りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

西瓜王

西瓜王

西瓜王

★★★★★

以前読んだ「ビッグフィッシュ」が大好きだったので、また何か翻訳されていないかなぁと探して見つけたのがこれ。
アマゾンのマーケットプレイスで1円で購入。
かわいくてユーモラスな表紙と題名だけれど、中身は結構ハード。

アメリカ南部の町で18年前に事件が起きた。生まれてすぐのぼくをおいて死んだ母と、まだ見ぬ父にかかわる事件が。ルーツを探して訪れたぼくに、町の人びとが話してくれる。選ばれた女に童貞を捧げ、豊かな実りをもたらすという伝説のスイカ王のお話を―。嘘と現実とほんとうの愛をめぐる現代のおとぎ話。

自分を生んで死んだ母と誰か分からない父を探して、主人公トーマスはアメリカ南部の町アッシュランドを訪れる。
ここはかつてスイカで栄えた町だった。
この町の象徴とも言うべき祭り、それが「スイカ祭り」。スイカ祭りの時には、毎年男が1人選ばれる。その男は童貞でなければならない。選ばれた男は「生贄」でもあり「王」でもあるのだ…。

ある年、この祭りに意義を唱えた者がいた。
それはふらっとこの町にやってきていつのまにか待ちに居ついた絶世の美女ルーシー。それがトーマスの母だ。
ルーシーのせいで祭りはなくなり、ルーシーも亡くなり、そしてそれ以来この町は呪われたかのように、廃れていったのだという…。

トーマスに町の人たちが語る、母ルーシーと「あの出来事」。
前半はトーマスが町の人たちに聞いた話ですすめられる。
純朴で話好きで人の良さそうな老人たちが語るのは、まるでおとぎ話のような、信じられないような話。しかしそこに見え隠れしているのは、黒人や不具者に対する強烈な差別、迷信、嫉妬。

まさかそんなことあるはずない、いつの時代の話だよ、と思う一方で、いや案外なくはないかもしれないと思わせる。
「ビッグフィッシュ」に比べると、ずっとダークで苦い物語なのだが、語りがユーモラスなので、救われる。

ああ。やっぱりいいなぁ、ダニエルウォレス。