りつこの読書と落語メモ

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雪の練習生

雪の練習生

雪の練習生

★★★★★

サーカスの花形から作家に転身し、自伝を書く「わたし」。その娘で、女曲芸師と伝説の「死の接吻」を演じた「トスカ」。さらに、ベルリン動物園で飼育係の愛情に育まれ、世界的アイドルとなった孫息子の「クヌート」。人と動物との境を自在に行き来しつつ語られる、美しい逞しいホッキョクグマ三代の物語。

大好きな多和田葉子さんの作品。表紙の熊がなんとも良くて、きっと好みだろうと思っていたらやはりとても好きだった。
物語は三つのパートに分かれている。

一話目の書き手は熊。かつてはサーカスの花形でその半生を自伝に書いたらそれが評判になるがそれがためにいくつかの国を亡命するはめに陥る。
会議に出てそつなく発言したり空気を読んだりウオッカを飲んだり悪夢にうなされたりするのだが、この熊はどこまでも人間的なわけではない。あくまでも熊であって人間ではないのだけれど、人間のようには感じなくても人間以上に感じてもいて、その動物的なところと繊細さのアンバランスがどうにもこうにもたまらない。
それはあくまでも多和田さんが作った世界なのだが、曖昧さや矛盾を含めて、そうなのかもしれないと思わせる説得力がある。

二話目はサーカスで熊使いをしている女性が主人公。
ここで視点が熊から人間に変わるのだが、どういうわけかあまり違和感がない。 生きづらさやよるべなささは熊も人間もあまり変わらない。
わからないけど好きだ。好きだけどわからない。わからないから怖い。怖いけど惹かれる。
人間同士の関係にはどこか淡白な主人公が恋をするように熊に惹かれていくのが面白い。

どんなに愛して理解しようとしても熊の心を人間が理解できないように、熊にも人間はわからない。笑えるのだけれど無性に泣きたくなるような描写もあって、とても揺さぶられた。大好きだ。