りつこの読書と落語メモ

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ミノタウロス

ミノタウロス

ミノタウロス

★★★★

革命。破壊。文学。
「圧倒的筆力、などというありきたりな賛辞は当たらない。これを現代の日本人が著したという事実が、すでに事件だ」福井晴敏
20世紀初頭、ロシア。人にも獣にもなりきれないミノタウロスの子らが、凍える時代を疾走する。文学のルネッサンスを告げる著者渾身の大河小説。

久しぶりに読んだ日本の作家。とにかくひたすらに驚いた。物語に圧倒され、そして呑み込まれた。なんだ、なんなんだ、これは。これを日本人が書いたのか?スケールの大きさと圧倒的な物語にただただ唖然…。

二十世紀初頭のウクライナ農奴として生まれたオフチニコフは、酒場で他の客から施しを受けていた男から、土地を譲りうける。男はオフチニコフが「金を払う」と言ったが「君には無理だ払えない」と答え、「君の子どもたちなら払ってくれるだろう」と言い残し、次の日首を括る。

物語はオフチニコフの次男ヴァシリによって語られる。
地主の子どもとして生まれ幼い頃から本を読み教養もあるのに、学校では勉強ができないふりをして無気力に振舞うヴァシリ。一方、母親に似て美しかった兄は戦争に行って顔を失って戻ってくる…。

父親が死に、母親はもともと存在していないも同然で、ヴァシリは隣に住む大地主シチェルパートフの手伝いをしながら、父親と同じく地主としての道を歩み始めるのだが。ようやく芽生えたかと思われた友情も恋愛も自らの手で破壊していくヴァシリ。そのうち内戦が始まり、土地も家も奪われたヴァシリは村を出て略奪と殺戮を繰り返していく…。

状況が過酷になっていくにつれて、人間と獣の境界を超えていくヴァシリ。まるで感情がないわけではないのだ。嫌悪を感じたり悲しみを感じたり惨めさを感じたりすることはあるのに、しかし愛が一切感じられない。いや彼は愛する者を殺すことでしか自らを生かしていくことができないようにさえ見える。

人間を人間の格好にさせておくものが何か、ぼくは時々考えることがあった。

最初から最後までヴァシリのことを好きになれなかった。あまりにも残酷で醜悪だ。
そして、好きか嫌いかと聞かれれば決して好きな小説ではなかった。救いがなさすぎる。
人間と人間が躊躇いもなくお互いを殺しあう光景を「美しい」と感じるヴァシリ。彼はもう人間ではなくなっているのだと思った。なのにヴァシリに哀れを感じてしまうのはなぜなんだろうか。読み終わった時、醜悪な場面ではなく美しい場面が頭に残っているのはなぜなんだろう。