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単行本刊行時には書評・インタビューでとりあげられ、中高年向け雑誌で話題になった著書の文庫化。 昭和・平成の上昇期を生きてきて、老い方を知らない団塊世代の共働き夫婦。その夫を襲った動脈瘤破裂の危機。ふいの病は三十数年連れ添った夫婦の暮らしをどのように変えるのか? 妻は手術拒否する夫を抱え、湯治や食事療法をしながら二人三脚の日々をおくり、硫黄噴く北の岩盤浴の地へ。伴侶の病、生と性をみつめ、人間の不可思議な「体」と「心」の奇妙な深淵に潜る、作者の新境地の長編小説。
面白かった~。
定年を過ぎた頃に、それまで病気一つしたことがなかった夫に動脈瘤が見つかる。
病気の影響もあってか怒りっぽくなった夫と、彼の動脈瘤がいつ破裂するか分からないという恐怖を抱えながらそんな夫を「水の入った風船玉の男」と心の中で呼ぶ妻。
民間療法のアドバイスに従いながら夫のために玄米を炊き湯治に付き合う妻は、傍から見れば献身的だが、それは何かをしていると余計なことを考えなくて済むからという部分もある。
身につまされる内容で決して楽しくはない話なんだけど、夫婦のとった行動、心情の変化がものすごくリアルで自分自身が体験したみたいな気持ちになる。
私も藁にもすがる思いで温泉地へ行きゴザを背負って闇の中を歩き岩盤浴をしたような…女郎部屋の悪夢を何度も見たような…どんどん変化していく夫の姿を時に自分事として時に見ず知らずの他人を見るような気持ちで見たことがあるような…。
印象的な文章もたくさん。
将来、夫が死んだら、と楽しい夢を語るように言った。私と梨絵のぞれぞれの夫がちゃんと先に死んで、あの世へ行ったら、それから何をして暮らそうかと。夫が死んだ先にまだ将来というものがあると何となく思っていた。
むろん夫が死んでも明日はある。日にちは続く。そしかしその明日は、将来、とは呼ばないのだ。将来とは人生の連れ合いが欠けたりするようなことのない、もっと翳りのない、まだ何かいろいろ充実してやることのなる、そういう日々のことをいうのだ。
淡々と受け止める主人公も、煮えたぎる怒りを抑えられない主人公も、両方に共感できる。
「あなたと共に逝きましょう」というタイトルの力強さとユーモアも良かった。
