私の男
- 作者: 桜庭一樹
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2007/10/30
- メディア: 単行本
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うおおお。これはすごい…。すごい小説だ。
好き嫌いが分かれる作品だと思うけれど、私は好きだ。大好きだ。
好きというのにもいろんな好きがあるけれど、語られている内容も人物も決して好きにはなれなかったけれど、小説としてものすごく好きだ。
何様?な発言なのは承知で言ってしまうけれど、これは傑作だと思う。桜庭さん、すげーよ!!(←ばか丸出しな感じで)
お父さんからは夜の匂いがした。
狂気にみちた愛のもとでは善と悪の境もない。暗い北の海から逃げてきた父と娘の過去を、美しく力強い筆致で抉りだす著者の真骨頂『私の男』。
花と淳悟の関係はおぞましい。
花と結婚することになる美郎が、初めて2人のアパートに泊まった時の描写がとても生々しくて、そのだらしない感じや腐臭がこちらにも伝わってくるようで、思わず鳥肌がたった。
2人はまるで「鎖につながれた囚人どうし」のように、絡まりあってお互いから逃げられない。
向かう先に明るい未来はなく、そんなふうにして積み重ねてきた日々が、2人を消耗させ、2人を空っぽにさせていっている。
しかし、これ以上ないほど幸福にも見えるのだ。いや、間違いなく幸福なのだ。
2人のその幸福感もなぜかものすごくリアルで生々しくて鳥肌がたつ。
どうして?どうして?それは最後まで読んでも私には理解することはできなかった。
いや、わからないわけではないけれど、わかりたくないのかもしれない。
そう思ったときに、あの流氷の場面が浮かんでくる。ああ…この場面もとても印象的で怖くて醜悪でそれでいて美しい…。
この2人はどうしてこんなふうになったのか。いつから?そして2人は何から逃げているのか?
ミステリーではないのだけれど、徐々に謎が明らかになっていくといくので、焦点がぼやけないのだ。
物語の登場人物としては全く好きになれなかった小町のこの言葉が胸を突いた…。
淳悟が、この子の、なにかをずっと奪っていたのかもしれない。形のないものを。大切なものを。魂のようなものを。花の「私の男」という言葉がものすごく純粋で汚れていて幸福で不幸で…なんともたまらない…。
こうして過去にさかのぼっていって最後まで読んでいって、また最初に戻ると、どうしようもない痛ましさを感じる。
いやぁ、すごい小説だわ、これ。読めてよかった。