りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

ティンカーズ

ティンカーズ (エクス・リブリス)

ティンカーズ (エクス・リブリス)

★★★★★

引退後、時計の修理屋を営むジョージ。死の床にある彼の脳裏を、行商人だった父との記憶、人生の幾多の場面が去来する。デビュー作にしてピュリツァー賞を受賞した、胸を打つ小さな大傑作。

死の床についている80歳のジョージ、その父ハワード、そして牧師だった祖父。3代にわたる父子の物語を軸に、時計修理の手引書やハワードが書いた文章も織り交ぜられる。

とても面白かったのだが、近づいては離れていくような、大きな風景を映し出したあとにミクロの世界に連れて行かれるような、不思議な感覚。
人間だけが物語の中心ではなくて、自然や動物や時計も同じように物語の主役なのだ。だからもっとハワードの物語の奥深くに入ってほしいと思いながら読んでいても、はぐらかされるように視線はそらされる。

死に向かっていく物語なのだが、そこに空しさはない。
自分の前には父がいて、その前には祖父がいて、みな自分の人生をつむいできたティンカーズ(「ティンカー」は修理したりいじくりまわしたりすること)だ。
胸にしまいこんだ出来事、後悔、記憶。それらを抱えて生きてきて死んでいく。自分は死んでも、きっと誰かの記憶に残り続いていく。

ラストシーンがとても素晴らしくて、とても満足な気持ちで本を閉じた。