りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

タイガーズ・ワイフ

タイガーズ・ワイフ (新潮クレスト・ブックス)

タイガーズ・ワイフ (新潮クレスト・ブックス)

★★★★

「不死身の男」と「トラの嫁」。二つの謎めいた物語が、祖父の人生を浮き彫りにする。自分は死なないと嘯き、賭けを挑む男。爆撃された動物園から逃げ出したトラと心を通わせた少女。紛争地帯で奮闘する若き女医は、二つの物語から亡き祖父の人生を辿っていく。戦争に打ちひしがれた人々の思いを綴る確かな筆致と、鮮やかな幻想性。弱冠25歳でオレンジ賞を受賞したセルビア系作家による、驚異のデビュー長篇。

紛争地帯に暮らす子どもたちに予防注射をしに訪れた「わたし」のもとに、祖父が亡くなったという知らせが届く。医師だった祖父は「わたし」を訪ねに行くと祖母に告げ、辺境の小さな村で人生を終えたのである。
自らの病気を祖母に隠していた祖父はなぜその村を訪ねたのか。いったい祖父はどういう人間だったのか。答えをさがす「わたし」は以前祖父から聞いた<不死身の男>の話と<トラの嫁>の話を解き明かすことで、謎に満ちた祖父の人生にちかづこうとする…。

ものすごく好みな題材なのだがちょっと読みづらくて苦戦した。語られる内容が激しいのに語り口が非常に静かで言葉数が少ないせいか。あるいは翻訳のせいか。ぴたりと文章が吸い付いてくる感覚がなくてなかなか中に入っていけない感じがあった。

不死身の男とトラの嫁の摩訶不思議な物語と、今までの暮らしが破壊され国が分断される戦争の現実。
何が現実で何が現実でないのか分からないけれど、それが謎に包まれた祖父の生きた世界であったことは間違いなく、これはそんな祖父のことを少しでも理解しよう近付こうとつとめた孫の物語だ。

暴力的なシーンが多いが、不思議と静かでひんやりとした肌触り。
戦火の中のホテルで不死身の男と食事をするシーンが、まるで映像を見たかのように頭に焼き付いている。