけど、そこにやってくるのがごちそうさん御一行様だったり、侍だったり、敵討ちをしようとその侍を追っている姉弟だったり…。新作?なのか?なんだかとっても破天荒だった。

小里ん師匠「千早振る」
この追善興行では毎回必ず誰かが「千早ふる」をやることになっている。
登場した小里ん師匠、「まさか最初にオチを言われてしまうなんて」。
そういえば口上の時にさん喬師匠が「(小燕枝師匠が)オチを千早の本名だ、じゃなく東亜国内航空とやった」というようなことを言っていたな…。楽屋で怒られたんだろうな…。
いつもは立派な師匠に見えるさん喬師匠が一門で集まると案外やんちゃなのがおかしい。

小里ん師匠の「千早振る」は浅草演芸ホールで見ていたのだけれど、あの時より完成度が全然高くてさすがだなぁ。大げさなところがひとつもなくてとてもフラットなのになんともいえずおかしい。デタラメな話をでっちあげる「先生」も、それを教わる熊さんも、分かっていてそれを楽しんでいるようでもある。好きだ。

小燕枝師匠「強情灸」
小燕枝師匠の「強情灸」は前にも見たことがあるけれど、何度見ても楽しい。淡々とした語りなのになんともいえないおかしさがあって大好き。

小ゑん師匠「下町せんべい」
初めて見た小ゑん師匠。落語の感想をアップしているブロガーを激しく罵倒するのでひぇ〜となる。すすすすみません。別に物申してるわけでもなければ上から目線で批評しているわけでもなく単なるど素人の感想なので見逃してください。ドキドキ。
でも「落語の部屋」ってタイトルに扇子のアイコンがぱかぱか開いたり閉じたりしてるっていうのはいわゆる最初の頃のホームページ。ちょっとイメージが古いような…。

小さん師匠「一眼国」(?)
十三回忌ということで「どんな父親でしたか」とか「師匠としてどうでしたか」と聞かれることが多いのだけれど返事に困る、と。
そんな時思い出すのは葬儀の時に小三治師匠がしたあいさつ。小三治師匠は納骨所での出来事などを話したあとに、小さん師匠の骨を見たときに「ああ、ついに師匠もこんな姿になっちまったか」と悲しくなるとともに、「ものすごく立派な骨でさぞやうまいスープができるだろうと思った」と。そのときは何を言い出すんだか、と思ったけど、今になるとあの言葉を不思議と思い出すんだ、と。

この仕事をしていていいことはいろんな土地を訪れることができること。普通の人だったら見られないような特別な場所に入れてもらえることもある。また贔屓にしてくれるお客さんがご馳走してくれたり泊めてくれたりすることもある。

九州に贔屓にしてくれる社長さんがいてそこに泊まった時に、朝ごはんの支度を早くしろと社長が家の者に声をかけたあとに、「師匠は日本全国旅をしていろいろ面白いことは怖い目にあったりもしているでしょう。そういうことを何か教えてください」と。
「いや別にそんなこともないですよ」と言うと「そんなことはないでしょう」「噺家たるものそういう話もできないでどうする」としつこい。これじゃあまるで落語の「一眼国」だよ、と思い、苦し紛れに自分が見てきたかのように「信州に行った時に道に迷って…そこで一つ目を見たことがある」と話した。
「それは面白い」と社長が喜んでくれたのでほっとしたのだが、何年かして社長宅を訪ねてみると、社長が話を聞いて信州に一つ目を探しに行ったっきり行方不明になったと聞かされた、と。

淡々とした語りでどこまでが本当でどこからが嘘なのかわからなくてぞくぞくっとなった。すごく面白かった。

馬風師匠・小三治師匠 当代、先代会長放談 司会:市馬師匠
これがもうとっても楽しかった。きっとこの対談目当てで来た人が多数いたと思う。
最初はぶすっとしていた小三治師匠が、市馬師匠に話を振られて話し出したら会場はもう大爆笑。
小三治師匠の結婚式の時に、小さん師匠のおかみさんが得意の三味線で謡を始めて、キーも高くて小三治師匠もついていくのが大変で、それなのに調子に乗ったおかみさんが「ほれ!ほれ!」と次々曲を進めていくものだから、小三治師匠がしまいには「おれは馬じゃないんだ」と怒った、というのがもうおかしいおかしい。
馬風師匠と小三治師匠はきっと気が合わないんだろうなぁと見ていると思うのだけれど、それでも同じ師匠の下について何年も一緒に過ごして、その頃のことを話し出すとなんかやんちゃな顔に戻るのが、なんともいえずよかった。

小三治師匠「欠伸指南」
前座の頃、小さん師匠と旅に行ったとき。昼寝を始めた小さん師匠のいびきが酷い。普段からいびきが大きいのだが、いびきは体に良くないというし、見ていると呼吸も苦しそう。なんとかしていびきを止めてやることはできないかしらと考えて、恐る恐る枕の位置を少し変えてみたけれど、それぐらいのことで止むようないびきではない。
それならこれでどうだ?と小さん師匠の頭の位置をちょっとずらしてみたらいびきが小さくなった。
しめた!と思っているとまたしばらくするといびきをかきはじめる。また頭の位置をずらしてやると止まる。またいびき。またずらす。
何回かやってるうちに師匠が目を覚まして小三治師匠に向かって「おい。お前、寝ている俺を殴っただろう」。

そんなまくらから「あくび指南」。
小三治師匠の「あくび指南」は何回も見ているけれど、なんともいえず良かった。
がさつだけど、家の造りに見惚れたりおいしいタバコに感心したりと風流なところもある八五郎。
呆れながらも相手をしてくれるあくびの先生。できないながらも教わろうとする八五郎。
お金もないのに次々お稽古事に首を突っ込む八五郎がなんともいえず可愛い。

二人のやりとりに会場がどっと沸いて温かい空気に包まれてなんとも幸せな時間だった。