りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

奇貨

奇貨

奇貨

★★★★★

男友達もなく女との恋も知らない変わり者の中年男・本田の心を捉えたのは、レズビアンの親友・七島の女同士の恋と友情。女たちの世界を観察することに無上の悦びを見出す本田だが、やがて欲望は奇怪にねじれ―。濃く熱い魂の脈動を求めてやまない者たちの呻吟を全編に響かせつつ、男と女、女と女の交歓を繊細に描いた友愛小説。『親指Pの修業時代』『犬身』で熱狂的な支持を得る著者5年ぶりの新作。著者26歳の時に書かれた単行本未収録作も併録。

今まで本気で「恋」らしき感情を覚えたのは風俗嬢に対してのみ。率直な女には「悪くはないけどなにか本気で求められてる感じがしない」と言われ、恋人もなく友達もない中年男の本田。
レズビアンの七島と同居をはじめ、お互い期待することなく受け入れあう関係に心地よさを感じていたのだが、ある日七島に心の底から分かり合える女友達ができ、疎外感と嫉妬の気持ちにさいなまれるようになり…。

とても面白かった!こんな男現実には絶対いないでしょ?と思いつつも、そんなこともうどうでもよくなるくらいこの主人公が好きだ。

恋愛でさえ分かり合える友だちとの親密な関係のスパイスじゃないか!なんてうらやましい!と本田は七島とヒサの会話を盗み聞きして身悶える。
自分もそんな友だちが欲しい。いやそこまでは望まないからそんな友だち同士の会話を心ゆくまで見ていたい。そして時々仲間に入れてほしい。
なにかと「薄い」と言われ続けいていた本田の自分でも気付いていなかったこの「濃い」感情。

性を核にしつつも、性を越えたところでの嫉妬や愛や共感が丁寧に描かれていてとても見事だと思う。
嫉妬の生まれる瞬間をこんなにも嫌らしくなく可笑し悲しく描けるなんて凄い。

併録された「変態月」の瑞々しさも好きだ。
この作家、はじめて読んだけど大好きになった!次々読んでいきたい。