りつこの読書と落語メモ

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文芸漫談シーズン4・コンラッド『闇の奥』

コメントで教えていただいて、文芸漫談・コンラッド『闇の奥』というライブイベントに行ってきたのである。
こんなイベントがあることを全く知らなかったのだが、「ヒカルがボケて、いとうがツッコむ!芥川賞作家と稀代の仕掛け人がすてみでおくる、”漫談スタイル”の超文学実践講座」ということで、なんともうシーズン4なのである。

大好きな奥泉光さんといとうせいこうさんが漫談スタイルでコンラッド「闇の奥」を語るというなんとも魅力的な企画。
場所も下北沢で会社帰りに行けそう!と思い、チケットを予約したのが1ヶ月前。
平日だったので障害や急な依頼があって行けなくなったらどうしようとドキドキしながら当日を迎え、逃げるように会社を出て下北沢へ。

会場である下北沢タウンホールに行くとすでに入場は開始になっており、ホールにはたくさんの人が!
文学系イベントってどういう人が来ているのだろうと思っていたのだが、わりと年配の人が多かったかな。いやでも若い女性や私と同じぐらいの年の男性も来ていて、思っていたより人が多くて驚いた。

音楽とともに奥泉さん、いとうさんが登場。
奥泉さんが蝶ネクタイ+スーツ姿なのがファンキーでかわいい。対するいとうさんはいつもどおりのラフな格好。
「次回のお題を何にしようかと思ったときに、闇の奥だったらもう誰も食いついてこないだろう、と思って決めたのに、意外にもこんなにお客さんが集まっちゃった」と言ういとうさん。
「そうねぇ。こんなに闇の奥に興味を持ってる人がいるとは驚きだね!」とニコニコ言う奥泉さん。
「ま、いきなり闇の奥に入るのもなんなんで、ちょっと話をしましょうか」と、奥泉さん。

本格的な小説の方ではその片鱗もうかがえないが、クワコーやtwitterでのおとぼけつぶやきから、この人はもしかしてものすごい面白がり屋なのでは?と思っていたのだが、いやもうまさに!ニコニコ語りだしたら止まらない面白話の数々。

「あのねーぼく最近飲んで記憶をなくすようになっちゃいましてー」
「あーーそりゃまずいですねー」
「そうなんですよー。それでね、この間お花見したんだけどね。いつも家の近くの公園にビニールシート敷いてお花見するのね。何人かで。それでお花見したんだけどね、その後寒くなってきたから自分の家に移動して5時間ぐらい飲んでるんだけど、公園を撤収したところからの記憶が一切ないの」
「あーー、なるほど。でも寝てたわけじゃないんでしょ?」
「そう。寝てたわけじゃなくて、それなりになんかしてたみたいなんだけどね。」
「それやばいですね」
「やばいよねー。あ、あとね。この間出張した時なんだけどね、そのときにもね」

次から次へと「あ、そういえば」「話が飛ぶけど」「それで思い出したけど」と出てくる話がどれも面白くておかしくて笑いっぱなし。

いとうさんの話もおかしかった。
「闇の奥にインスパイアされて作られたのが地獄の黙示録で…って話をしようと思いながら、出演した俳優の名前(デニスホッパー)がどうしても出てこなくて、あれはなんていったっけ…ええとええと…ああっ、だめだ!と思いながら乗り換えの駅を歩いていたら、向こう側からセーターを着たおばさんが歩いて来たんだけどそのセーターに”HOPPER”って編みこんであって!ああ、デニスホッパー!って思い出して。すごくないですか?ありえなくないですか、こんなこと!」と。
「それはすごい。運命だね!」と言う奥泉さん。
「でしょう?っていうか、HOPPERって…。バッタですよ!そんな編みこみがしてあるセーターを着て歩いてくるって」
「まさにせいこうさんに啓示を与えるためにおりてきたんだろうね」

ねぇ、この人たち、お笑いを仕事にしてるわけじゃないんだよね?なのにこの語り口の面白さはなに?
あーーもっと話してー。もっとこの2人の話を聞いていたいーーー。
と思っているところで、いよいよ本題へ。
お2人はびっしり付箋を貼った「闇の奥」(光文社古典新訳文庫)を手にして、ストーリーを追いながらそれぞれが気になった箇所を朗読するというスタイル。
始まった時に、お客さんの中でも同じ本をカバンから出す人が何名かいて、しびれた…。そうか!そうなのか!あたしも次回はそうする!(←次も行く気満々)

・ものすごく克明でリアルで素晴らしい表現で情景を描写しているが、それがどうしてそうなのか、ということは一切語られない。
・肝心なところは案外語られてない。(「そうなんですよね。クルトと話したことでこの語り手マーロウは啓示を受けたとか人生観が変わったといってるけど、じゃ肝心の内容は書いてない」「あのね。多分ね。たいしたことは語ってないんじゃないかと思いますよ(にやり)」「え、ええ?」「内容じゃないんですよ、おそらく。でもこのクルトの存在感というか、彼がこの未開の地と一体化したことで得たものとかそういうところが実際に会って話してみないとわからない」)
・それまでのリアリズムとは違った試み。ストーリーを起承転結できちんと描くのではなく、あったことや情景は描くけれど、その意味や内容は明らかにせず、しかしその中で何かを伝えるという手法。
夏目漱石は明らかにこの「闇の奥」を同時代に読んでおり、初期の作品にはその影響が見られる。

…笑うのに忙しくてメモもとれず肝心の内容が伝えきれないのだが。
でも奥泉さんはさすが教授なだけあって非常に教えるのが上手でわかりやすい。
さらにいとうさんがそこに絶妙な感じで突っ込みを入れるので、さらにわかりやすくなる。
そして「なんかわかんないんですよ」「書いてないんですよ」「でもこの表現とか凄くないですか?」と、わからないことはわからないと明言し、でもその中からここは素晴らしい、ここは面白い、こんなところにベタなギャグが、と惜しげもなく披露する奥泉さんの面白がり精神とサービス精神がブラボー。

最後はいとうさんがアプリでジャングルの音を流し、そこに奥泉さんのフルートの演奏と、どこまでも贅沢で楽しいライブだった。
次回は二葉亭四迷浮雲」。絶対行きたい!

ホールを出ると物販コーナーにお2人がニコニコと座っているのを発見。
その場で著作を買ってサインをしていただいちゃった!わーい!