りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

コレラの時代の愛

コレラの時代の愛

コレラの時代の愛

★★★★★

夫を不慮の事故で亡くしたばかりの女は72歳。彼女への思いを胸に、独身を守ってきたという男は76歳。ついにその夜、男は女に愛を告げた。困惑と不安、記憶と期待がさまざまに交錯する二人を乗せた蒸気船が、コロンビアの大河をただよい始めた時…。内戦が疫病のように猖獗した時代を背景に、悠然とくり広げられる、愛の真実の物語。1985年発表。

フロレンティーノ・アリーサは美少女フェルミーナ・ダーサに恋をし、ラブレターのやりとりだけで結婚の約束までとりつけるのだが、娘が玉の輿に乗ることだけを夢見てお金を投資してきたフェルミーナ・ダーサの父に仲を引き裂かれる。
気が強く不屈の精神を持つフェルミーナ・ダーサは父の反対にもめげず手紙のやり取りを続けるのだが、数年後に再会したフロレンティーノ・アリーサの陰気な姿に幻滅しあっさり別れを告げ、医師フベナル・ウルビーノと結婚。父の希望通り、町の名士夫人となる。
恋にやぶれたフロレンティーノ・アリーサは、フベナル・ウルビーノの死を願いつつ、いつか未亡人になったフェルミーナ・ダーサと愛を成就させることだけを生き甲斐に、必死に働き会社での地位を高めていく。またフェルミーナ・ダーサを一途に愛しながらも、その哀れな風采を利用して「夜の狩人」となって次々女性との性の遍歴を重ねていき、「恋人たちの手引き」という恋愛のハウツー本(但し未出版)を書くことになる。

物語はフロレンティーノ・アリーサの愛の遍歴と、イキオイで結婚したフェルミーナ・ダーサとフベナル・ウルビーノが何度も些細なケンカや夫婦の危機を乗り越えながら、生涯の伴侶となっていく姿を描いている。

偏狭の権化のようだったフロレンティーノ・アリーサが年老いて自分を見つめなおす姿には、それまで「こういう男、ほんとにいやっ!」と嫌悪感を抱いて読んでいたのに静かな感動を覚えたし、イキオイだけで結婚したようなフェルミーナ・ダーサとフベナル・ウルビーノが小さな出来事や危機を乗り越えて伴侶となっていく姿には「ああ、いい夫婦になれてよかったね…」とじんわりと泣けた。

百年の孤独」のような、殺したり殺されたり生まれ変わったり生霊や精霊が出てくるような小説を期待して読むと、「あれ?なんかフツウの小説?」とちょっと拍子抜けする。
しかし、それぞれの人生を丹念すぎるほど丹念に描くことで、人間のもつ弱さや優しさ、単純さや複雑さが浮き彫りになってきて、なんだか読み終わった時は一つの人生を生ききったみたいな達成感さえある。
やっぱりガルシア・マルケスおそるべし。