りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

炎上する君

炎上する君

炎上する君

★★★★★

私たちは足が炎上している男の噂話ばかりしていた。ある日、銭湯にその男が現れて…。何かにとらわれ動けなくなってしまった私たちに訪れる、小さいけれど大きな変化。奔放な想像力がつむぎだす不穏で愛らしい物語。

偶然同じような時期に読んで大好きになったのが、多和田葉子西加奈子の2人。この2人についてはなんか全面的圧倒的に好きになってしまったので、もしかするとこれから先何を読んでもまともな判断はできず全部好きとにかく好きと書いてしまうかもしれない、という気がしている。
多和田葉子は、ストーリー云々ではなく押したり引いたり明確になったりぼやけたりするそのバランスがとても好み。
西加奈子は、ストーリーと言葉がハートにダイレクトにくる感じ。

これは8つの物語が収められた短編集。
どれも好きだったけど、「空を待つ」が一番グッときた。
作家の「私」がある日携帯電話を拾う。早朝の散歩をしている最中に拾ったので交番に届けることをせずになんとなく家に持って帰る。すると次の日その携帯にメールが届く。
送信者はあっちゃん。「起きてますか?」というとりとめのないメールだったのだが、思わず「起きてますよ」と返信をすると、「よかった!今日もがんばろうね」と返信が来る。
最初はちょっとしたいたずら心だったのだが、徐々にあっちゃんからのメールを心待ちにするようになる「私」。
ありきたりな励ましにも思えるあっちゃんのメールに励まされ一人ぼっちじゃない気持ちになる。

そこには長いこと一人ぼっちな気持ちで暮らしていた「私」、それが当たり前で何も感じなくなっていた「私」がいて、だからこそ拾った携帯で見知らぬ「あっちゃん」からのメールに励まされそのメールを心の拠り所にしてしまうのだ。
「会いたい、どこにいますか?」
そう送ってしまう気持ちの切実さが胸にせまって、思わずぶわっと涙が出てしまった。
この気持ち、私知ってる。わかる。そう感じさせる吸引力がある。

表題作もとても面白い。
「炎上する君」とは、比喩でなくて本当に足が炎上している男、なのである。
そして主人公が親友と組むバンド名が「大東亜戦争」。読んでいて何度もぶわははっと笑った。
非モテ道を生真面目にストイックに歩いてきた「大東亜戦争」の2人が、恋という戦闘に向かうラストがとても爽やかで気持ちいい。