りつこの読書と落語メモ

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ミスター・セバスチャンとサーカスから消えた男の話

ミスター・セバスチャンとサーカスから消えた男の話

ミスター・セバスチャンとサーカスから消えた男の話

★★★★★

1954年アメリカ。ある日突然、サーカス団から一人の魔術師が姿を消した。ヘンリー・ウォーカー―黒人の魔術師だった。謎の失踪について、そしてヘンリーの人生について、様々な語り手たち―団長、奇体の団員、私立探偵―が各々に語りだす。702号室で出会った魔術師のこと、彼と交わした「血の誓い」、「愛のマジック」、殺人、黒人ではないこと…。次第に見えてくる、ヘンリー・ウォーカーという魔術師とは。マジックのように読み手を欺き、そして惑わせる。『ビッグ・フィッシュ』で広く知られた著者お得意のトール・テイルによって繰り広げられる、変幻自在な物語。

ヘンリーはヘタクソな黒人の魔術師。彼がある日姿を消し、さまざまな語り手が彼について、彼から聞いた物語について、語り始める。
ヘンリーが歩んできた人生は?そしてヘンリーという人間はいったい何者だったのか?そしてなぜ消えてしまったのか?

病弱だった母が死に、父は貧乏のせいで擦り切れていき酒に溺れ、ヘンリー自身も悪魔からマジックを教わりその代償のように愛する妹を失い、妙なクスリを飲んで黒人のようになって魔術師として生きている。
ヘンリーが出会う人たちは世の中からはみ出したフリークばかり。 ヘンリーが語る自分の物語も、彼らの人生も、なんだか作り物っぽくて怪しいんだけど、彼らがヘンリーに抱いていた気持ちには嘘がなくて、ヘンリーがとても魅力的で優しくて愛情を抱かずにはいられないような人間だったことをうかがわせる。

ヘンリーは自分が語ってきたその物語を本当に信じていたのかもしれないし、事実を分かっていながら目を背けて無理矢理物語を作っていたのかもしれない。
とても物悲しい話なんだけど、ちょっとばかばかしかったり胡散臭いところもあって、それこそがダニエルウォレスの真骨頂って感じ。

現実と幻想の境目が曖昧で、さらにそこにマジックという要素が加わることで、怪しさが倍増している。
まさにフィクションの醍醐味っていう感じがする。ほら話の中に隠された真実。辛すぎる真実に、強烈なフィクションのスパイスをふりかけることで、なんだかドラマチックだけど思わず笑ってしまうような味が出てくる。
辛い人生を生きていく上で、物語っていうのは欠かすことができない要素なんだと思う。