りつこの読書と落語メモ

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とうもろこしの乙女、あるいは七つの悪夢 ---ジョイス・キャロル・オーツ傑作選

とうもろこしの乙女、あるいは七つの悪夢 ---ジョイス・キャロル・オーツ傑作選

とうもろこしの乙女、あるいは七つの悪夢 ---ジョイス・キャロル・オーツ傑作選

★★★★★

美しい金髪の下級生を誘拐する、有名私立中学校の女子三人組(「とうもろこしの乙女」)、屈強で悪魔的な性格の兄にいたぶられる、善良な芸術家肌の弟(「化石の兄弟」)、好色でハンサムな兄に悩まされる、奥手で繊細な弟(「タマゴテングタケ」)、退役傷病軍人の若者に思いを寄せる、裕福な未亡人(「ヘルピング・ハンズ」)、悪夢のような現実に落ちこんでいく、腕利きの美容整形外科医(「頭の穴」)。1995年から2010年にかけて発表された多くの短篇から、著者自らが選んだ悪夢的作品の傑作集。ブラム・ストーカー賞(短篇小説集部門)、世界幻想文学大賞(短篇部門「化石の兄弟」)受賞。

ジョイス・キャロル・オーツって前に読んで挫折したよなぁ…苦手なんだよなぁ…と思っていたのだが、どうやらアンジェラカーターと間違っていたようだ。
自分のブログを検索したら「居心地の悪い部屋」が出てきた。ああ、あれは確かに面白かった!

「七つの悪夢」ということでまさしく悪夢のような7つの短編が収められている。
中でも表題作「とうもろこしの乙女 愛の物語」が全体の1/3ぐらいのボリュームを占めていて、ものすごいインパクトを残す…。

金髪の美しい下級生マリッサを誘拐する、同じ私立中学校に通う女生徒三人組。その中心人物であるジュードはマリッサのことを「とうもろこしの乙女」と呼び、自分の家の地下室に閉じ込めて、ある儀式を行おうと企んでいる。
ジュードの側の理屈は悪魔的で実に恐ろしいのだが、これに気づいて止める大人がいないことにもぞっとする。
またマリッサの母リーアは警察に電話をした瞬間に被害者の母であると同時に加害者のように扱われ、あらゆるプライバシーが世間の目にさらされる。
そして容疑者としてとらえられた教師ザルマンも幼児愛者であるかのようにマスコミに報道され、証拠不十分で釈放されたものの、もう元の生活に戻ることはできない。

サスペンスとしての面白さもさることながら、それぞれの心理状態が実にリアルで恐ろしく、こんなにも簡単に私たちの幸せは奪われてしまうものなのか、こんなにも脆いのか、とぞくぞくする。
嫌な話なのに美しくもあるのが怖い。

登場人物の憎悪がこちらにも乗り移ってくるような「ベールシェバ」、双子の愛憎を描いた「タマゴテングタケ」、猟奇的なのに何故か笑える「頭の穴」も良かった。
しかしこの悪夢のような作品群。妊婦さんは絶対に読んじゃイケマセン。