遁走状態
- 作者: ブライアンエヴンソン
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2014/02/28
- メディア: 単行本
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幻想と覚醒が織りなす、19の悪夢。驚異の短篇集、待望の邦訳刊行! 前妻と前々妻に追われる元夫。見えない箱に眠りを奪われる女。勝手に喋る舌を止められない老教授。ニセの救世主。「私」は気づけばもう「私」でなく、日常は彼方に遁走する。奇想天外なのにどこまでも醒め、滑稽でいながら切実な恐怖に満ちた、19の物語。ホラーもファンタジーも純文学も超える驚異の短篇集、待望の邦訳刊行!
「居心地の悪い部屋」に収められた「へべはジャリを殺す」で強烈な印象を残したブライアン・エヴンソンの短編集。
期待通り、とても面白かった。
異常なのは自分なのか他人なのか世界そのものなのか。自分は陥れられたのか全ての発端は自分にあるのか。足元がぐらぐらするようなひたひたと恐怖が染み渡ってくるような物語が多くて、この人がモルモン教徒?と作者の写真を何度も見返してしまった。
怖いのだがユーモアもあってそこが好み。
「年下」「追われて」
単なる強迫観念なのか、あるいは本当にあったことなのか。
普段は見ないようにしているものを見せられたような、足元にどこまでも広がっていく暗闇を覗いてしまったような恐怖。
でちらりとよぎる自分の行為が怖い。
「供述書」「さまよう」
宗教を強烈に否定しているように思えてぎょっとする。
信仰心のある人がこういう作品を書くだろうか。
「温室で」
ポーっぽい。精神的に追い詰められる系の話の中にこういう話が入っているとほっとする。
ほっとするような話ではないけど。
「九十に九十」
文学作品を作りたいのに売れる本を作れと社長に叱責される編集者。
でっちあげたミステリー(スウェーデンミステリー!!)は大ヒットするが、虚しくてどうしようもない。会社を辞めたいと言うと、社長は彼の十八番と言うべき恐怖の「九十に九十」のペナルティを課してくる…。
好き好き。そのほかの作品よりユーモア成分が多めで、収められた中でこの作品が一番好きだった。
テンポがよくてノリがよくてにやりと笑える短いドラマを見ているようで楽しい。
「見えない箱」「第三の要素」「チロルのバウアー」
とはいうものの、やはりこういう系がこの作者の真骨頂、とおもう。
一晩だけの相手だったパントマイム師が作っていった「箱」に閉じ込められる女。
わけのわからない「任務」を課せられ逃れられない男。
死にゆく妻の隣で妻の視線に囚われる男。
日常が異常に侵されていって何がどうなってるのかわからない恐怖。自分にもそういうことは起こりかねないという恐怖。
「アルファンス・カイラーズ」
ポーっぽい。フィクション色が強い作品を読むと少しほっとする。
「遁走状態」
「白い闇」を思わせるシチュエーション。
何が起きているのかなぜこうなったのか思考はとりとめもなくでも状況はどんどん悪くなっていき自分は誰なのかもわからない。
そもそも生きているってどういうことなのか、わからなくなる怖さ。