りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

わが悲しき娼婦たちの思い出

わが悲しき娼婦たちの思い出 (Obra de Garc〓a M〓rquez (2004))

わが悲しき娼婦たちの思い出 (Obra de Garc〓a M〓rquez (2004))

★★★★★

これまでの幾年月を表向きは平凡な独り者で通してきたその男、実は往年夜の巷の猛者として鳴らしたもう一つの顔を持っていた。かくて昔なじみの娼家の女主人が取り持った14歳の少女との成り行きは…。悲しくも心温まる波乱の恋の物語。2004年発表。

書き出しが素晴らしすぎる。まさに掴みはOKだ。紀伊国屋の本のまくらフェアでこの一文があれば間違いなく売り上げNO1だろう。少なくとも私は迷わず買うぜ。

90歳を迎えた孤独な老人が14歳の少女に猛烈に恋をする。川端康成の「眠れる美女」に着想を得たということなのだが、こちらの主人公は妄想を妄想のままで終わらせない。非常にアクティヴ(笑)なのである。
ただ眠っているだけの14歳の少女に90歳の老人(しかも一応この人は新聞で記事を書いている「有名人」なのだ)が恋をして、一度も会話のないまま猛進するという、絶対にありえないような設定ではあるのだけれど、これが全然ありえなさそうでなくてリアルなのだ。これがガルシア・マルケスのすごいところだ。

狂気ととられかねない行動や嫌悪感を抱かずにはいられないような行為なのに、人間とはそういうものなのだ、と妙に納得してしまう。この説得力はなんなんだ。

老人の性は物悲しくもあるけれど、乾いたユーモアもあってなかなか味わい深く、不思議と嫌悪感は抱かなかった。性に固執してるようでいて実はそうではなく、生命を輝かせようとしているところが、多分この普通に考えればキモチワルイ老人を応援したい気持ちにさせるのだと思う。

老人の淡々としていてユーモラスな語り口に何度もニヤリ。老いを描いているけれど、不思議と暗さはなくむしろカラッとユーモラス。
これを書いたときのマルケスが77歳。現在のマルケスを予言したかのようでもあり、そう考えると今のマルケスもきっと不幸ではなく楽しいに違いないと思わせてくれて、なにからなにまですべて「さすが!」としか言いようがない。素晴らしい。