りつこの読書と落語メモ

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ある一生

 

ある一生 (新潮クレスト・ブックス)

ある一生 (新潮クレスト・ブックス)

 

 ★★★★★

20世紀初頭、幼くして母を亡くし、アルプスの農場主のもと過酷な労働をしいられて育ったアンドレアス・エッガーはある日、雪山で瀕死のヤギ飼いと出会い、「死ぬときには氷の女に出会う」と告げられる―。生まれてはじめての恋、山肌に燃える文字で刻まれた愛の言葉。危険と背中合わせのロープウェイ建設事業に汗を流す、つつましくも幸せな日々に起こったある晩の雪崩。そして、戦争を伝えるラジオ。時代の荒波にもまれ、誰に知られることもなく生きた男の生涯。その人生を織りなす瞬くような時間。恩寵に満ちた心ゆすぶられる物語。 

とてもよかった。

私生児として生まれ母の義兄に引き取られたエッガー。愛情や関心をむけられることなく「働き手」として厳しい労働を課せられながら逞しく育ち、独立した後は貧しい土地に「我が家」を持ち、そして初めての恋を知る。

エッガーの人生…それは掴みかけた幸せがあっという間に去り、その後は諦念とともにあったように思えるが、彼が老人になってから至る境地には驚きと感動を覚えずにはいられない。

アルプスの自然を全身で受け止め生き抜いたエッガーの一生。そこを観光で訪れた人たちは決してエッガーの境地に達することはできないのだろう。