りつこの読書と落語メモ

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お菓子とビール

お菓子とビール (岩波文庫)

お菓子とビール (岩波文庫)

★★★★★

『人間の絆』『月と六ペンス』と並ぶ、モーム(1874-1965)円熟期の代表作。最近亡くなった有名作家の伝記執筆を託された三文文士の友人から、作家の無名時代の情報提供を依頼された語り手の頭に蘇る、作家とその最初の妻と過ごした日々の楽しい思い出……。人間の、人生の裏表をユーモラスに見つめる、一種の文壇小説。

素晴らしい。ユーモアに満ちた語り口に何度もニヤリとさせられる。

作家として生きることの困難や職業作家の薄っぺらさ、そしてそれを取り巻く人たちへの批判をかなり辛辣に書いている。
作家としてはほとんど才能がないけれど世渡りや人付き合いだけでのし上がっていったロイ、若い作家の才能を見出すのが自分の使命と御託を並べながらも実際には食いモノにしている批評家には明らかにモデルがいそうだし、発表された当時もかなりの騒動になったのではないか。

しかしモームの語り口は辛辣なだけではなくあたたかさがある。だから読んでいて楽しいのだ。
凡庸さや卑小さを歯に衣着せぬ言葉であらわしながらも、その人間全てを否定はしていない。面白がって見ている視線がある。

最近亡くなった有名作家ドリッフィールドの後妻から自伝を書くことを依頼されたロイは、晩年のドリッフィールドのことは直接知っているが無名時代の彼を知らないので、その時代に交友のあった語り手アシェンデンに情報の提供を依頼してくる。
依頼を受けたアシェンデンは、少年時代に交流のあったドリッフィールドと最初の妻ロウジーとの思い出が蘇ってくる。

まだ階級社会と堅苦しい道徳観の残る田舎に引っ越してきたドリッフィールド夫妻。
厳格な叔父からはドリッフィールド夫妻のような階級の低いやくざものとは付き合うなと言われていたものの、魅力的な夫妻に惹きつけられていくアシェンデン少年。
「尻軽女」と陰口を叩かれながらもそんな噂は意に介さず自由に振舞うロウジー。この不実な女ロウジーの魅力的なことといったら。周りをぱっと照らし出す明るさとおおらかさが伝わってきて好きにならずにはいられない。

久しぶりに読んだけど、モームはいいなぁ!
改めてモーム祭りをやりたくなってきた。