ポーランドのボクサー
★★★★
69752。ポーランド生まれの祖父の左腕には、色褪せた緑の5桁の数字があった―アウシュヴィッツを生き延び、戦後グアテマラにたどり着いた祖父の物語の謎をめぐる表題作ほか、異色の連作12篇。ラテンアメリカ文学の新世代として国際的な注目を集めるグアテマラ出身の鬼才、初の日本オリジナル短篇集。
短編なのか長編なのかも分からずに読み始めたのだが、途中から主人公が作者と同姓同名であることと短編同士がつながっていることに気が付いた。
ポーランドに生まれた祖父がアウシュヴィッツでポーランドのボクサーと出会い、裁判の時に言うべきこと言ってはいけないことを教わり、それにより銃殺されずに済んだ。アウシュヴィッツにいたことを隠し続けていた祖父が死ぬ間際になって主人公エドゥアルドに真実を語る。
民族や宗教の呪縛から逃れようとしながらもそこを避けては通れない。
ユダヤ系として生まれたエドゥアルドは、ユダヤ人であるということを意識しないではいられないのだが、しかし正統派ユダヤ教徒と結婚することになりガチガチの宗教心を見せつける妹には反発を覚えずにはいられない。
民族からは逃れられないのに、その中にどっぷり浸ることもできない自分。自分はいったい何者なのか、苦悩するエドゥアルドは作者自身でもあるのだろう。
そんなエドゥアルドは旅先で出会ったジプシーの血を引くピアニストであるミランに魅了される。
世界を渡り歩くミランから次々と届く絵葉書。最後に届いた一枚を頼りにミランを探してベオグラードを訪れたエドゥアルドは、ジプシーにもセルビア人にもなりきれないミランに自分自身の姿を重ねていく。
苦い物語が多く読んでいて気持ちが沈んでくるのだが、最終話の主人公の語りに少しだけ救われた気がする。