りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

傷痕

傷痕

傷痕

★★★

この国が20世紀に産み落とした偉大なるポップスターがとつぜん死んだ夜、報道が世界中を黒い光のように飛びまわった。彼は51歳で、娘らしき、11歳の子どもが一人残された。彼女がどうやって、誰から生を受けたのか、誰も知らなかった。凄腕のイエロー・ジャーナリズムさえも、決定的な真実を捕まえることができないままだった。娘の名前は、傷痕。多くの人が彼について語り、その真相に迫ろうとする。偉大すぎるスターの真の姿とは?そして彼が世界に遺したものとは?—。

キングオブポップことMJをモデルにしたフィクション。
彼の周囲を多角的に描くことでその姿を浮かび上がらせながらも、その姿はぼんやりしていて、その素顔は最後まで見えない。

彼の娘、姉、彼の大ファンと結婚した男、彼を憎むゴシップ記者、そして彼を訴えた少女。
彼はそれぞれの人生に光と影を与え、時には取り返しがつかないほどの大きな爪痕を残す。

最後まで読んでもなにも明らかにはならないしなぞはなぞのままだが、きっとこれは桜庭さんなりの追悼だったのだと思う。
読みやすかったが私には正直それほど刺さるものはなかった。

MJに対するリスペクトなのかもしれないが、フィクションなのだから桐野夏生ぐらいの確信をもってもっと思いきり書いてほしかったなぁ、と。 生身の姿を描いたのは子ども時代の彼だけで、なんか遠慮がちというかフィクションならではの切り込みがなくて、物足りなさが残る。