りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

終わりの街の終わり

終わりの街の終わり

終わりの街の終わり

★★★★★

死者たちの暮らす、名も無き街。ある者は赤い砂漠に呑まれ、ある者は桃の果肉に絡みとられ、誰一人として同じ道をたどらずやって来る。生きている者に記憶されている間だけ滞在できるというその場所で、人々は思い出に包まれ、穏やかに暮らしていた。だが、異変は少しずつ起こっていた。街全体が縮みはじめたのだ。その理由について、死者たちは口々に語る。生者の世界で新型ウィルスが蔓延しはじめたこと、人類が滅亡に向かっていること、そして、南極基地でただ一人取り残されたローラという女性について―死者たちの語る話からほのみえてくる終わりゆく世界の姿とは…。

「第七階層からの眺め」があまりにも好きだったので、期待して大切に読んだ本。
だってこれを読んでしまうと、翻訳されているブロックマイヤーの本はないんですもの…。

死者たちが暮らす終わりの街。
死んでもなお生きていて、日常があって、仕事をしてご飯を作って食べてお酒を飲んでちょっと酔っ払って、でもその先があるのかないのか分からなくて。
なんとなく現世よりはシンプルでいい感じだけど、でも何もかも超越しているわけではなく、いろいろなことが不確かでわからなくて。
それでも好きな人ができたり口論したり会いたい誰かを想ったり過去や未来に思いを馳せる。

生きている者が記憶している限りは終わりの街にいることができるのだけれど、自分のことを記憶している者が一人もいなくなった時、その人は終わりの街から消えてしまう。
その後どこに行ってどういうふうになるのかはわからない。

ある時終わりの街から人々がごそっといなくなった。
その理由は世界で新型ウィルスが蔓延し人類が滅亡に向かっているから。
残された人は他にもまだ残っている人がいるか探し始める。

終わりの街に残された新聞記者のルカ、盲人、ミニー、その他の人々。
そして南極基地に会社(コカコーラ!)から派遣され、一人取り残されたローラという女性。
この2つの物語が並行して語られる中で、この不思議な世界を俯瞰してみることができるのである。

世界の終わりと人生の終わりをSF的に描いているが、SFとしてみたらおそらく物足りない内容だと思う。
またラストもあっけなくて少し勿体無い感じは否めない。
だけど、細部が実にいいのだ!この作家のどこが好きってそこが好きなの。
ぱーっと目の前に絵が浮かぶような印象的な景色。ある人が言ったちょっとした言葉。ちらっと見ただけなのになぜか目に焼きついたシーン。
それが見事に伏線となっていて、ぼんやり読者の私でも、「ああ、そういうことか!」とはっとしたりグッときたり。

手を叩いて「ドカーン!」といい、指先で紙ふぶきを散らす仕草をする男。
嫌なタイミングで小銭をせびってくる物乞いの男。
セレモニーの席で表彰されながら何か不穏な感じの広告部長。
最初と最後に盲人。少女の手を離れていく風船。氷。海と空。そしてコカコーラ。

とても寂しくてはかなくて空しくて確かなものなのど何もなくて、だけど美しくて少しだけあたたかい世界。
そんな世界に私たちはいる。

やっぱり好きだ。この人の描く世界が。