どこにでもある日常が、どうしてこんなに愛おしいんだろう。かけがえのない「今日」を描く、芥川賞・大江賞作家の最新作。
夫婦と5歳の息子が暮らす築50年の大型マンションに、今日もささやかな事件が降りかかる――。日本に「住む」すべての人へ、エールを送るマンション小説!
「しゅっ」「ぱーつ!」――5歳の息子コースケと僕たち夫婦は、今日も小さな冒険の旅に出る。子育てのため、郊外にある大規模マンション「Rグランハイツ」に引っ越してきた美春と恵示。管理組合の理事になった妻とリモートワークの夫は、築50年のマンションに集まり住む住人たちとともに、どこにでもあるけれど、かけがえのない日々を重ねていく。
三本阪奈による漫画化原作、「舟」を併録。(アンソロジー『いろんな私が本当の私』原作・長嶋有、双葉社より11月22日刊行予定)
★★★★
面白かった。期待通り。
コロナ禍の時の空気を少しまといつつ、郊外にあるマンションに引っ越してきた親子3人の日常が淡々と綴られる。
マンション内で自殺があってもその町で連続殺人犯が逮捕されたことがあったとしても、日常は続く。
昔のように噂好きのおばさんの知り合いがいないと、何があったのかさえ知ることはできない。それが正しいのか正しくないのか、どう振舞えばいいのか正解がわからないまま、風化していく。
なんとなく感じる違和感や不安と、子どもの成長を見守る夫婦の阿吽の呼吸。
子どもや夫婦の会話が心地よくていつまででも読んでいられる。
頑なに改装を受け入れらなかったためにそこだけ古いままのマンションの一室、子どものダンス教室で顔を合わせたことがある父親が一瞬見せた暴力性が不思議と頭に焼き付いてる。