りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

居心地の悪い部屋

居心地の悪い部屋

居心地の悪い部屋

★★★★

うっすらと不安な奇想、耐えがたい緊迫感、途方に暮れる心細さ、あの、何ともいたたまれない感じ—。心に深く刻まれる異形の輝きを放つ短編を集めたアンソロジー。

よくもまぁこんな作品ばかりを集めたものだ…。居心地の悪さで統一されてはいるけれど、テイストや肌触りはそれぞれ違う。さすが岸本さん!と思うけれど、こんなふうに自分の名前でアンソロジーを組める翻訳家ってほんとに日本には数えるほどしかいないのだよなぁと思うと、残念な気持ちにもなる。
岸本さんも大好きだけど、例えば古屋美登里さんとか中野恵美子さんとか…他にも好きな翻訳家はたくさんいて、その人たちにもこういうアンソロジーを組んでほしい、と思う。

以下、印象に残ったもの。

・「へべはジャリを殺す」(ブライアン・エヴンソン)
このわけのわからない居心地の悪さと言ったら…!
ヘベがジャリのまぶたを縫い合わせるところから物語は始まる。
2人の関係性もなぜそのような行為がされたのかという理由もわからないまま、いきなり暴力で始まり暴力で終わる。
あまりにも唐突すぎてユーモアさえも感じてしまうのだが、しかし膝から力が抜けるような無力感も感じるのだ。
なんだろう、これは。

・「チャメトラ」(ルイス・アルベルト・ウレア)
銃弾で頭の後ろにぽっかり穴が開いてしまった瀕死の友を担いで野営をするガルシア。 その夜、友のぽっかり開いた穴から彼の生まれ育った町や幼馴染や抱いた女たちや次々出てきて…。
ひぃーーー。ないよ、ないってこんなこと。と思いながら、なくはないかも、あるかもしれない、でも見たくない知りたくない、という気持ちになる。

・「あざ」(アンナ・カヴァン
寄宿学校で知り合いになったHという女生徒。美しいのにどこか浮世離れしていて常に奇妙な無効な感じがつきまとう。それは彼女の腕にある「あざ」のせいなのか?
そして何年もたってから外国の城で囚われていた人の片腕に見えた「あざ」。これはまさか…?
わーーなんだろうこの不吉な感じは。幻想的なのだが妙に現実的であたかも自分がその場にいたような感覚になって、ぞぞぞ…。
代表作の「氷」もいつか読んでみたいと思う。

・「来訪者」(ジュディ・バドニッツ
てわーい大好きなジュディ・バドニッツ
ありきたりな母娘の会話のようでもあり、何かとてつもない秘密が隠されているようでもあり、なんだかよくわからないけれど、噛み合わない会話と焦燥感に、読んでるこちらの世界もぐらりとなる。

・「潜水夫」(ルイス・ロビンソン)
これはまたなんとも気持ちの悪い作品。
ニヤニヤしながら悪意を持って土足で踏み込んでこられると、今まで自分がはぐくんできた大切なものを何もかも根こそぎ奪われるのではないかと不安になる。
この神経に障る感じがすごくリアルだ。

・「やあ!やってるかい!」(ジョイス・キャロル・オーツ)
ジョギング中に現れる長身マッチョなジョガーはすれ違いざまにどやしつけるように「やあ!やってるかい!」と声をかけて走り去っていく。
その素っ頓狂さと唐突さにみなドキっとしたり不快感を感じたり言い訳をしたくなったり…。
ぜいぜい言いながら走り続けてこのラスト。ぞくっ。

・「ささやき」(レイ・ヴィクサヴィッチ)
自分がイビキをかいているか心配になって寝ているところを録音した男。テープには見知らぬ男と女のささやき声が入っていた…。
これこわーーーいーー。すごいこわいーー。でもちょっとユーモラス。でもこわい。ひー。