りつこの読書と落語メモ

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くじ

くじ (異色作家短篇集)

くじ (異色作家短篇集)

★★★★★

町中の人が集う広場で行なわれるくじ引きで、いったい何が決まるのか-。表題作「くじ」のほか、人間の残酷さを抉り出し、読む者を狂気の世界へ誘う21編を収録した短篇集。

詠み始めは、みんなが「怖い怖い」言うけど、そんなに怖くないじゃん?と思っていたんだけど、3作目あたりからだんだん怖くなってきた。(ちなみに私が読んだのは昭和51年に刊行された版なので、最近刊行されている版とは題名が違っているかもしれない?)
小さなアパートメントの壁や家具を自分の好きな色のペンキで塗って、少ないお給料をやりくりして銀器を1つずつ揃えて、毎日きちんと整えて。家っていうのは自分にとって唯一揺るぎない場所っていうか、侵されるべきじゃない場所なのだ。そこが脅かされる恐怖。ほんの小さな出来事のように思えるけれど、こういうことが自分に起こったら簡単に気が狂うかもしれない。そんな恐怖。

「背教者」の、引っ越した先の田舎の人たちの悪意。もしかしたらそれほど大きな悪意じゃないのかもしれない。小さな悪意。でもそれがじわじわ自分を蝕んでいく感じ。この鳥の味を覚えてしまった犬と、双子の子どもがすごく嫌だ。ぞぞっとする。

「対話」も短いけれど、なんかとてもよくわかる怖さ。ヒステリーをおこしているアーノルド夫人が、自分に見えてくる。私もこういう風にして気が狂うんじゃないだろうかと思えてくる怖さ。

表題作の「くじ」も怖い。これは本当に怖い。みんなが「これ本当におかしいよなぁ」「もうこんなことやってる村はないよなぁ」と思いながら、そしてそう言いながら、やられるのが自分じゃなければまあいいや、と愉しむ…この小さな悪意や鈍さやサディスティックで暴力的なよろこび。

シャーリー・ジャクスンは以前「ずっとお城で暮らしている」「たたり」「野蛮人との生活」を読んだことがあったのだが、絶賛する声が多いので本当に久しぶりに読んでみて、50年以上前の作品なのに全く古びていないことに驚いた。
一番怖いのはお化けじゃなくて悪意だ。シャーリイジャクスンは悪意の描き方がとてもうまい。普通の人たちの普通の会話や行動に隠された悪意や残酷さ、そしてそれを面白がるさらに名もない人たちの異様さ。それに対峙した時の無力感と敗北感。ああ、怖い…。