りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

哀れなるものたち

哀れなるものたち (ハヤカワepiブック・プラネット)

哀れなるものたち (ハヤカワepiブック・プラネット)

★★★★★

作家アラスター・グレイは、グロテスクな装飾の施された一冊の書を手に入れた。『スコットランドの一公衆衛生官の若き日を彩るいくつかの挿話』と題されたその本は、19世紀後半のとある医師による自伝だった。それは、実に驚くべき物語を伝えていた。著者の親友である醜い天才医師が、身投げした美女の「肉体」を救うべく、現代の医学では及びもつかない神業的手術を成功させたというのだ。しかも、蘇生した美女は世界をめぐる冒険と大胆な性愛の遍歴を経て、著者の妻に収まったという。厖大な資料を検証した後、作家としての直感からグレイはこの書に記されたことすべてが真実であるとの確信に到る。そして自らが編者となってこの「傑作」を翻刻し、事の真相を世に問うことを決意するが……。虚か実か? ポストモダン技法を駆使したゴシック奇譚。

あんまり評判がよろしくないようだけど、私は結構好きだったなー。「ラナーク」に比べるとスケールは小さいけれど、その分焦点が絞られていて読みやすい。そしてこれも「ラナーク」同様、本の中の本の話。
そしてアラスター・グレイという人は、何だかよくわからないけど気持ち悪くてグロテスクででも妙に興味をそそるものが好きで、細部まできっちり描くのが好きで、読者をだますのが好きなのだと思う。そしてその面白気持ち悪いところが、私も結構嫌いじゃないんだな。

この小説の中で展開される小説の著者である医師マッキャンドレスは、ある日親友である醜い天才医師ゴドウィン・バクスター(ゴッド)に恐るべき事実を教えられる。
身投げして完全に死亡してしまった美女を、自分の手術によって蘇らせたというのである。そして身体は大人だけれど、中身はまだ赤ん坊のこの美女ベラを、自分の手で教育し育てるのだと言う。
現代版フランケンシュタイン?それとも、身体は大人で中身は子どもの美女を自分の好きなように育てていいようにしようという、おやじ’S dream?!

ベラとマッキャンドレスは恋におち結婚を約束するのだが、ベラは婚約中の身であるにもかかわらず、弁護士ダンカンと駆け落ちしてしまったとマッキャンドレスに告げるゴッド。
ベラの身を案じる2人の男のもとへ、当のダンカンとベラから手紙が届く。2人の手紙は微妙に食い違っていて、どちらが本当のことを言っているのか?真実はどこにあるのか?よくわからないまま、2人は破局し、ベラが戻ってくる。

なにせ「ラナーク」で、これでもかこれでもかとだまされたので、ダンカンとベラの駆け落ちというのはきっと嘘なんだろうと思って読んでいた。これはゴッドの企みだろう、と。
しかしそう思っているうちにベラも帰ってくるわ、物語はどんどん進んでいくわで、うわ、なんだ、そうだったんだ!と思いながら読みすすめていくと、最後にどかーん!!!そしてこのマッキャンドレスの本を紹介する作中作者アラスター・グレイの脚注を読んでまたどかーん!

…ってこんな書き方じゃ何がなんだかわからないって…。
いやでも読んでびっくりが小説読みの醍醐味だから…。
まあ好みが分かれる作品ではあるだろう。でも私は面白かったなー。わけわかんないけどやっぱり面白い。この人の作品は翻訳されたら必ず読もう。
以下はネタバレ。










「ラナーク」でもそうだったけど、やっぱりこの小説でも最後はどんでん返しが用意されていた。
マッキャンドレスが書いた著書の後に、ベラが孫に宛てて書いた手紙が掲載されているのだ。そこに書かれていたのは、それまでの物語とは全く違った物語。あーなんだこっちが真相だったのか。こうやって必ず「楽屋落ち」にしないと気がすまないのね…。
と思わせて、その後に展開されている脚注を読むと、またそこにはベラが手紙に書いたのとは違った事実が…!

これでもかこれでもかとどんでん返しを用意するあたり、ディーヴァーにも似たサービス精神さえも感じる。
私は作者が顔を出す小説はあんまり好きじゃないんだけど、まあこれはこれでありかな、と思った。