りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

末廣亭8月中席昼の部

8/11(木)、末廣亭8月中席昼の部に行ってきた。

・かん橋「寿限無
・夏丸「つる」
・章司 江戸売り声
・柏枝「猫と金魚」
・夢丸「味噌豆」
・ひでや・やすこ 漫才
・伝枝「壺算」
・歌助「桃太郎」
・真理 漫談
・昇之進「取り調べ中」
・紫「出世の馬揃い」
東京ボーイズ ボーイズ
・南なん「不動坊」
~仲入り~
・可楽「景清」
・喜楽・喜乃 太神楽
柳橋「替わり目」
・アロハマンダラーズ 大喜利ハワイアン

夏丸さん「つる」
間に昭和歌謡をたっぷり歌ったりしてサービス満点の「つる」。
オスの鶴がつーーーっときてぽんと止まって、メスの鶴がるーーーっと飛んでくるっていうところでどっと笑いが起こったのを久しぶりに見た気がする。
体全体を使って長い腕をすーっと動かすから立体感が出て鶴が飛んでくる様子が浮かんでくる。所作ってすごく大事なんだなぁ。
あと隠居さんの「面白いことを言うぞ」という表情と間で笑った。
いつ聞いても面白くない噺だなぁと思ってしまう「つる」なのだが、久しぶりに面白かった。

 

柏枝師匠「猫と金魚」
この間上野広小路亭で見てから好きになったこの師匠。
淡々としてるのに不意打ちで面白いからぶわはっ!!と笑ってしまう。
番頭さんをとにかく気の利かないおっちょこちょいに描く噺家さんも多いけれど、柏枝師匠の場合は主人と番頭の仲が最初からこじれていて、番頭がムキになっておかしな行動をとってしまっている。面白い。
最後までやらず、猫が金魚鉢に手を突っ込んでいる、というところでまたアッと驚くようなサゲ。
なんじゃこりゃー。
ますますこの師匠のことが気になってきた!

夢丸師匠「味噌豆」
出てきただけでぱーーーっと高座が明るくなって思わずにこにこしてしまう。ほんとに夢丸さんは太陽のような人だ。

幼稚園寄席のまくら。
先生から「所作の説明をお願いします」と言われてやるのだが子供は3分もすると飽きてしまう。
飽きたときの第一段階が足がぷらぷらしだす。自分はこれを初期微動と呼んでいる、に大笑い。
第二段階で頭がゆらゆら。
第三段階で「つまんない!」と先生に言いつける。こうなったらおしまいです。こうなる前に手を打たないと。

たっぷりのまくらから「味噌豆」。
夢丸師匠の定吉はほんとにかわいい。かわいいからブラックなことを言ってもそれが全然嫌味にならない
豆を食べ始めて止まらなくなってどんどん食べ方が激しくなるのがめちゃくちゃ面白い。
トイレのドアを閉める音がすごく丁寧なのもアクセントになっていて、すばらしい!
ほんとに楽しい「味噌豆」だった。

東京ボーイズ ボーイズ
何度も見ているけどいつ見ても楽しくて大好き。
謎かけ問答で必ず新しいネタを入れてくれるのも嬉しいし、テッパンネタはいつ聞いても笑える。
特に菅六郎先生がかわいくてたまらん!

南なん師匠「不動坊」
楽しかった!
南なん師匠の「不動坊」は前に末廣亭で一度見たことがあるんだけど、その時より格段面白かった!お客さんと波長がぴったり合う感じで気持ちいい~。

あこがれのおたきさんとの結婚を大家さんから言い出されて浮かれる吉さん。
嬉しくて鉄瓶を持ってお湯屋に行きそうになったり、湯屋番にのろけを言ったり。
お風呂の中での妄想も、「熱いって言ってるよ」「まだ埋まらないってよ」とほかの客が声をかけるタイミングが絶妙ですごく楽しい。
嫉妬して幽霊を出そうと相談する3人組も情けなくて楽しい。
幽霊役の前座がいかにもまぬけで調子が良くて出てきただけで笑ってしまう。

屋根の上でのやりとりも、バカ呼ばわりされたまんさんが「お前らだってバカじゃねぇかよ。そうじゃなかったら幽霊出そうなんて考えるかよ」と言うのがおかしくて大笑い。
幽霊役をやりながらもいちいち「なんで(出てるん)でしたっけ?」「そうなんですか。ちっとも知らなかったもんですから」と反応する前座がおかしい。

登場人物それぞれが生き生きしていて楽しい「不動坊」だった。
満足!

可楽師匠「景清」
寄席には仕事で来てるんじゃない、リハビリで来ている、と言う可楽師匠。
目が悪くなって片目は全く見えず、もう片方はぼんやりとだけ見える、と。
子供のころから目が悪い人は勘がいい。若いころに目が悪くなった人は体力がある。自分は年をとってから目が悪くなったので勘も悪ければ体力もなくて最悪。
今は外出する時にはヘルパーさんに付き添ってきてもらっている。そうしないとどこにも出られない。

そんなまくらから「景清」。
「おもしろい噺じゃないですよ」の言葉通り、淡々とした展開にそれまで陽気だった客席が静まり返る。
だけど決して陰気ではなくて、投げやりのようだけど負けん気が強くてちょっとひねくれ者の定さんのキャラクターが、可楽師匠とも重なってもうなんともいえない気持ちに。真に迫るとはまさにこのこと。
なんかすごいものを見たなぁという気持ちでいっぱいだった。

アロハマンダラーズ ハワイアン
新メンバー夏丸さんが波の音をやったりマラカスを振ったり自慢ののどを聞かせてくれたりと大活躍。
小柳枝師匠がいらっしゃらないのは寂しかったけど、可楽師匠と夏丸さんのデュエットも聴けて楽しかった!

柳家さん助の真夏の夜の夢

8/6(土)赤坂峰村で行われた「柳家さん助真夏の夜の夢」に行ってきた。
この日は昼間日暮里のスケスケ落語会に行き、その後こちらの会というダブルヘッダー。最初はスケスケは無理かなとあきらめていたんだけど、日暮里と赤坂って意外と近い!ということに気づいて両方行くことに。
しかしほんとに時間ギリギリ。しかも圧倒的な方向音痴。ナビが「目的地に到着しました」と告げてもまだ店が見つからない。ぎゃーーどこーーー!!と焦った焦った。どうにか間に合ったのでよかった。

・さん助「宮戸川(上)」
・さん助「もぐら泥」
・さん助「宮戸川(下)」

さん助師匠「宮戸川(上)」
例によって立ち話。福岡に行った時、主催者さんが気を使って人気の店に連れて行ってくれたんだけど定休日。そういうこともあろうかと人気NO2の店に行ってみると、仕込みのため遠方に行っているため臨時休業。
「仕込みのため遠方へ」というのがツボだったらしいさん助師匠。
いいですね。わたしも使ってみたい。自分の落語会の会場に「仕込みのため遠方へ行ってるためお休みします」。

そんな立ち話から座布団に座った途端「宮戸川(上)」。さん助師匠がこの噺をやるイメージがなかったのでびっくり。でもさん助師匠だからもしかして通しでやるような予感が…。
寄席でよくやられているのとはかなり違う。
はんちゃんが叔父さんのところに行こうとするんだけどお花ちゃんに「あそこは結構さびしいところで怖いわよ」と言われて「怖いよ…一人で行きたくないよ」とはんちゃん。「だったら私も一緒に行ってあげる」と言って手をつないで行くとか、またおじさんの家の戸を叩いて開けるのがおばさんだったりするのも他の人では聞いたことがない。
二階で二人きりになってからの展開もあっという間だったので、おお、これはやっぱり通しでやるんだな、と確信したところで、噺を途中で止めて「あの…これ通しでやるんですけど、後半はかなり陰惨です。」とさん助師匠。「話し始めて、ああこの感じはこれをやるところじゃなかったなと気づいたんですけど…やりますよ!もうやっちゃいます!でも続けてやるとしんどいので途中でちょっと違う噺をはさみます」と。

さん助師匠「もぐら泥」
8/8(月)1時からのラジオ深夜便でさん助師匠の「もぐら泥」が流れるらしい!
でも後から気づいたんですけどこの噺ってしぐさが多くてその間沈黙になっちゃうんです。ラジオに向かない噺でしたね…。今からやりますからこれを頭に入れて起きていられたらラジオ聞いてください。1時なので起きてるの大変かもしれませんが。そこまで頑張って起きていても私の落語を聞いたら寝ちゃうかもしれませんが。

そんなまくらから「もぐら泥」。
確かにしぐさと沈黙が多いので、これをラジオでやったのかとおかしくてしょうがない。
間に別の噺をはさんで上下通しでやるってどうよ?と一瞬思ったのだが、これすごくよかったかも。なんか笑ってその後の陰惨な展開への覚悟ができたというか。

さん助師匠「宮戸川(下)」
下は前に一度か二度聞いたことがあるだけだけど、聞いているとどんどん怖い顔になってしまう。浅草にお参りに行く途中で急な雷雨が来て小僧が店に傘を取りに行っている間に近くで雷が落ちてお花が気を失ってそこをならず者が通りかかる。最初は介抱してやろうと思った二人の男、じっくりとお花を見ているうちにひとりが「こんな女と一生涯寝ることはできない」と言い出し、二人で人気のないところに連れて行って介抱してからなぐさみものにしてやろうということになる。
お花の行方がわからなくなり探しても探しても見つからずついには諦めて弔いを済ませた半七。たまたま乗った船に同乗してきた男が自慢話のようにしてお花を二人で犯したあげく殺した顛末を話し始めるのだが、これがなんか今まで聞いたのとは印象が違っていた。
この男は前にお花の実家の船宿で船頭をしていて、きれいで誰にでも優しいお花のことを悪からず思っていた。自分が襲おうとしている女がお花だとわかり、お花さんにそんなことはできない!と思うのだが、そのお花がバカにしたようにケタケタと笑ったので、屈折した気持ちに火がついて殺してしまった、と。
ここまで聞いてこの男は自慢話をしたかったのではなく、自責の念にかられて精神の均衡を崩しているのだ、ということがわかる。

そしてこの話を半七が聞いたところで芝居調になるのだが、いやぁ…かっこよかった、これがもうびっくりするほど。さん助師匠のたらーと流れる鼻水も気にならなくなるほどに(笑)。
そしてサゲも変わっていて、これがまた独特の後味を残す。良かった、というだけじゃなくて、ちょっとぞくぞくっと…。

こういう陰惨な噺って好きじゃないんだけど、面白かった。やっぱりさん助師匠って文学的なんだな。そこに私は惹かれるのかな。

第三回雷門小助六 雷門音助 スケスケ兄弟会

8/6(土)、日暮里サニーホールで行われた「第三回雷門小助六 雷門音助 スケスケ兄弟会」に行ってきた。

・晴太「寄合酒」
・音助「春雨宿」
・小助六「死神」
~仲入り~
・トークコーナー 小助六師匠、音助さん
・小助六「馬大家」
・音助「宮戸川(上)」

晴太さん「寄合酒」
この間国立で見て面白い!と思った前座さん。
前座さんらしい大きな声の素直な落語なんだけどところどころキラっと光る面白さが。隣に座っていた友だちが何回か「あれ?」という感じに身を乗り出していて、「面白いでしょ、この人」と自分の手柄のように鼻の穴を膨らませて言ってしまった。

音助さん「春雨宿」
とある師匠に頼まれて九州で行われる子ども落語の審査員をしてきた。
小学生の部と中、高校生の部に分かれているんだけど、これが驚くほどうまい。行く前は「声をもう少し大きく」とか「滑舌をよく」みたいなことを言えばいいだろうと思っていたんだけど、みんなそんなレベルはとっくに超えていて、気が付いたら「上下をもう少しこういうふうに大きく振った方が奥行きが出る」とか普段自分が師匠方に言われてることを言っていた。
そんなまくらから「春雨宿」。

江戸っ子二人組が君塚温泉を目指して歩いているのだが途中の宿であとどれぐらい距離があるか聞いてみるとまだまだたどり着けそうにないのでそこの宿に泊まることに。
汚い宿で女中の訛りがひどい。名前をきけば「ケメ子」。「ケメ子?」「んだ。ケメとボクのケメ」。
途中ですごくなまった歌が入ったり、女中をからかうつもりが逆にからかわれていたり、とにかく最初から最後までバカバカしくて楽しい噺だった。
そしてなんかきちんとしたきれいな落語をやる人という音助さんのイメージが(いい意味で)裏切られて、楽しかった~。

助六師匠「死神」
助六師匠が「死神」!フツウの噺もやるんだ(←失礼)!
医者じゃなく行者になるというのは初めて聞いたけどそれ以外はフツウの死神。
テンポが良くて軽めの「死神」だったんだけど、地下に入って行くところでいきなり電気が消えてびっくり!そしてサゲにも…。

トークコーナー 小助六師匠、音助さん
3回目にしてすでにネタ切れということでお客さんからアンケート(質問)を募ってそれに二人で答えるというスタイル。
私の質問「ポケモンGOはやられてますか?」には二人とも「NO」だった。やっぱりね…。でも小助六師匠が「やると絶対にはまりそうなので手を出さないようにしてる」というのはちょっと意外だった。

あとは音助さんの結婚や小助六師匠の結婚しない話が多かったかな。小助六師匠の潔癖症の話が出た時に小助六師匠が「あーだから結婚できないんだ、っていう目で見てる!」って言ったのに大笑い。

助六師匠「馬大家」
馬が大好きな大家さんに馬尽くしのこたえをする、というだけの噺。こういうばかばかしい話好きだー。
助六師匠って上下の振り方が柔らかくてそれが見ていてすごく心地いいんだなぁ。
見たい見たいと思いながらなかなか見に行けなかった小助六師匠を二日連続で見られて満足!

珍品変品の会

8/5(金)、上野広小路亭で行われた「珍品変品の会」に行ってきた。
好きな師匠が3人出て、演じ手の少ない珍品落語をやるという夢のような企画。

・伸力「道灌」
・小助六薙刀
・蝠丸「忍びの医者」
~仲入り~
・夢丸「三くだり半」
・座談会 蝠丸、小助六、夢丸

助六師匠「薙刀傷」

地元でカルチャースクールの落語講座の講師をしているという小助六師匠。一番の古株は子どものころから来ていてかなりの落語通。
この間も生徒たちがそれぞれ1席ずつ落語をやってその後小助六師匠が講評をし、生徒にも意見を聞いたのだが、必ず手を挙げるのがこの子ども。

「語尾に”ね”が多いのが気になります」
「着物の着方がよくないと思います」
いちいち的確なのだが「もう少し古典らしい言葉を使った方がいいです」と言ったときにはさすがに後ろに控えていたお父さんがその子の頭をぽかんと叩いた。
中に最近まだ入ったばかりの中年の女性がいて小噺を披露したのだが「今の時点ではこれぐらいでいいと思います」って思い切り上から目線…。

そんなまくらから「薙刀傷」。
若旦那が具合が悪いと聞いて呼び出された番頭の久蔵。番頭になら話をすると言っていると聞いて若旦那の部屋へ。
ここまでは聞いたことがあるような展開…と思っていると、「わかりました。ってことはあれですね。歌が必要ですね。ワタクシ用意してまいりました」と崇徳院の歌を出したり「え?ちがう?ということはこっちですね。ええ、ええ。ちょっと値は張りましたけどご用意しております」とみかんを出したり、それも違うと言われると「わかりました。でしたらこれですね。これは重かったです。」と橋の欄干を出してきたり。
おそらく小助六師匠が入れたんだと思うけど、落語好きの心をくすぐるなぁ!

浪人の娘を好きになったと聞いて「私に心得がありますのでお任せください」と言って10両をつかんで浪人の家を訪ね、身もふたもない言いようをする番頭がおかしい。
旦那に責められて破れかぶれでもう一度浪人の家に行くと、その破れかぶれが功を奏しめでたく婚礼にこぎつける。店も繁盛して万事順調だったのだがそこにある日泥棒が押し入ってきて…。
サゲは思い切りダジャレでバカバカしくて最高~。
なんかすごくこなれている感があると思ったら、もう5回ぐらい高座にかけているとか。

蝠丸師匠「忍びの医者」

今日やるお噺はまずやってるのを見たことがない。30年前にとある師匠からちゃんと教わった噺なんですが、それから一度もやってなかった。ほったらかしにしてた。
今回「珍品」といったらこれかなとネタ出ししたものの、後からこれはやめておけばよかったと後悔した。
でもそろそろ稽古しないといけないと思いまして。私たいてい夜に石神井公園の川の周りを歩きながら稽古してるんですね。人もいないのでわりと大きな声を出したりして。
そうしたらこの日は後ろからついてくる足音がするんですね。それが私が止まると止まる。ちょっと怖いなと思ってまた稽古しながら歩き出してちょうど噺の切れ目だったので止まって後ろを振り返ってみたんです。そうしたらそこにいたのは60代ぐらいの女性で。「今やってたのは落語ですね?」と話しかけてきた。

いろいろ話してみたらその人は地元で素人を集めて「落語研究会」というのをやっていて老人ホームに慰問に行ったりしてるらしい。「あなた筋がいいからお入りなさい」と言われて、私気が弱いもんですから断れなくて「ええ、はい」。
すると「今度集まりがあるからその時に来て。メンバーに紹介するから」
「えええ?」と思ったんですが私気が弱いもんですからそれにも「はい」。
それで出かけて行ったら、やはり60代ぐらいの男女が集まってまして。その中にいた一人が寄席によく行くひとらしく「蝠丸師匠!なんでここに?!」。
その女性は「なんて失礼なことをするんだ」と怒られてましたが、私反省いたしました。やはりもっとメディアに出ないとだめだな、と。

淡々と話すのがもうおかしくておかしくて大笑い。
そんなまくらから「忍びの医者」。
どうも体の調子が悪いと言う八つぁん。見てもらったのが名代の藪医者でそんなんじゃだめだ、私の知ってる「忍びの医者」がいるから紹介すると言われて訪ねていく。
この医者は忍法を使って体の中にいろんな動物を小さくして入れて治療をするんだけど、病気を治すかわりに必ず何か別の弊害がおきる。最初具合が悪かったのは体の中に虫がわいていたからだと言って蛙を送り込むのだが、虫は食べてくれたものの体に蛙が残ってて頭をぴょこぴょこするのを止められない。
間に師匠の好きな昔の映画の薀蓄が入ったりしてとにかくとっても楽しい。
「バカバカしいお噺を聞いていただきます」の言葉通りとってもバカバカしいんだけどすごく面白い。師匠は「だめだ、これ」と言ってたけどわかりやすく面白いからこれは絶対寄席でもかけたらいいなー。

夢丸師匠「三くだり半」
真打になって地元で落語の講師をやるという仕事が入った、という夢丸師匠。ありがたいなぁと思いながら地元の駅に降り立つとそこにはチラシが貼ってあった。
「三味線や琴なんかと違って落語は簡単にできる芸です!」とあり夢丸師匠の写真に吹き出しが書いてあり「君もすぐに真打だ!」。

…いや、真打になるのに15年かかったんですが。
というのがおかしい。

そんなまくらから「三くだり半」。
長屋に住んでいる浪人はプライドばかりが高くて仕事をせずにお呼びがかかるのを待っているだけ。かわりに妻が働いているのだが稼ぎが少ないため子どもにも満足に食べさせてやることができず井戸端で倒れてしまう。見かねた大家が握り飯を作ってあげて、浪人が字がうまいので手紙の代書をやればいいと話を持って行くのだが、最初に来た客が遊女にラブレターを書けと言うと「そんなものが書けるか!」と追い出してしまう。
次に来たのが女房に三くだり半を書いてほしいという男で最初は断るもののそれならいいかと書いてやると、次から次へと三くだり半を書いてくれという客が訪れて…という噺。
これも夢丸師匠の工夫がきいているのか、噺としても面白いし、全然「あり」な感じ。面白かった。

座談会 蝠丸師匠、小助六師匠、夢丸師匠
3人がそれぞれこの噺をどうやって見つけたかとか誰から教わったかなどを話して言い訳をするという趣旨だったんだけど、主には蝠丸師匠が言い訳をしてそれをあとの二人がなだめる、という図ですごく楽しかった。
蝠丸師匠ってほんとにあのままの人なんだなぁ…。客席に向かって素であれこれ聞いてくるのがほんとに知りたくて聞いていてそれがもうおかしくておかしくて。

この会は蝠丸師匠の気が向いたらやる会らしく、前回が6年前だったけど評判が良かったからまた次回はそんなに間をおかずにやりましょうと二人が言っても、もごもごと言って「そうしよう」とは言わない蝠丸師匠がまたおかしかった~。
すごく楽しい会だったので6年に一度と言わず、半年に一度ぐらいやってほしいなぁ。蝠丸師匠によればとにかくそういう噺を見つけないといけないのでそれがまず大変ということだったけど。

そこのみにて光輝く

 

そこのみにて光輝く (河出文庫)

そこのみにて光輝く (河出文庫)

 

 ★★★★★

北の夏、海辺の街で男はバラックにすむ女に出会った。二人がひきうけなければならない試練とは―にがさと痛みの彼方に生の輝きをみつめつづけながら生き急いだ作家・佐藤泰志がのこした唯一の長篇小説にして代表作。青春の夢と残酷を結晶させた伝説的名作が二〇年をへて甦る。  

 身動きがとれないような閉塞感に満ちているのに少しだけの希望のようなものも感じる。

底辺で虐げられながら生きてきた人間のあきらめや恨みの感情をのぞかせながらも、なににも汚されない純粋さや頑なさを持つ拓児と千夏が魅力的だ。

ドック内での組合と会社との闘争にはあくまでも傍観者でありつづけた達夫が拓児たちの人生に踏み込んで行ったのが意外でもあり感動的でもあった。
彼らを救い出すだけでなく自らも救われている。

決してめでたしめでたしではないがそれでもそこには希望の光が見える。タイトルの通りに。

映画化されているとは知らなかった。見てみたい。

赤へ

 

赤へ

赤へ

 

 ★★★★

ふいに思い知る、すぐそこにあることに。 時に静かに、時に声高に――「死」を巡って炙り出される人間の“ほんとう"。 直木賞作家が描く傑作小説集

 「死」を巡る短編集なのだがとても面白かった。

死は圧倒的でそれまでの何もかもを台無しにする力を持っている。「絶対」だと思っていたそれまでの暮らしも関係も夢見ていた未来もなにもかも。だからこそ人間は死に怯えじたばたするのだろう。

井上荒野さんの作品は時に何を伝えたかったの?と思うものもあるのだけれど、これはなんかわかるなーと思うものが多かった。「ボトルシップ」「赤へ」「どこかの庭で」「母のこと」が特に好き。

らくごカフェに火曜会 天どん・こみち二人会

8/2(火)、らくごカフェに火曜会 天どん・こみち二人会に行ってきた。

・天どん「友引寄席」
・こみち「甲府ぃ」
~仲入り~
・こみち「金魚の芸者」
・天どん「真景累ヶ淵~お累の婚礼」

天どん師匠「友引寄席」
天どん師匠の会には久しぶりに来たけど客層がちょっと変わってる?いやこれはこみちファンなのか?
楽屋のこみちさんがたてた音にすかさずつっこむ天どん師匠。
まくらの反応に不服があるのか、いやでもこれはいつも通りだったか?ぶつくさいいながら素人の落語をディスる噺をやりますよと「友引寄席」。

通りかかったセレモニーホールで素人演芸をやっていると知り軽い気持ちで入ってみると客は自分ひとり。
次々素人が出てきて、つまらない小噺をやったり、それに笑わないと意味がわからないのかと説明を始めたり「ワタシ一生懸命やったんですよぅ」と拗ねたり。
めんどくさい人たちが出てきて主人公がめんどくさがるという天どん師匠らしい新作だった。

こみちさん「甲府ぃ」
さきほどごそごそ音をさせてしまったのは大福を食べてたからでして、とこみちさん。
母乳の関係で卵を食べないようにしているんだけど、コンビニで売ってるお菓子で卵が入ってないものってめったにない
だから入ってないのを見つけるとうれしくなってついつい買ってしまいます、と。
そんなまくらから「甲府ぃ」。
豆腐屋のおやじさんがいい味を出してる。そしてこみちさんはなんといってもおかみさんがいいんだよなぁ。かわいらしくてちゃきちゃきしてて。
あんまり好きな噺じゃないけどテンポもよくて楽しかった。

こみちさん「金魚の芸者」
大好きな噺。これは小満ん師匠に教わったんだろうか。前にもいちどこみちさんで聞いたことがあるんだけど、金魚のまるっこがとってもかわいい。ばかばかしいけどちょっと色っぽくて好き好き。

天どん師匠「真景累ヶ淵~お累の婚礼」
落語でめったに寝ないんだけど、あらすじのところで撃沈…。すびばせん。

柳家小のぶ独演会

8/1(月)、お江戸日本橋亭で行われた「柳家小のぶ独演会」に行ってきた。
小のぶ師匠が「幻の落語家」と呼ばれているということを知っていつか見てみたいなぁと思っていたのだが、寄席で何回か見る機会があり、声量とは対照的に情熱的な高座に見るたびに「もっと見たい」気持ちがつのっていった。
その前に出てきた人たちがあまりぱっとしなくて客席がダレていても、この師匠が出てきて噺を始めると空気ががらっと変わって一気に落語の世界に連れて行ってくれる。
見れば見るほど好きになっていって、そんな師匠の独演会があると知ったら行かないわけにはいかない。
行ってみると会場は満員ですごい熱気。やっぱりみんな同じ気持ちなんだろう。

・市丸「狸の恩返し」
・市楽「浮世床(夢)」
・小のぶ「松山鏡」
~仲入り~
・小のぶ「船徳

 

小のぶ師匠「松山鏡」
「松山鏡」はもとはインドに伝わるお経から来ている、と小のぶ師匠。
盗人がこのまま町にいたらつかまってしまうから夜逃げをしようと思う。実際逃げたのは昼間だったので正確に言うと夜逃げじゃなく昼逃げなんですが。
すると街中で大きな箱を見つけた。
持ち上げようとするとひどく重い。
ありがたい。これがあれば逃げなくても済むと思い開けてみると中に入っていたのは鏡。当時鏡は大変珍しいものでこの男も鏡というものを知らなかった。
自分の顔がうつっているのを見て腰を抜かして「すみません!まさか入ってらっしゃるとは知らなかったもので!」
そこで笑いが起きると「…くだらないお経があったもんで」と言うのでまた大笑い。

親孝行な正助に褒美をやろうとお殿様。
何もほしくないと言う正助に「なんでも言っていいぞ」というと「一つだけあるけどこれは言ってもかなわねぇから」と正助。
「予にかなえてやれない望みはない。申してみろ」と言うのを固辞すると「はっきり申せ!」と大きな声。
正助に「死んだおやじに会いたい」と言われてそんなことは絶対無理なのに大きな声を出してしまった手前「できない」とは言えないのだ。

朝に晩にこっそり納屋に隠した鏡を見に行く正助を怪しんだおかみさんが箱の中の鏡を見つけて「おらみたいなこんなきれいな女を嫁にしておきながらこんな化け物みたいな女をかこって!」と怒るのがすごくおかしい。
また、納屋にいるのは父親と聞いた母親がいそいそと納屋に入っていき、箱を開ける前に髪の毛をなでつけてきれいにするのがとてもかわいい。
すごく楽しい「松山鏡」だった。

小のぶ師匠「船徳
長い仲入りのあとネタ出しされていた「船徳」を。
まくらを語り始めて「あれ?何をやるんでしたっけ」と言ったりしてなんとなくやりづらそうな小のぶ師匠。
いろいろうんちくを語りながらも「今日は調子が出ない」「ほんとに(ことばが)出てこない」「アルツハイマーじゃないですよ」「いや、ないとも言いきれないんだけど」と。
「ああそうだ。これは夕べ調べて急に入れたところで。やっぱり腹にないことをやるとわからなくなっちゃう」と言ったあとに「最近急にお客様がいらっしゃるようになったから…」と言うので大笑い。
「だから次回からは…来ないでください」と言って自分でもちょっと笑う。
「ここは飛ばしてもいいですか?あ、いい?ちょっとわからなくなっちゃうかもしれませんよ。え?そんなことはいい?そうですか。ここを飛ばすと短くなって1時間ぐらい短縮しちゃうかも。それでも黙って帰られるんですね?そうですか」
ちょっと黙った後に「言ってみるもんだ」。
さらに「じゃ、やっぱり次回も来てください」。

ぶわはははは!
普段寄席ではまくらも振らずに噺だけやってすっと帰るかっこいい師匠だけど、お茶目なんだなぁ。
話さなくてもその人柄がにじみ出てるから「もっと見たい」という気持ちにさせられたんだなぁ。

そんなふうにして始まった「船徳だったんだけどこれがもう楽しい楽しい。
船頭になりたいと言い出す若旦那が披露目をやろうと言うのもおかしいし、若い衆を呼び出しに行く女中も、親方が呼んでるから小言だ!と言ってさぐりあう若い衆も、生き生きしていてすごく楽しい。
また船に乗る蝙蝠傘をもった男と船を怖がる男の会話もすごく楽しくて目に浮かんでくる。

船に乗ってからも若旦那がどんどんいやになってくる様子が楽しく、「世話のやける船だなぁ」「手数がかかるねぇ」と言いながら手伝ってやる客がおかしい。
到着して男が「苦労しただけに喜びもひとしおだな」とつぶやいたのがめちゃくちゃおかしくて大笑い。
最高に楽しい「船徳」だった。

素敵だなぁと思いつつ自分にはハードルが高いかもとちょっとドキドキして行った会だったんだけど、ほんとに最初から最後まで楽しくて面白くて笑い通しだった。
小のぶ師匠、すばらしい!
また会があったらぜひ行きたい。

炎の眠り

 

炎の眠り (創元推理文庫 (547‐3))

炎の眠り (創元推理文庫 (547‐3))

 

 ★★★★

ぼくは呆然としていた。目の前に、三十数年前に死んだ男の墓がある。そこに彫られた男の肖像が、なんとぼくそのものだったのだ! そのとき見知らぬ老婆が 声をかけてきた。「ここにたどり着くまで、ずいぶん長いことかかったね」捨て児だったぼくは、両親の顔すら知らない。そう、自分が本当はなにものなのか も……衝撃作!

大好きなジョナサンキャロルを久しぶりに再読。

ダークファンタジーっていわれてもなんだかあんまりピンとこないんだけど、リアルの中にファンタジーがひょいっと踏み込んでくるところがたまらなく魅力的。

恋人を送った帰り道に奇怪な自転車に乗った奇怪な男が自分に向かって聞いたことのない名前で呼び掛け「よく戻ってきた!」というシーン。すごく印象的でぞくぞくする。

唐突だったり荒かったりするところもあるけど、フィクションを読む楽しさがぎっちりつまってる。

また少しずつ再読していこうと思う。

 

 

第199回長崎寄席

 7/30(土)、ひびきホールで行われた「第199回長崎寄席」に行ってきた。

・辰の子「狸札」
・扇治「たがや」
・扇辰「一眼国」
~仲入り~
・源氏太郎 笑いの音楽
・南なん「中村仲蔵

扇辰師匠「一眼国」
とげとげしいまくらにびっくり…。完全に引いてしまった。

源氏太郎先生 笑いの音楽
主催者の方が「かなり高齢なので心配なんですけど、ご本人はとてもやる気満々でいます。どうなりますか」とおっしゃっていたけど、いやぁほんとにびっくりした。

ギター弾きながらハーモニカ吹いて足のカスタネットでリズムを刻んで皿回し。芸も凄いけど、ご本人から発散されるパッションが凄い。今年88歳になられると。すごい。そして素晴らしい。

南なん師匠「中村仲蔵
源氏太郎先生のことを「ご本人がとても楽しんでやっているのが伝わってきて、素晴らしいですね」と。ほんとにそう。
「私で最後です。気を確かにがんばりましょう」の言葉に癒される。ほんとにこの師匠からにじみ出る優しさとおかしさには慰められるなぁ…。

南なん師匠の「中村仲蔵」は初めてだったんだけど、こんな「中村仲蔵」は今まで見たことがない。
弁当幕のぱっとしない役でがっかりした仲蔵を鼓舞する妻の一言。その言葉で気持ちを持ち直して自分なりの定九郎をやろうと誓う仲蔵。
なかなかいい工夫が思い浮かばない中、雨宿りに入った蕎麦屋に飛び込んできた浪人。その印象的な姿に釘付けになった仲蔵が浪人に話しかけて姿を確認するところ。二人の会話がもう芝居を見ているようで鳥肌がぞわぞわ。

それなのにところどころ、ふっと力が抜けるおかしさがあって、それがいかにも南なん師匠らしくて楽しい。

芝居のシーンは本当にその鮮やかな姿が目に浮かぶようで、でも想像もしていなかったような客の反応に仲蔵がどんどんがっかりしていくのが、結末を知ってるだけになんともいえない気持ちに。
がっかりして帰ってきた仲蔵に妻が「でもお前さん思う通りの芝居ができたんだろう?だったらよかったじゃないか」というのがいい。最高の女房だなぁ。

上方に旅立とうと河岸を通りかかった時に、「仲蔵の定九郎が凄かった。あれはぜったい見た方がいい!」と客が話しているのを聞いて、「ああ、一人でも俺の芸をわかってくれた人がいた」と喜ぶところで、仲蔵と南なん師匠が重なって見えて思わず涙が…。

すごく南なん師匠らしい「中村仲蔵」で胸を打つものがあった。すばらしかった。

池袋演芸場7月下席昼の部

7/30(土)、池袋演芸場7月下席昼の部に行ってきた。この日は夜もあったので途中退席。すんません。

・小多け「たらちね」
・やなぎ「?」(将棋部と囲碁部の夏の大会の新作)
・龍馬「人形買い」
・小燕枝「あくび指南」
とんぼ・まさみ 漫才
・左龍「棒鱈」
・雲助「夏泥」
~仲入り~
・さん助「熊の皮」

やなぎさん「?」(将棋部と囲碁部の夏の大会の新作)
やなぎさんの新作を初めて聴いた。面白かった!てっきり「夏の甲子園」と思わせておいて、まさかの将棋部のばかばかしさ。笑った笑った。

龍馬師匠「人形買い」
楽しい。一之輔師匠のと同じく、おしゃべりな定吉に焦点が当たっている「人形買い」。
「うちの女中のおよそさんのあだ名が円周率なんですけどどうしてだか知ってます?ゆとり教育だったので円周率が”およそ3”」には笑った。

小燕枝師匠「あくび指南」
もうめちゃくちゃ素敵な「あくび指南」でこれが見られただけでほんとに行ってよかった!と思えるほど。
「一番難しいのは寄席のあくびです。落語に詳しいお客様がなんの噺を聴いてももう聞き飽きていて退屈して、あからさまにではなくわからないようにやるあくび」って。大笑い。

そしてあくびの師匠のあくびが確かにとても粋で素敵で客席から思わず拍手が出るくらい。
習いに来た男が「中につーっと行くとなじみの女が出てきて”おまえさん。久しぶりじゃないの”」っていう流れがなんともいえず楽しくてたまらない。
ほんとに素敵だったー。

雲助師匠「夏泥」
よく落語協会でかかっているのと違う形なんだけど、これがすごく雲助師匠らしくてかっこいい。
泥棒にお金を出してもらうと男が「すまねぇなぁ。ありがとよ。…だけどこれはそっくりかえすよ」。この繰り返しがたまらなくバカバカしくて楽しい。

雲助師匠の「夏泥」の男は、明らかに泥棒とのやりとりを楽しんでいて出すものを全部出させようとしているようなのだが、遊び心があるから嫌な感じがない。
人のいい泥棒が「まったく今日は金を持ってたからよかったようなものの。持ってなかったら恥をかくところだった」と言ったの、初めて聴く台詞だったけど最高だ。この泥棒のこと、ほんとに好きになっちゃった。

さん助師匠「熊の皮」
テッパンの面白さ。
おかみさんに洗濯しろと言われて「いいよ。洗濯好きだよ。毎日やってるし」と言うのが何回聞いてもおかしい。

柳家小三治独演会 松戸市民会館

7/29(金)、松戸市民会館で行われた「柳家小三治独演会」に行ってきた。

・こみち「金明竹
小三治「お化け長屋」
~仲入り~
小三治粗忽長屋

こみちさん「金明竹
わーい、こみちさん。
女性の着物には紐が4本必要なんですが今日は紐を忘れてしまいまして、とこみちさん。
スタッフの方にビニール紐をもらってそれで着てます。ビニール紐があれば勝ったも同然です。
前にやっぱり紐を忘れたことがあったんですがその時は他の演者もいないしスタッフもいないし古い会館で何もない。どうしよう!困った!と思ったら、人間追い詰められると知恵が出てくるものですね。楽屋のすみにゴミ袋が転がってまして、これを使ってどうにか着ることができました。
見た目は何の不足もなかったんですが、動くとがさがさ音がするのには参りました。

そんなまくらから「金明竹」。使いの者が話しているうちにどんどんテンポがあがっていくのが楽しい。
おかみさんがいかにもおかみさんらしくかわいらしいのもいいなぁ。
楽しい「金明竹」だった。この噺、好きなんだよね。

小三治師匠「お化け長屋」
選挙の話をしかけては「いややっぱりこの話はあぶねぇからやめたほうがいいな」とやめてみたり、また言いたそうにしてみたり。
ろくなやつがいねぇ…は本音だよなぁ。ほんと。もうね…。
ポケモンGOのことも、「スマホをこんなふうにやりながら家に入ってきちゃう」って間違った理解をしているのが面白い。
落語にはいろんな種類の噺がありまして…と言って怪談噺の説明が始まったので「お化け長屋」かな、と思ったらやっぱりそうだった。まくらでたいがい予想がつくようになってきたぞ。

まくらはゆらゆらしてたけど、この日の「お化け長屋」はとっても面白かった!もうキレキレ。
最初の男の怖がりようと、もくべえさんの怪談噺のこわいところ。
それが二人目の男がことごとく話の腰を折るものだから、もくべえさんがすっかり調子を崩すところ。
リズムがあって聴いていてウキウキしてくる。なんともいえず楽しかった。

小三治師匠「粗忽長屋
1席目を長くやりすぎました、と小三治師匠。今日はもうこれで終わりにしてもいいくらい。とご本人がおっしゃってたということは、やはりすごい会心の出来だったっぽい。
まぁそうは言ってももう一つ落語らしいのをやりますかね、と言って「粗忽長屋」。こんな入り方も面白い。
刈り込んだ短めの「粗忽長屋」だったけど、たまらなくおかしい。もうなんだろう、何度も見ているのに何度もおかしくて笑ってしまう。
まめでそそっかしい男と無精でそそっかしい男の関係性がなんともいえずあたたかくてそこが見ていて幸せに感じるところなのかもしれない。

松戸の会は遠いのもそうだけど始まりが早いので毎年有休をとって行くんだけど、行った甲斐があったなぁと満足で帰ってきた。

連雀亭・きゃたぴら寄席

7/29(金)、連雀亭のきゃたぴら寄席に行ってきた。

・市童「ろくろ首」
・遊里「噺家の夢」
・ふう丈「?」(お年寄りが地区センターでボケ防止5カ条を確認するという新作)
・らく人「蜘蛛駕籠

市童さん「ろくろ首」
おおお、市助さんだ。二ツ目になってからあんまり見ることがなかったからなんか一方的に懐かしい友だちに会ったような気持ちに。
与太郎がかわいくて楽しい。時計が二つなって「ごもっともごもっとも、だな」ってかわいい台詞。

遊里さん「噺家の夢」
自分の地元のなまはげヘリの話など、長いまくらからの「噺家の夢」。
前にろべえさんで聞いたことがある。そうか、これは芸協噺なのか。もしかして喜多八師匠が芸協の方から教えてもらって落語協会でもやられるようになったのかな。
ばかばかしいけど楽しい。好きだ。

ふう丈さん「?」
前に見た時と同じ、ふう丈さんを贔屓にしてくれるおばさまの話。「ふう丈さんはいつ二枚目になるの~?」って…。何回聞いてもおかしい。
地区センターみたいなところで、老人が集まって老化防止の体操をやっている。そこで一人のおばあさんが「ボケ防止の5カ条」を教えて、もう一人がそれに対して自分はどうだ、と語るという噺。
面白かったけど、サゲがちょっと当たり前すぎてさみしいような。

 

小んぶにだっこ

7/28(木)、落語協会で行われた「小んぶにだっこ」に行ってきた。
毎回本当に楽しみなこの会。会場に向かう時、小んぶさんが入り口に立ってる姿を想像するとうれしくなって顔がにやけてしまう。

・小んぶ「反対俥」
・小んぶ「ネタバレ(新作)」
・小んぶ「抜け雀」

小んぶさん「反対俥」
ポケモンGOが流行ってますね、と小んぶさん。
家にテレビがなくて、寂しいからと実家から持ってきたラジオが壊れて、情報を入手する手段がなくなってしまった。でもそんな私でもポケモンGOのことは知ってました。
スマホを持っているのでやってみようかと思いダウンロードしてやってみることに。
自分はそれまでポケモンって知らなかったので、よく意味がわからない。それでもポケモンを見つけてボールを投げてつかまえることはできるようになって、「これが面白いのか?」と疑問を持ちながらもやってる。
噺家なんていうのはひねくれ者が多いので楽屋でやってる人はいなくて「あんなのやるのはバカだ」という意見が大半。いまさら自分はやってるとは言えず「ふんふん」と話に混じっている。

ジムというのがあってそこで自分のポケモンを戦わせることもできる。
そろそろ行ってみるかとどうやるかもわからずジムに行ったんだけど、さすがにそういうところに出るようなポケモンは強くてまるで太刀打ちできない。
気のせいだとは思うけど相手と向き合った時、自分のポケモンが「おい、どうしたらいいんだよ」と不安そうな顔でこっちを振り向く。そしてぼこぼこにやられて死んでしまう。
ああ、おれのせいでこいつが死んでしまった、すまなかったと思いながら、でもまた新しいポケモンを捕まえている。

小んぶさん!そのヤラれたポケモン、げんきのかけらで回復させられるから!と教えてあげたい!
そうか。お見送りしてくれたときにそう話しかければよかった!

そんなまくらから「反対俥」。
最初の病弱な俥屋がおかしいおかしい。ふにゃ~と力の抜ける加減がおかしくて大笑い。
そして威勢のいい俥屋の走り方がなんか独特ですごいおかしい。この噺を教わった時、次の日すごい筋肉痛になるって言われて、まさかそんな…と思ったんだけど、昨日老人ホームでやって今日は太ももがすごい筋肉痛、と。
威勢のいい俥屋さんはどんどん南へ行って最後は種子島。ロケットと張り合う。っていったい誰に教わったんだろう?

小んぶさん「ネタバレ(新作)」
今朝できた新作とのこと。落語に出てくる登場人物ってそのままネタバレになってることが多い。「けちべえ」とか「与太郎」とか。それでそういう名前でネタバレしてる新作ってどうかなと思って作ってみた、と。
刑事に尋問をうけている主人公。その名も「冤罪」。「俺じゃない。俺はやってない」と言うのだが信じてもらえない。そこにやってきたのが「真犯人」という名前の刑事。自分にはこの仕事はあわないから今日でやめる、という…。
シュールというかバカバカしいというか型破りというか。ほんとに独自で面白いなあ。このまま変にすれずに独自な新作を作っていってほしいな。

小んぶさん「抜け雀」
これがまた独特な抜け雀で。
宿屋の主人がとにかくお人よしでじんべえさんというより与太郎っぽい。とにかくお客に逆らわない。なんでもにこにこ受け入れる。それがいかにも小んぶさんらしくて面白い。

あの客は怪しい。金をもらって来い。言いづらいならこう言いな。
おかみさんに言われて客のところに行って棒読みで言い始めると、客が「いいよ。わかったよ。全部聞こえてた」。
ぶわははは。面白くしようと思ってそうしたというより、小んぶさんが自分でそう考えたんだろうなというのが伝わってきてすごくおかしい。
客が衝立に絵を描くと言いだして、墨をすれと言われてするんだけど、「あ、いいにおい、ほら」と墨を客の鼻先にやって、「やめろよ」と鬱陶しがられるのがおかしい。「お前鼻だけはいいな」と言われると「ほめられちゃった」と本気で喜んでいる。
「そんな目なら銀紙でもつめとけ」と言われて「はい。やっておきます」。ここでもさからわない。
客が一文無しと聞いて怒り狂うおかみさんが「もういやだ。あんた、離縁しておくれ」と言うと「やだ!」とそこはきっぱりさからう。

絵師の父親が来て雀を休ませたほうがいいと聞くと「わかりました。私が描きます」と宿屋の主人。「お前は書いちゃだめだよ」と父親が慌てるのがおかしい。
鼻だけはいい、目に銀紙を入れろと言われた主人が「あ!(銀紙入れるの)忘れてた」と言うのがもう…なんだよ、それ。おかしすぎる!

ほんとに小んぶさんらしい「抜け雀」で大笑いだった。楽しかった!

坂の途中の家

 

坂の途中の家

坂の途中の家

 

 ★★★★

刑事裁判の補充裁判員になった里沙子は、子どもを殺した母親をめぐる証言にふれるうち、いつしか彼女の境遇にみずからを重ねていくのだった―。社会を震撼させた乳幼児の虐待死事件と“家族”であることの心と闇に迫る心理サスペンス。  

 子育ての経験のない角田さんがなぜこんなにも孤立した母親の気持ちをリアルに描けるのだろう。
補充裁判員になった里沙子が、子どもを殺した母親・水穂に共感しすぎて精神の均衡を失っていったように、読んでいる私も里沙子に共感しすぎておかしくなりそうだった。読んでて、うあーーーっ!と頭をかきむしりたくなるような追い詰められ感。

もっとまわりの人に頼ればよかったのに。そう言われるけれど、そんなに簡単なものじゃない。
だけどたとえば夫が自分と同じぐらいの真剣さで子育てに関わっていれば。悩みを打ち明けられる友だちがいれば。こんなふうに孤立しておかしくなっていくことはないのだと思う。

結局、夫の方は傍観者に過ぎないから妻が孤立してしまう。それまで築いてきた夫婦関係が「対等」なものではなかったから、ノイローゼ気味になった妻はどんどん追い詰められてしまう。

子育ては決して地獄ではないのだから、人目を基準にしないで楽しくやろう。彼女らにそう言いたい気持ちでいっぱいだなぁ…。