りつこの読書と落語メモ

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五街道雲助独演会「お直し」を聴く

1/25(土)、社会教育会館で行われた「五街道雲助独演会『お直し』を聴く」に行ってきた。


・あられ「まんじゅうこわい
・雲助「身投げや」
・雲助「初天神
~仲入り~
・雲助「お直し」


雲助師匠「身投げや」
何度見ても面白い。
身投げを止めてくれた人を頭から足の先までじっくり見て値段を決めるのがおかしいし、「こいつは金持ちだ」と見込んで言った額の半分しか持ってないと聞いて「値切るとはあんまりじゃぁねぇか」と言うのにも笑ってしまう。
後から出てくる父子がどこをどう見ても怪しいのもおかしくて、楽しい~。

話し終わったあとにいったん引っ込むと思ったのか音楽が鳴ったのを止めて、そのまま二席目…というのもなんか贅沢で嬉しい。


雲助師匠「初天神
今日は1月25日。今日「初天神」をやらないでいつやるんだ、と言いながらの「初天神」。うわ、雲助師匠で「初天神」ってなんかとっても珍しい気が。
金ちゃんがちゃっかりしているけど、父子のやりとりがしつこくないのがとても雲助師匠らしくて好き!
飴買っておくれよと言われて「買わないって約束だろ」と言うんだけど「そんなに高いもんじゃねえよ」と言われると「ま、それもそうだな」。
飴を舐めながら選ぶところもあっさりしているから、「ああ、ついやっちゃったんだな」感。
だんご屋に声をかけると「いらっしゃーい」と地の底から湧き出たような暗い声。
「お前なんだ客商売のくせにそのやる気のない声は。みつちょうだい。え?そんなするの?」と受け取って「あーみつが垂れるじゃねぇか」と舐めはじめて、なめながらだんご屋に小言。ああ、これも自然に舐め切っちゃった(笑)。

凧をねだられた時はもうおとっつぁんめんどくさくなちゃって言いなり(笑)。
「大きい凧は売らねぇんだよな?」と凧屋に聞くと「いいえ、売りますよ!」。
そう言われて「てめぇら、グルだな」。

凧を上げ始めるとすっかり楽しくなっちゃって隣の子どもに「じゃまだからどけ。え?どかない?やるのか?」と言って凧で喧嘩。「ほーら、糸が切れて飛んでいっちまいやがった。ざまぁみろ!」。

子どものような父親がとてもチャーミングな「初天神」だった。なによりくどくなくていい!


雲助師匠「お直し」
売れなくなってきて落ち込んでいるところに優しい言葉をかけられてほろっとなる花魁。
店の主人のお慈悲で二人でそのまま働けるようになって徐々に家財道具も揃って働くことに張りが出てくる女に反して、遊ぶようになる亭主。
すっからかんで帰って来た亭主に「けころ」をやろうと言われ、渋々ながら承知。
出る前に化粧をする姿の色っぽさ…。そして声を掛けていい客かどうかを見定める手慣れた様子に、この女が若いころに相当な地獄を見て来たことをうかがわせる。

入って来た客は気のいい酔っ払いの職人で、このやりとりの部分が明るくて楽しくて和得るところが好き。
亭主の焼きもちで「直してもらいなよ」と言われても「ずいぶん直しがはやいな」と言いながら言いなりになってほくほく金を出すのが可愛らしい。

それだけに二人になってからの会話に涙涙。
とてもよかった。雲助師匠の「お直し」はほんとに絶品だなぁ。

末廣亭1月下席夜の部

1/24(金)、末廣亭1月下席夜の部に行ってきた。

・夢花「魚根問い」
・マグナム小林 バイオリン漫談
・歌蔵「真田小僧
・蝠丸「八百屋お七
~仲入り~
・小助六「紋三郎稲荷」
・ニュースペーパー コント
・談幸「短命」
・遊吉「うなぎや」
・正二郎 太神楽
・小文治「七段目」


蝠丸師匠「八百屋お七
久しぶりの蝠丸師匠。会いたかったよーうぉーーん。
「正座ができないもんですからちょっとずるしてます」とおっしゃっていたけど、全然わからなかった。
「今日は珍しい噺を」と言って「八百屋お七」。
ゆるゆるっとしているからこちらもゆるゆるっと聞いているんだけど、脱線もお客さん参加もほどがよくて本当に楽しい。
今年は蝠丸師匠の高座、たくさん見られますように!


助六師匠「紋三郎稲荷」
うーん。かっこいい。
ふわっと出てきて楽しそう~にまくら話してゆるゆるっと珍しい噺。
乗せた客が「お狐様だ」とおびえる駕籠屋もおかしいし、村の人たちが一目でいいから拝ませてほしいとやってきてると聞いて賽銭箱を用意させるのも楽しい。
さすが地元(松戸)!こういうこともあったのかもね、と思わせる楽しい「紋三郎稲荷」だった。


談幸師匠「短命」
見るたびに談幸師匠がかる~くなっている気がする。芸協らしくなってきてる?(笑)
お決まりの噺だけどとっても楽しい。隠居の匂わせ方も「ほら、わかるだろ」みたいな目配せで、その繰り返しがおかしい。
ようやく合点がいったはっつぁんが家に帰って来たときのおかみさんのドスの聞いた「おかぇりぃー」に大爆笑。
テンポがよくて明るくて軽くて楽しかった~。


遊吉師匠「うなぎや」
遊吉師匠も久しぶり。早口だけどすごく聞きやすい。言葉数を調べたらおそらくものすごい上位にくるのではないかしらん。
「うなぎや」もたいてい前半がダレちゃうんだけど、とにかくスピードが速いからダレる暇なし(笑)。
主人が鰻をつかみながら店を出ていくスピードも心なしか速く感じておかしかった~。


小文治師匠「七段目」
若旦那が芝居をやりながら店に帰ってきて、見物人が大勢付いてきちゃってるっていうのがおかしい。
歌舞伎のしぐさがとても堂に入っていてきれいで、思わず見とれてしまう。きれいな師匠だなぁ…。
定吉と二人で芝居をやる場面がしつこくないのもよかった。

久しぶりの定席。楽しかった~。いい番組だった。

靴ひも

 

靴ひも (新潮クレスト・ブックス)

靴ひも (新潮クレスト・ブックス)

 

 ★★★★★

老夫婦が夏のヴァカンスから自宅に戻ると、留守宅が何者かに荒らされていた。家具は倒され、あらゆるものが散乱し、猫が姿を消している。困惑する夫が目にしたのは、40年前、夫が家を出たことをなじる妻からの手紙の束。決して癒えることのなかった過去の傷跡が、次第に浮き彫りにされてゆく。家族はどこへ向かうのか―。ジュンパ・ラヒリによって英訳され、「ニューヨーク・タイムズ」2017年“注目の本”に選ばれた話題沸騰のイタリア小説。 

面白かった!!夫婦や家族のありかたについて考えさせられる。

夫、妻、子どもたち、それぞれに言い分があってどれも分かる。勝手だなぁ…と思うけれど、でも分かる。

夫婦がいがみ合っていたらその犠牲になるのは子どもだけれど、子どもだっていつまでも子どもでいるわけじゃない。
そう考えると親だって最初から大人なわけじゃなく子どもが大きくなっただけのことなのだ。

第一部を鬱々とした気持ちで読んだけれど二部、三部とすすむにつれ、爽快感すら。

欲望と罪悪感、裏切りと報復。
夫が一時的に家族を棄てたことを決して夫を許さない妻。そんな妻の顔色だけを窺う夫。それでも「子どものため」と言って別れることができない。子どもたちはそんな両親の関係を見て育ち、両親への嫌悪を募らせていく。

人間は愚かだなぁ…。でも愚かなりに生きていくしかないんだよな。
壊したところから何が始まるのか、ちょっと見てみたい気がする。

秘密

 

秘密

秘密

 

 ★★★★★

結婚する機会があったのに結婚を選ばなかった、あるいは選べなかった女性の物語が4話。
自分の生い立ち故に結婚はしないと決める女性の頑なさ。その一方で押し切られたり断りきれなくて別の相手と結婚してしまう男たち。

「毀れた絵具箱」「遠い華燭」は何ともいえず嫌な感触が残る物語(でも嫌いじゃない)。

「雑踏」「秘密」は苦さもあるけれどふわっと笑ってしまうようなところがあってとても好きだ。

面白い作家さんだなぁ。誰とも似ていない味わいがあって次々読んでみたくなる。
ほとんど絶版になってしまっているのがもったいない。こうして読めるのは図書館のおかげ。感謝。

小燕枝落語手帳

1/22(水)、湯島天神参集殿で行われた「小燕枝落語手帳」に行ってきた。
 
・ 小燕枝「意地比べ」
・ 小燕枝「替り目」
~仲入り~
・プレゼントコーナー
・ 小燕枝「御慶」
 
小燕枝師匠「意地比べ」
昨年は自分も奥さん( 小燕枝師匠、自分の奥さんのこと「化けベソ」って呼ぶんだよね…)も風邪をこじらせて大変だった。
医者に通って薬を飲んでも全然良くならない。最後は「気管支炎」になって咳が止まらず苦しかった。
ようやく自分も奥さんも良くなってきたと思ったら、今度は猫がご飯を食べなくなっちゃった。どんどん痩せてきて心配になって病院に連れて行ったら、 猫の食欲を増進させる薬があるっていうんだけどこれが人間の躁うつ病の薬と同じ成分らしい。
もらってきて飲ませたら効果てきめん。
ご飯をばくばく食べるようになって、ああよかったと思ったら、今度は食べた後30分ぐらいして「ご飯くれ」。
夜ご飯食べさせても夜中に「ご飯くれ」って催促に来る。
最初は奥さんのところに行って催促してるんだけど奥さんは一度寝ると決して起きないから「こりゃだめだ」と諦めると私の所に来る。最初は布団を引っ張ったりしてるんだけど、そのうち前足で頭をガリガリやってくるので、とても寝ていられない。
しょうがないから起きてご飯をやって、やれやれと布団に戻って眠ると、またやってきて「ご飯くれ」。
次に病院に行った時は「あの薬、やめさせてください」とお願いしました。
 
…ぶわははは。おかしくておかしくてもう大笑い。
最高だ。
 
江戸っ子のまくらから「 意地比べ」。
江戸っ子の意地の張り合いの噺だけど、最初から最後まで楽しくて大笑いだった。
「意地比べ」とか「三方一両損」とか「大工調べ」とか江戸っ子の噺ってあんまり好きじゃないんだけど、 小燕枝師匠のは楽しい!
はっつぁんがどこで相手を「かちん」とさせたかが、とっても分かりやすくて笑っちゃう。
意地を張り合ってるのに仲良しのまま、というのもなんともいえずいいなぁ。
面白かった。
 
小燕枝師匠「替り目」
お酒は飲めないという 小燕枝師匠がどうしてこんなに酔っ払いがうまいんだろう。
ぐずぐずになっためんどくさい酔っ払いぶりがおかしいおかしい。
ああだこうだといちいちうるさいのもおかみさんへの小言ものろけも、とってもチャーミング。
「替り目」通しで聴くのも久しぶりだったな。
 
小燕枝師匠「御慶」
落語が好きで通っているとお客様も同じ噺に当たることが多くなると思います。
その時に「なんだよお前この前と同じ噺じゃねぇか」とはおっしゃらないでいただきたい。
同じ落語家の同じ噺に当たったということはそれだけ何度も来られている、健康だという証拠ですから、そう受け止めていただきたい。
これが我々とお客様との申し送りです。
 
…うわーー。耳が痛い!
そうですよね…はい…すすすびばせん。
 
富くじのまくらから「御慶」。
八五郎のキャラクターがはっきりしていてチャーミングなので、最初におかみさんの半纏を無理矢理引っ剥がすところも、ほしい番号が売れてしまっていてがっかりするところも、易者に声をかけられて相談するところも、生き生きと姿が浮かんできて楽しい。
おかみさんに「離縁する」と脅されたことも相当効いているのもおかしい。
当たって大喜びして話が全然かみ合わなかったり、家に帰ると「また外れたんだろ。いい加減離縁状を書いておくれ」と文句を言うおかみさんに小判を見せるところもおかしいし、おかみさんの態度がころっと変わるのもそれを八五郎がけろっと許すのも、さっぱりした二人の性格が出ていていいなぁ。
ぎょけいっ!のおたけびもなんともユーモラス。

楽しかった~。最初から最後までとても楽しい「御慶」だった。
やっぱりこの噺って結構難しいんだな。 

言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか

 

言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか (集英社新書)

言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか (集英社新書)

  • 作者:塙 宣之
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2019/08/09
  • メディア: 新書
 

 ★★★★★

二〇一八年、M‐1審査員に抜擢された芸人が漫才を徹底解剖。M‐1チャンピオンになれなかった塙だからこそ分かる歴代王者のストロングポイント、M‐1必勝法とは?「ツッコミ全盛時代」「関東芸人の強み」「フリートーク」などのトピックから「ヤホー漫才」誕生秘話まで、“絶対漫才感”の持ち主が存分に吠える。どうしてウケるのかだけを四〇年以上考え続けてきた、「笑い脳」に侵された男がたどり着いた現代漫才論とは?漫才師の聖典とも呼ばれるDVD『紳竜の研究』に続く令和時代の漫才バイブル、ここに誕生! 

面白かった!

芸協の寄席に行ってナイツに当たるとすごい得した気分。それは二人がリラックスしているけどいつも本気で面白いことをやろうとしてくれているから。

これを読むと塙さんがどれほど漫才を愛していてM1をどういう目で見ているのかがよくわかる。
M1は一時期、毎年楽しみに見ていたので、ああ…あの年はそうだったとかあのコンビはそうだったのかと、とても興味深かった。

この本の中でも言われていたことだけど、本当に好きなことを語る人を見るのはとても楽しいし幸せな気持ちになるなぁ。よい!

春風亭百栄独演会

1/20(月)、ミュージックテイトで行われた「春風亭百栄独演会」に行ってきた。
 
・百栄「お血脈
・ 百栄「寿司屋水滸伝
~仲入り~
・ 百栄「生徒の作文」
・ 百栄「ものいい」
 
百栄師匠「お血脈
仏教についてのまくら。まじめな話なのに、なんか面白いのは百栄師匠の喋り方がゆるゆるしているからなのかな。楽しいなぁ。
そんな長めのまくらからの「お血脈」。
悪いことをした人間が血脈の印をいただいてみんな極楽に行ってしまうため、地獄に来る人間がいなくなってしまい、「それじゃ基準を緩くしよう」と基準を緩くしたせいで、地獄は小市民の集まりになってしまったというのがおかしい。
血脈の印を盗みに行った五右衛門が善行寺に行って「あれ?なんかガイジンばかりじゃねぇか」というのもおかしいし、写真を撮ってくれと言われてスマホを渡されるのもおかしい。
新作派の人が古典をやるとムムムなことが多いけど、百栄師匠は古典も新作と同じぐらい楽しい。
 
百栄師匠「生徒の作文」
母校のサッカー部が大会で優勝したというまくら。
実はその決勝戦の2日前に母校に学校寄席で呼ばれて生徒さんたちの前で落語をしたんですよ。
私そこで「露出さん」をやりまして…多分それを聞いたサッカー部の生徒さんたちに勇気を与えたんだと思います。
 
…ぶわははははは!!
百栄師匠、ほんとですか?ほんとに「露出さん」やったんですか?まーじーで?
そんなまくらから「生徒の作文」。
読む作文の内容がめちゃくちゃおかしい。
料理評論家になりたい岸朝子(小学生)がお友だちの誕生日パーティに行って出てくる料理を厳しく批判。さんざん批判した後で、でも庶民だからむしろいいのかもしれません、というのに圧倒的な上から目線に爆笑。
その次に読んだのが、変態小学生。給食係の女子や保健の先生への妄想が気持ち悪くておかしい。
最後に読んだとっちらかった小学生の話題の飛び具合にも笑ったー
 
百栄師匠「物言い」
初めて聴く噺。
人気力士の横綱昇進がかかった勝負で物言いがつき、役員が話し合い。
話し合ってる人の名前が「一合炊きさん」って?(笑)
誰がどう見ても相手の力士の方が勝ちなんだけど、この相手力士、その名もディスリ山。薬物疑惑もあるブラックな力士なのだ。
一合炊きさんだけは「勝負は勝負」という考えなんだけど、他の人たちはみな人気力士に軍配を上げるべきという考え。
しかし みんなが説得しようとしてもどうしても応じない一合炊きさんは、たとえ人間性に問題があってもその選手や競技自体は嫌いにならないと力説。
そこであれこれ話し合いが行われ…。
 
次々挙がる選手の名前だけで笑える。
途中でちょっとネタが飛んだりしてたけど(笑)それもおかしくて、笑った笑った。
久しぶりのももえちゃんの独演会、楽しかった!
 
 
 

完全版 韓国・フェミニズム・日本

 

完全版 韓国・フェミニズム・日本

完全版 韓国・フェミニズム・日本

  • 作者: 
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2019/11/29
  • メディア: 単行本
 

 ★★★★★

ベストセラー小説『82年生まれ、キム・ジヨン』の著者チョ・ナムジュによる傑作短編「家出」、シンガー・ソングライターのイ・ランによる初邦訳作「手違いゾンビ」、新世代のフェミニスト作家ユン・イヒョンの代表作「クンの旅」、性暴力をめぐり社会の現実を克明に暴くパク・ミンジョン「モルグ・ジオラマ」など、韓国文学の最前線をいち早く紹介!さらに、いま韓国で最も注目を集め、未来の文学を担う作家ファン・ジョンウンとチェ・ウニョンのふたりによる、本書のための書き下ろしエッセイを収録。他にも大注目の書き手たちによる書き下ろしと特別企画を加え、「文藝」の特集「韓国・フェミニズム・日本」がさらにパワーアップした、『完全版 韓国・フェミニズム・日本』としてここに誕生! 

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目次

【巻頭言】
斎藤真理子「未来から見られている」
【小説】
チョ・ナムジュ「家出」すんみ/小山内園子訳
イ・ラン「手違いゾンビ」斎藤真理子訳
ユン・イヒョン「クンの旅」斎藤真理子訳
パク・ミンジョン「モルグ・ジオラマ」斎藤真理子訳
【特別寄稿】
ファン・ジョンウン「大人の因果」斎藤真理子訳
チェ・ウニョン「フェミニズムは想像力だ」古川綾子訳
【対談】
斎藤真理子×鴻巣友季子「世界文学のなかの隣人 祈りを共にするための「私たち文学」」
【エッセイ】
小川たまか「痛みを手がかりに 日本と韓国のフェミニズム
倉本さおり「のっからないし、ふみつけない」
豊崎由美「斎藤真理子についていきます」
ハン・トンヒョン「違うということと、同じということ」
ひらりさ「街なかですれ違った(かもしれない)あなたへ」
渡辺ペコ「推しとフェミニズムと私」
MOMENT JOON「僕の小説は韓国文学ですか」
【論考】
江南亜美子「小説家が語りだす歴史」
姜信子「極私的在日文学論 針、あるいは、たどたどしさをめぐって。」
【特別企画】
斎藤真理子・選韓国文学極私的ブックリスト15
もっと読みたい、もっと知りたい! 厳選ブックガイド36冊
[完全版]わかる!極める!韓国文学一夜漬けキーワード集
現代K文学マップ『82年生まれ、キム・ジヨン』からBTSまで

「文藝」はまだ積んだままで、こちらの方を先に読んでしまった。

フェミニズム」と言われると腰が引けてしまう。自分も女として生まれ、女であるがために損したこと、危険な目にあったこと、不快な思いをしたこともあるけれど、得したことや目をつぶってもらったこともある。性差の話は極端に走ることも多く、見たくない嫌なものを見せられるのではないかという恐れは、例えばヘイトスピーチは聞きたくもないし議論もしたくないという気持ちに通じるものがあるかもしれない。

というわけで、ちょっとびくびくしながら読んだけど収められた作品はとてもナイーヴで身近で…「シングルストーリーではない」「多重性」という言葉が鴻巣さんと斎藤さんの対談の中に出てきたけれど、それがちゃんとあったのが良かった。
「小説」という形の中で表現されていると、理解しやすいし心の中にすっと入って行きやすいように思う。


「家出」チョ・ナムジョ
家長制度が長いこと根付いていた韓国では父親の権力は絶対。
家庭の中でのこまごまとした支払いなども「これは私の仕事だ」と言って母に何もさせてこなかった父がある日メモを残して家出してしまう。
いつか帰ってくるんじゃないかと娘や息子たちに言い出すことができなかった母だが、電気代やガス代などの支払期限が迫りやり方もわからず途方に暮れ、ついに子どもたちに連絡をとってくる。
物語は、父親が一番かわいがっていた娘の視点から語られるのだが、父がこの後にとる行動がなんともいえない余韻を残す。
ああ、お父さんも「役割」を演じていただけで、ほんとは強くもなければ立派でもなかったんだな…。
それが実家に集まる兄たちからもうかがえるところも面白い。


「モルグ・ジオラマ」パク・ミンジョン
収められている中ではこれが一番直接的でショッキングだった。
徐々に真相に近づいていくときの心臓のバクバク…。私にもこんな経験があったんじゃないかと思うほどのリアルさだった。

 

現代K文学マップはまさにお宝!ありがたい。

隼人・はる乃 二人会

1/18(土)、横浜にぎわい座で行われた「隼人・はる乃 二人会」に行ってきた。

・真山隼人(沢村さくら)「日本銀次 風流木遣り節」
・国本はる乃(沢村豊子)「遊女の国旗」
~仲入り~
・国本はる乃(沢村豊子)「将軍の母」
・真山隼人(沢村さくら)「徂徠豆腐」

 

真山隼人さん(沢村さくら師匠)「日本銀次 風流木遣り節」
前から一度聞いてみたいと思っていた隼人さん。
「今日は23歳と24歳の二人の会なんですがとても見た目からはそう見えないという…ぼくなんかどう見ても40代のおっさんですからね…」に笑う。
奈々福さんのお手伝いで「阿呆浪士」の代演に行ってきた、という話から。戸塚祥太さんとの絡みがあったということでその秘話など。すごいいい経験してるなぁ。
確かに見た目からはそんなに若い感じはしないけれど、いざ浪曲に入ると若さと勢いが前面に出てきて圧倒される。

ゴジラモスラみたいな内容です」と説明して「日本銀次 風流木遣り節」。
銀次のセリフと木遣りが実にかっこいい。
悪役の大名火消しの不細工ぶりにも笑ったー。

国本はる乃さん(沢村豊子師匠)「遊女の国旗」
内容はあまり好みではなかったんだけど、はる乃さん、声に伸びがあって明るくてかわいくて素敵ー。
これはおじいさんたちが夢中になるのも無理はない(笑)。
私の前にいたおじいさん、隼人さんの時はいかにも古くからの浪曲ファン(ちょっとやそっとのことでは俺は感心しねぇぞ)という風だったんだけど、はる乃さんが出てきたとたんに「たっぷり!!」。終わったときには「日本一!」。
あ、若い子は誰も認めねぇっていうわけじゃないのね。とちょっと笑ってしまった。

 

国本はる乃さん(沢村豊子師匠)「将軍の母」
これは講談では「桂昌院」。何度か聞いたことがあるけど大好きな話。
浪曲だとまたユーモラスなところや酷いセリフも笑えて楽しいなぁ。
はる乃さんにぴったりでものすごい盛り上がった。楽しかったー。

真山隼人さん(沢村さくら師匠)「徂徠豆腐」
すごく良かった。迫力だけじゃない…人情味というか、心に秘めたる思いみたいなものも出ていて。
確かに若い人には難しい演目だと思うけれど、体当たりでぶつかっていこう、という姿勢が見えて清々しい。
とてもよかった。

 

短編画廊 絵から生まれた17の物語 (ハーパーコリンズ・フィクション)

 

 ★★★★★

米国を代表する名画家、エドワード・ホッパー(1882‐1967)。作家ローレンス・ブロックは、ホッパーの作品は「絵の中に物語があること、その物語は語られるのを待っていること」を強く示唆していると語り、ホッパーの絵から物語を紡ぐこの短編集を考えついた。彼の呼びかけに集まったのは、スティーヴン・キングジェフリー・ディーヴァーマイクル・コナリー、リー・チャイルド…といった錚々たる顔ぶれ。各々の個性を遺憾なく発揮した華麗なる文豪ギャラリーが、ここに幕を開けた―。2017年アンソニー賞Anthology部門最終候補。2017年MWA賞受賞(L・ブロック作『オートマットの秋』)。

○収録作品

「ガーリー・ショウ」ミーガン・アボット 小林綾子
「キャロラインの話」ジル・D・ブロック 大谷瑠璃子
「宵の蒼」ロバート・オレン・バトラー 不二淑子 訳
「その出来事の真実」リー・チャイルド 小林宏明 訳
「海辺の部屋」ニコラス・クリストファー 大谷瑠璃子
「夜鷹 ナイトホークス」マイクル・コナリー 古沢嘉通
「11月10日に発生した事件につきまして」ジェフリー・ディーヴァー 池田真紀子 訳
「アダムズ牧師とクジラ」クレイグ・ファーガソン 不二淑子 訳
「音楽室」スティーヴン・キング 白石 朗 訳
「映写技師ヒーロー」ジョー・R・ランズデール 鎌田三平 訳
「牧師のコレクション」ゲイル・レヴィン 中村ハルミ 訳
「夜のオフィスで」ウォーレン・ムーア 矢島真理 訳
「午前11時に会いましょう」ジョイス・キャロル・オーツ 門脇弘典 訳
「1931年、静かなる光景」クリス・ネルスコット 小林綾子
「窓ごしの劇場」ジョナサン・サントロファー 矢島真理 訳
「朝日に立つ女」ジャスティン・スコット 中村ハルミ 訳
「オートマットの秋」ローレンス・ブロック 田口俊樹 訳

*エドワード・ホッパーの絵画18点をフルカラーで挿入

 

面白かった!バラエティ豊かなアンソロジーであるとともにエドワード・ホッパーの絵から生まれた物語だからなのか…独特の不穏な空気感が流れる物語が多い。
エドワード・ホッパーの絵には語られるのを待っている物語があることを示唆している、というのがこの本の編者ローレンスブロックの言葉だが、確かに物語を秘めているような絵だし、物語を読んでから改めて絵を見ると、もうそうであるとしか思えなくなるというのも面白い。

好きだったのが「宵の蒼」(ロバート・オレン・バトラー)、「海辺の部屋」(ニコラス・クリストファー)、「夜鷹」(マイクル・コナリー)、「アダム牧師とクジラ」(クレイグ・ファーガソン )、「映写技師ヒーロー」(ジョー・R・ランズデール)、「夜のオフィスで」(ウォーレン・ムーア )、「窓ごしの劇場」(ジョナサン・サントロファー)、「オートマットの秋」(ローレンス・ブロック)。
よく読んでいる作家…ジェフリー・ディーヴァースティーヴン・キングジョイス・キャロル・オーツの作品もどの作家のカラーが出ていて面白かった。

最後に収められた編者ブロックの作品「オートマットの秋」がこのアンソロジー全体をきちっとあるべき場所におさめた印象があってさすが!

 

緑太・市童 二人会

1/15(水)、らくごカフェで行われた「緑太・市童 二人会」に行ってきた。
 
・ 緑太&市童 落語ラップ「七段目」
・ 緑太&市童 トーク
・ 緑太「たけのこ」
・ 市童 「四段目」
~仲入り~
・ 市童 「洒落小町」
・ 緑太「締め込み」
 
 
緑太さん&市童さん  落語ラップ「七段目」 &トーク
前から来てみたい、そして聞いてみたいと思っていたお二人の落語ラップ。
今回は映像が間に合わなかった?ということで、映像は歌舞伎で歌&歌詞が流れるパターン。
いやこれすごい。すごいうまい。素人のラップってとかく聞いていて恥ずかしいけど、それがない。
ものすごい言葉選びがうまいんだな。韻も踏んでるしちょっと笑えるしハイセンス!
ご本人たちは今回は不本意な出来だったらしく「だめっす」「いやもうだめ」と途中で出てきて「無理でした」「七段目。無理」とおっしゃってたけど、なんのなんの。
 
というわけでトークに突入。
いやこれがもうめちゃくちゃ面白くて。
でもこれはみんな書かない方がいいね、という内容。
ぶっちゃけ話、最高に面白かった!
 
緑太さん「たけのこ」
武家様がとても武士らしい…背中がピンとしている感じ。それでいて洒落もわかる、っていうのがとてもチャーミング。
うひゃー。なんか緑太さんの落語、しゅっとしてはる。いい!
 
市童さん「四段目」
旦那にあれこれ問い詰められて一生懸命ほんとらしくうそをつくんだけど、それがなんかとても子どもらしくてかわいい。
市童さんって永遠の定吉感あるなぁ。純粋。
怒っていた旦那が定吉が蔵の中で刀を出して…とお清さんから聞かされて、番頭に「なんで間に入らなかったんだ!」とか「夕飯を持って行ってやらなかったんだ!」と怒るのも、旦那の人柄の良さが出ていて好きだな。
たっぷりの「四段目」楽しかった。
 
市童さん「洒落小町」
初めて聴く噺。
口から生まれたような女房が大家さんに呼び止められて世間話。
最近亭主はどうしてる?と聞かれて、亭主が浮気をしていた!ということをしゃべるんだけど、この女房、口から先に生まれたような女性でべらべらべらべらよくしゃべる。人の話も混ぜ返す。
そんな女房に大家さんが「それじゃ旦那が浮気するのも無理はない」と言って、亭主が家に帰ってきたくなるように歌を詠めとか言うんだけど、彼女にはまるで通じない。
だったら言われたことを洒落で返したらどうだ?面白くて亭主も喜ぶだろう。
洒落なら得意です、と大家さんの言うことにいちいち洒落で返すんだけど、これがもうすごくばかばかしい。
このおしゃべり女房がいかにもこうパーパーしていて悪気がなくて口が悪くて察しが悪くて…それが市童さんにはまっていてめちゃくちゃ面白い。
もう笑いっぱなし。楽しかった~!
 
緑太さん「締め込み」
きりっとした「締め込み」。
なんだろ。テンポかな、声の出し方なのかな。きりっとしてるとかしゅっとしてはるとかそういう風にしか表現できないんだけど、いいな。
 
とても楽しかった。2人のタイプが違っているのもいい。また行きたい。

短篇集ダブル サイドA

 

短篇集ダブル サイドA (単行本)

短篇集ダブル サイドA (単行本)

 

 ★★★★★

帰郷した「僕」がタイムカプセルを掘り起こし…「近所」。老年の夫婦を描いた抒情的な「黄色い河に一そうの舟」。騒音の抗議に来た上階の男と迎える「最後までこれかよ?」。前世はマリリン・モンローだった「僕」と宇宙人の「“自伝小説”サッカーも得意です」。驚嘆の作品集。

面白かったーーー。好き好きパク・ミンギュ。
リアルな物語とぶっとんだSFの振り幅が大きいけれど、どちらもハートをぎゅっと鷲掴みしてくるようなシーンや描写があって、ぐっとくる。LPレコード時代へのオマージュというだけのことはあって、テンポの良さと独特のリズムがグルーヴ感を出していて、読んでいて気持ちいい。

「近所」
両親を亡くし叔父夫婦に育てられた青年。大学に進み一流企業に勤めていたが病を得、命の期限を告げられている。
故郷では同級生たちが歓迎してくれるがこの町から大学に行ったのは彼一人。
彼が突然戻ってきたことに戸惑いながらも何回か集まる間に、離婚してシングルマザーの女性と親密になるが…。

彼が彼女からの電話を切ってからの気持ちの変化が、ほんの数行なんだけど、一瞬霧が晴れるような…視界が開けるような…独特の余韻があって、鳥肌ぞわぞわ。
ポップだけどとても繊細。ぐっとくる。

「黄色い河に一そうの舟」
長年仕事仕事で家庭を顧みなかった夫が妻が認知症になり罪滅ぼしの気持ちで介護をしている。
子どもが二人いるが彼らとて自分たちの暮らしに精いっぱい。金銭的な援助を期待され微妙な距離感がある。
仕事にかまけてきたと言っても仕事の方も決して安穏と過ごせていたわけではなく、どうにか危険を回避しつつ生き延びた、という感。出世の船に乗りそびれた昔の先輩から怪しげな健康食品を勧められ、それを断ることもできない。
かわいがっているほうの娘から金の無心をされ彼が起こした行動は…。

これももうとても身につまされるし絶望しか感じないんだけれど、認知症になった妻の思いもかけない反応に深刻な中でちょっと笑ってしまうようなユーモアがあって、思わずにやりとしてしまう。
ここに流れる曲は知らないけれど、なんとなくメロディが浮かんでくる。


「グッバイ・ツェッペリン
飛行船って絵になるし物語を呼ぶ何かがあるように思う。
ちょっと異様でユーモラスでバカバカしくてでもなんか空しくなるようなあの姿。
大型スーパーの仮面ライダーショーで始まるのがすごい既視感でもうそのシチュエーションだけで「これは私の知ってる世界」と感じさせる。
起死回生をねらった飛行船作戦。
制御不能の飛行船を主人公と「先輩」が追いかけていくのだが、その小さな旅の中で「先輩」の印象が変わっていく面白さ。
ちゃんと向き合ってこそわかる姿がある。人間って簡単じゃない。

「深」
世紀2387年、深さ1万9251メートルの海溝が生まれ「ユータラス」と命名される。ユータラスの底に到達できる人間「ディーバー」たちが、それぞれの事情や想いを抱えながら深く深く沈んでいく…。その先にあるものは…。

これまでの3作とまるっきりテイストが違うので戸惑う。ドSF?!ああ、でもそうだ、パク・ミンギュの「ピンポン」も最後とんでもない展開になっていったじゃないか。SFもこの作家の得意分野なのだ。
最初の3曲がメロウでずっしりした曲調で油断していたら、4曲目にいきなり全く違う…弾けた曲が入ってきた、みたいな感じだ。


「最後までこれかよ?」
地球最後の日。アパートの上階に住んでいる男が騒音の苦情を言いに部屋を訪ねてくる。
二人は男がコレクションしている酒を飲みながら最後の時を待つ…。

主人公の真の姿が徐々に明らかになっていくところはホラーのようで、しかしこれが地球最後の日なのだとしたらもうどうでもいいことなのか?と思いつつも、でもこれでほんとに最後にならなかったら?という不安も残る。

 

「羊を創ったあの方が、君を創ったその方か?」
このわけのわからない世界。そうなった理由も今の状況も何もわからないまま望楼で閉じ込められている(かどうかも実際はわからない)、「ゴ」と「ド」。
この世界のルールを少しでも知ろうとするがよくわからない。でも逃げようとするとサイレンが鳴って何かよくわからない物たちが集まってきて攻撃(?)してくるので銃で応戦しなければならない。
そのうち「ド」の方が狂ってきてついにこの均衡が破れる時が…。

この謎の生き物たちの正体が分かったときの脱力感。なんだなんだなんだったんだ。
緊張と緩和のギャップが大きすぎて笑ってしまうんだけど、おかしいだけじゃない怖さも。


「グッド・モーニング、ジョン・ウェイン」「<自伝小説>サッカーも得意です。」
思わず笑ってしまうフレーズや「え?なに?」ってもう一度読み返さないとわからない文章が出てきたりして、次々いろんなものが出てくるおもちゃ箱みたいで面白い。
特に「<自伝小説>サッカーも得意です。」の世界観は「ピンポン」に通じるものがあるように感じる。

「クローマン、ウン」
特権を与えられた「ネッド」と下層階級で生きることもままならない「ユン」という2つの階級に分けられた世界。
知恵を絞り必死に生き延びようとするクローマンがある日ウンという少女と出会い…。

クローマンとウンの物語は「これは、とある地球の物語である」と小さい文字で書かれているんだけど、この緊迫した物語の後に、「これも、とある地球の物語である」とあって続くのがギャンブル狂いのビンスの物語。
え?これはなに?入れ子になってる?


なになに?って頭がはてなでいっぱいになる物語もあったけど、わからないのも含めて面白い。最高だ。
SIDE Bも読まなければ!

国立演芸場1月中席

1/11(土)、国立演芸場1月中席に行ってきた。

・りょう治「子ほめ」
・紅純「秋色桜」
宮田陽・昇 漫才
・柳好「つぼ算」
・一矢 相撲甚句
・幸丸「正月風景&売り声」
~仲入り~
・紅「母里太兵衛」(黒田節の由来)
・南なん「転宅」
・今丸 紙切り
・茶楽「品川心中(上)」


紅純さん「秋色桜」
貫禄出てきたなぁ。紅先生のところに移ってから明らかに伸び伸びやってるように見えて、なんか嬉しい。
とてもよかった。


宮田陽・昇 漫才
いつものネタから新しいネタまで最初から最後まで楽しくて笑いっぱなしだった。
陽先生の何を言い出すかわからない感じと、昇先生のなんでも包み込んでくれる感じのバランスがたまらなく好き。

柳好師匠「つぼ算」
最初は陰気っぽく始まるのに、まくらでもだんだんテンションがあがってきて、噺に入ると動きも大きくてメリハリがあってすごく楽しい。
買い物を頼んだ弟分が最後までからくりに気づいてないのがおかしくて、瀬戸物屋の番頭が「あなた、私の顔をじっとみて首をひねるのやめてください!」と言うのもすごくおかしかった。


幸丸師匠「正月風景&売り声」
正月に関するぼやきというか愚痴というか毒…なんだけど、毒とぼやきとそれに対する客席の反応への反射が絶妙で笑い通し。
最後には売り声も披露。お正月らしくて楽しかった。


南なん師匠「転宅」
噺家になる前、いろいろバイトやりました。
最初はパン工場でパンにチョコレートをつけるバイト。これが熱いんですよ。もう汗が止まらない。それに神経も使うし。…1週間でやめました。
次にやったのが遊園地のバイト。面接した人が私の顔をじーーっと見て「あなた…採用です」。一発で採用されてよかったなーと思っていたら、お化け屋敷でお化けの役…。生首の役です。井戸から顔を出して顔から血を流してるんです。
でもこれ…お客さんが女の子だったりすると「きゃーーー」って言ってハンドバッグでひっぱたかれたり、雨の日だと傘で突かれたり…。…3日でやめました。
それから次にやったのが警備員。病院に配置されて深夜の病院を巡回しないといけないんですけど。私、臆病なんですよ…。一人で真夜中の病院を巡回していると…。

…ぶわははは。初めて聞いた!楽しい~。
そんなまくらから「転宅」。
間抜けな泥棒がお菊さんにだまされて鼻の下を伸ばすのがとってもかわいい。
表情が豊かなんだなぁ。
そしてコンパクトだ。南なん師匠の落語は。ぎゅっと詰まってる。
久しぶりに見た南なん師匠、楽しかった。

茶楽師匠「品川心中(上)」
噺が始まって「品川心中」だ!と分かったときの胸のときめきよ!
この噺大好きだし、茶楽師匠で聴けるなんて嬉しい~。

お染がとても色っぽい。もうこんなみじめな思いをするくらいならいっそのこと死んじまおうと帳面をめくって馴染み客の品定めをするところ…きれいで肝の座った花魁の姿が見えてくる。肩の落とし方とか身体づかいがやわらかくてきれいなんだなぁ。
貸本屋の金ちゃんは能天気で、お染が「死のうと思ってる」と言うと「お前一人で死なせるもんか!」と心中をけろっと請け負うんだけど、飲んだらすっかり忘れちゃうし、「喉は急所だからやめよう」とか「俺は泳げねぇから」とか全然本気が感じられない。

それでも二人で品川の海に出るところ、暗い海が浮かんできて、いいなぁ…。私、この場面がとても好きなんだよね。いや金ちゃんにしたら笑いごとじゃないけど。

突き落とされた金ちゃんがざんばら髪で海から上がってくるところ、声をかけられて俥屋がびっくりするところ、犬に追いかけられて這う這うの体で逃げていくところ。
情けないようなおかしいような絵が広がってくる。

兄貴分の家を訪ねてからのドタバタも楽しくて、大笑い。
楽しかったー。そしてすごく素敵だった。茶楽師匠、かっこいいなぁ…。
よかった。

世界は終わらない

 

世界は終わらない (幻冬舎文庫)

世界は終わらない (幻冬舎文庫)

 

 ★★★★★

書店員の土田新二・32歳は、後輩から「出世したところで給料、変わんないッスよ」と突っ込まれながらも、今日もコツコツ働く。どうやったら絵本コーナーが充実するかな? 無人島に持って行く一冊って?1Kの自宅と職場を満員電車で行き来しながら、仕事、結婚、将来、一回きりの人生の幸せについて考えを巡らせる。ベストセラー四コマ漫画
 

普段の暮らしでなんとなくもやもやっとするところをほんとに素敵に表現するなぁ。

今の自分の人生を「こんなはずじゃなかった」とは思わないし「こんなもんだろう」とも思わない、とか、「人と比べてまだまし」と思うのはなんか違う、とか。
宇宙兄弟」が好きだった孫を想う祖父母にかける言葉や、叔父さんの形見分けの時に返す言葉の優しさ。
あと「いいじゃないすか、頑張ってください」と他人事の後輩にルフィの名セリフで返すところもいい。
土田くん、好きだー!

そしてミリさんは文章だけより、漫画の方が魅力が倍増すると思ってる。
帰りに読む本がなかったので駅前の本屋さんで買った本。あたり!

セロトニン

 

セロトニン

セロトニン

 

 ★★★★

巨大化企業モンサントを退社し、農業関係の仕事に携わる46歳のフロランは、恋人の日本人女性ユズの秘密をきっかけに“蒸発者”となる。ヒッチコックのヒロインのような女優クレール、図抜けて敏捷な知性の持ち主ケイト、パリ日本文化会館でアートの仕事をするユズ、褐色の目で優しくぼくを見つめたカミーユ…過去に愛した女性の記憶と呪詛を交えて描かれる、現代社会の矛盾と絶望。 

 親の遺産があるから働かなくてもそれなりの暮らしは送れるものの、仕事への意欲は失せ、同棲相手にも嫌悪しか感じず、抗うつ剤の副作用で性欲もなくなり、失った恋人のことを引きずりながら、生きている主人公フロラン。

何もかも放り出して蒸発を試み、数少ない古い友人を訪ね歩くも、友人もみなどん詰まり状態で、慰めを得ることも彼らを救うこともできない。

自由貿易のおかげで自国の農業は瀕死の状態。医学の進歩で寿命は延びたが何にも楽しみを見いだせず抗うつ剤でどうにか生きている。
衰退する世界と老い衰えていく自分。

主人公の露悪的な言動に嫌悪を抱きつつも、時々身につまされて、うっ…となる。
この閉塞感と孤独感と他人事感が妙にリアル。
陰鬱だけどちょっと笑えて笑う自分にぞっとする。

好きではないけど…そしてきちんと理解できていないけど、それでもなんか惹かれてしまう、ウエルベック作品。