りつこの読書と落語メモ

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ピュリティ

 

ピュリティ

ピュリティ

 

 ★★★★★

ピップ・タイラーは23歳。高額の奨学金ローンを抱え、自宅はアナーキストたちとのシェアハウス。仕事は歩合制の電話営業。ただひとりの身内である母親は、どうも偽名を使っているらしく、さらに父親が誰なのか教えてくれない。父親についてわかるのではないか―そんな希望をもって、ピップは南米に本拠地を置く情報公開組織“サンライト・プロジェクト”に参加し、謎めいたリーダー、アンドレアス・ヴォルフを知る。ヴォルフは彼女にある秘密を打ち明けるのだが…秘密と嘘、理想主義、正義と不正、愛情、憎悪、そして殺人―壮大なスケールで織りなされる現代版『大いなる遺産』。 

相変わらずの分厚さ!凶器になるよ、これ。

ジャーリズム、インターネット、東と西、フェミニズム、と様々なことが語られるが、とどのつまりは家族、親子、ひとりひとりの人間の物語なのだった。

インターネット界のカリスマも母親との歪んだ関係に苦しむ男だし、トムの章では怪物にも見えたアナベルも純粋さを追求して身動きが取れなくなった女だし、人生を台無しにされたと感じるのは相手を愛していたからなのかもしれない。

一番の被害者に見えるピップが前に進む姿が清々しい。面白かった。

父と私の桜尾通り商店街

 

父と私の桜尾通り商店街

父と私の桜尾通り商店街

 

 ★★★★

桜尾通り商店街のはずれでパン屋を営む父と、娘の「私」。うまく立ち回ることができず、商店街の人々からつまはじきにされていた二人だが、「私」がコッペパンをサンドイッチにして並べはじめたことで予想外の評判を呼んでしまい…。平凡な日常は二転三転して驚きの結末へ―見慣れた風景が変容する、書き下ろしを含む全六編。 

どの物語にも他人とうまく関われない人たち。
生きるスピードが違っていたり、人との付き合い方の濃淡のバランスがおかしかったり、根本的に自信がなかったり。

ふんわりとしたタイトルが付いているがどの話もぞっとするような孤独と異世界に通じているのかもしれないと思わせるような闇が見えて、読んでいてぞくぞくする。
一方通行の想いは相手を引かせるけれど、程が良ければそれで済む話なんだろうか。

今まで読んだ今村さん作品の中ではざわざわ度は控え目だったけれど、読み終わったときに笑いたいような泣きたいような気持になるのは前作同様。面白かった。

小満ん夜会

6/11(火)、日本橋社会教育会館で行われた「小満ん夜会」に行ってきた。

・朝七「寄合酒」
小満ん「紙くず屋」
・正朝「へっつい幽霊」
~仲入り~
小満ん「永代橋

朝七さん「寄合酒」
わーい。おまいさんな前座さん。
初めて見た頃はナヨっとした印象があったけど、見るたびに骨太になっていくようで、おまいさん感が薄れてきている。
声や調子や間がなんともいえず心地よくて、時々ちらっと見せる毒が面白い。あーー私この人の落語好きだ。
早くニツ目にならないかな。

小満ん師匠「紙くず屋」
楽しい!
奉公に行きなさいよと親方に言われて、だったらお屋敷の庭師の奉公の話があると言って始まる妄想。
庭師なんて言っても仕事はしなくていいんだ。こうやって箒を持ってオツに立ってると…女が放っておかないよ。まずは女中連中が騒ぎだすね。
…と言って、女中が若旦那の取り合い。あたしがお金を出すから一緒に外国に行くんだとかなんとか。
騒ぎを聞きつけていよいよこの家のお嬢様が登場。ここでも芝居がかった…でも洒脱なやりとり。
妄想がどこまでもおめでたくておかしいし、厄介になってるこの家の庶民感に対する不平不満もしゃれっ気たっぷりで楽しい。
紙くず屋に行ってからも、手紙を読んだり新内を始めたり…。
若い噺家さんがやる時のドヤ感は皆無で軽くてシャレてて楽しい。
もうずっとやってて若旦那!って感じ。楽しかった。

小満ん師匠「永代橋
初めて聴く噺。
最初は江戸にかかった4つの橋のうんちくをたっぷり。永代橋が余材で作られてしょっちゅう修理が必要だったとか、幕府ではなく町内で橋の維持をしなければいけなくなり橋の通行料をとったりして費用を工面していた、というのは知らなかった。
久しぶりに行われた深川祭り。人々が押し寄せて橋を渡っていくのだが、姫様が川を渡ると言うので通行止めになり、早く祭りに行きたい人たちが足止めされる。
遅れてやってきた船がようやく通り過ぎ、通行止めが解かれると、祭りに行きたい人たちが押すな押すなの大騒ぎ。
ついに橋が落ち、押し寄せた人たちが川へ転落。何名もの死者が出る。
こういう大きな事故が起きると、長屋では大家が住民の安否を確認。独り者が亡くなると長屋で弔いを出さないといけないので大家はピリピリ。
どこの家も無事だなと喜んで家に戻ってくると、お役人から長屋の武兵衛が遺体で上がったから引き取りに来るようにと知らせが入る。
大家がぶつぶつ言いながら取りに行こうとすると、酔っ払った武兵衛とばったり。
「お前はなにをやってるんだ。今からお前の死骸を引き取りに行くぞ」と大家。

…「粗忽長屋」みたいな噺だ!
前半の蘊蓄と後半の展開のばかばかしさがたまらない。
えばっていてしっかりしているように見える大家が全くなんの疑いも持たずに当人と一緒に遺体を引き取ろうとするのがとっても楽しかった。

愛なき世界

 

愛なき世界 (単行本)

愛なき世界 (単行本)

 

 ★★★★

恋のライバルは草でした(マジ)。洋食屋の見習い・藤丸陽太は、植物学研究者をめざす本村紗英に恋をした。しかし本村は、三度の飯よりシロイヌナズナ(葉っぱ)の研究が好き。見た目が殺し屋のような教授、イモに惚れ込む老教授、サボテンを巨大化させる後輩男子など、愛おしい変わり者たちに支えられ、地道な研究に情熱を燃やす日々…人生のすべてを植物に捧げる本村に、藤丸は恋の光合成を起こせるのか!?道端の草も人間も、必死に生きている。世界の隅っこが輝きだす傑作長篇。 

植物学の研究をしている大学院生と大学の近くの洋食屋の見習い。植物の魅力にとりつかれ研究に没頭する本村に恋をした料理人見習いの藤丸。勇気を出して告白するも、自分は植物たちの愛なき世界に生きるため恋愛は捨てた、と見事にフラれる。

傷心ながらも彼らの研究に敬意を払い植物の生態に興味を持ち自分のできることで彼らを支えようとする藤丸がとても素敵だ。

そして生物学の研究という自分とは全く縁のない世界ではあったけれどとても興味深く面白かった。

しをんさんの取材力…すごいな。
植物には「愛」はわからない。でもその植物の魅力にとりつかれて謎を解明したいと他のことを犠牲にして研究に没頭する人たち。それを見守る周りの人たち。
「愛なき」と言いながら、愛にあふれた世界だった。よかった。

楽屋半帖 第2回

6/10(月)、駒込落語会で行われた「楽屋半帖 第2回」に行ってきた。

・さん助 ご挨拶&お題取り
・さん助「狸賽」
・さん助「まんじゅうこわい
~仲入り~
・さん助「徳ちゃん」「三題噺(パンダ、いちご大福、金魚)」

さん助師匠 ご挨拶&お題取り
前回は私、まくらなしで噺に入りましてその後みなさんを驚かせてやろうと思ってこの会では三題噺をやります!と発表したんですが、話してみたらお客様より自分が一番驚いちゃったという…。
もうほんとに「なんで三題噺をやるなんて言っちゃったんだろう」という後悔でいっぱいで、仲入りの時に逃げ出したい気持ちでした。

…ぶわははは。
いやほんとにびっくりしたよー。心配もしたし。

で、前回は仲入りの前にお題を決めて仲入りで噺を作りましたけど、今回は変えます。さすがに時間が足りないので…。
最初にお題を決めて、それから二席やって、仲入りをいただいて、それからやります。

…いやいやいや…。最初にお題決めてもその後高座があって、噺を考えるのは仲入りの時なんだから、今お題を決めても仲入り前に決めても同じですからー。
気付いてないさん助師匠って…むしろすごい(笑)。

さん助師匠「狸賽」
この間鈴本で聞いた時とは打って変わって、小噺をたっぷり丁寧に。
狐と狸が博打をやりたいなぁーと喋っていて、狐が出て来た人間に化けて入って行って成功。
それを見ていた狸が俺も早くやりたい!と待っていると、また出て来た人間が。喜び勇んで入って行くと「狸が入って来た」とぼこぼこに。
なんでだろうと考えたら、化けるのを忘れて入って行ってた。

…そうそう。これぐらいちゃんとやればこの間のお客さんもちゃんと噺に付いて行けたのよ。(←何様。)
そんなまくらから「狸賽」。
鈴本で聞いたのよりずっとずっと面白い。
狸がサイコロに化けた時、ものすごーく大きいのを、目の動きで。こういうの、とっても楽しい。
サイコロを振る時に「たーちゃん」と呼びかけるおかしさ。目の説明もゆっくりと丁寧。
楽しい~。すごく面白かった!

さん助師匠「まんじゅうこわい
自分の家に友だちを大勢呼んだ男。なぜか電気をつけず真っ暗な中にいる。
「何で電気をつけないんだ?」と聞くと、「電気なんかつけなくていいんだよ。つけなくてもそのうち近所の電気が漏れてくるからそれで明るくなるよ」。
「あとしばらく目をつぶってから開けてごらん。暗闇に慣れて見えてくるから」
「それじゃ術だよ」。
それから実は今日は俺の誕生日なんだから始まって、蛇が怖いと言う金ちゃんの話から、お互いに怖いものを言い合おう、という流れに。

…おおお。「まんじゅうこわい」だ!
部屋を真っ暗にしている、っていうのは初めて聞いたな。どこで仕込んできたんだろう。
わからないけど、こういうところがいかにもさん助師匠!って気がして好きだなぁ。
買って来たまんじゅうがいちいち有名どころのまんじゅうなのも楽しい。「これは御門屋の揚げまんじゅうじゃねぇか」とか1か月分の手間賃を全部つぎ込んで高級なまんじゅうを買ってきちゃうやつとか。
動きが大きかったり反応が激しかったり…こんな聞き飽きた噺もこんなに楽しいのかー。
やっぱりさん助師匠の落語はピカーっと明るい時が最高だなぁ。

さん助「徳ちゃん」~「三題噺(パンダ、いちご大福、金魚)」
まくらなしでいきなり落語に入った。
お、おおお。これは徳ちゃん!
早口でどんどん進んでいくんだけど、これがとっても面白い。若い衆に声をかけられて「どうする徳ちゃん?」と振り向くだけでおかしいのはなんなんだ。
お店の女の子のお見立てをするのに、「真ん中の白いの」と言ったらそれは柱で「その両隣の黒くてうずくまってるのがうちの女の子たちです」。
なんだよ黒いのがうずくまってるって。ぶわはははは!
「離れ」に入った客がかっぽれを踊って下に落ちてうめき声が聞こえてきて「うめき声が聞こえてくるというのは生きてる証拠ですから」もおかしいけど、1時間かけて釣り上げたっていうのもばかばかしくて楽しい。
芋をかじりながら入って来た女の子もニコニコ笑顔でやる気満々なのがすごくおかしい。
「ちゅうするべ」「同衾するべ。ほら、同衾同衾!」って。わはははは。

で、サゲまでいったと思ったら「うるせーーーーー!!!」と大声。「うるせぇ!!益子!!(さん助師匠の本名)」にはひっくり返るほど笑った。
「あれよ、隣の売れない噺家。売れないもんだからずっと家で稽古してるの。昨日なんか文七元結をたっぷり聞かされちゃった」
「お前、詳しくなってるじゃないか」
「文七のあとは芝浜をたっぷり。お前は談春か!」に大爆笑。

そして、「ここは駒込ソープランド太閤」にびっくり&大笑い!
この会場に向かって歩いている時、線路の向こう側に確かにあった。ソープランド太閤。
なんだあれ?なんでこんなところに?と不思議に思いながら歩いてきたので、おかしくておかしくて。

ソープ嬢のひとみとマネージャーの哲(だったかな)。2人はこっそり付き合っているのだが隠しているのが辛くなったのでオーナーに話そうという哲。まだ心の準備ができてないと言うひとみ。
「あたしここをクビになったら…大宮のソープランドに行くしかなくなっちゃう。埼玉は嫌!」。
…ぶわはははは!!!
そんなひとみはパンダが大好き。一緒に見に行ってくれる?とひとみが言うと「いいよ」と哲。
日曜日、田町で待ち合わせた二人が上野で降りて鈴本の前を通り過ぎるとそこには「にゃんこ金魚」の名前が!「ここで金魚…」とつぶやくさん助師匠に笑う。
パンダを見るのには大行列に並ばなければいけない。2時間待ちと聞いてうんざりするひとみに哲が差し出すのがいちご大福。
それを食べながらひとみが語りだす。
「お客さんが指名するときに入る待合室に水槽があってそこに金魚が泳いでいるでしょ。なぜかああいう場所の待合室には水槽があって金魚が泳いでるのよね…。」
ひとみがそう言った後に、「なんでそんなことを知ってるんだ」。ぼそっというのがおかしい。
「あたしあれを見てるとなんか…元気が出るの」。そう言った後に「ここで使うならにゃん子金魚は余計だったな」。ぶわはははは。
そしてようやくパンダを見てひとみは二人のことをオーナーに言ってもいいと決心。
なんでパンダを見たら決心で来たの?と聞かれ「だってパンダは白黒はっきりしてるから」がサゲ。

おおおお。ちゃんと面白い!
前回と同じ流れだったのもなんかいい感じ。でもなんで三題噺に入る前に一席やるんだろう?やりながら整理してるのかな?おもしろーい。
「うるせー益子!」と叫んだ時はほんとに意表を突かれて笑ったー。
まさかソープランド太閤が出てくるとは思わなかったし、待合所の金魚っていうのがなんかこう…昭和っぽい裏寂しさが伝わってきてちょっと文学的(笑)なのもさん助師匠らしい。

仲入りの時、さん助師匠が楽屋で苦しんでいる姿がちらっと見えてドキドキしたけどすごく面白かった。
楽しいなぁ。さん助師匠は会ごとにカラーを出してくれるから、会が増えるのはファンとしては嬉しい。

 

国立演芸場6月上席夜の部

6/7(金)、国立演芸場6月上席夜の部に行ってきた。


・アサダ二世 マジック
・玉の輔「辰巳の辻占」
・小燕枝「ちりとてちん
~仲入り~
・ニックス 漫才
・菊志ん「粗忽の釘
翁家社中 太神楽
・今松「一文笛」


小燕枝師匠「ちりとてちん

淡々としているけどじんわりとずーっと楽しい。
ちりとてちん」を食べた金さんが、それまでとっても無愛想だったのに、口にしたとたん満面の笑みを浮かべてそれから「うえっぷ」とえづくのがおかしい。にっこり→こみあげてくる→えづく、の繰り返しに大笑いだった。
あーー、好きだー、小燕枝師匠の落語。楽しい。


今松師匠「一文笛」
空き巣に入られたことがあります、と今松師匠。
窓のガラスのところをきれいに切られて掛け金を外して家に入ったらしい。
落語の泥棒の噺でありますでしょ。新米泥棒が先輩に「いいか。泥棒に入ったときは逃げ道を用意しておくんだ。表から入ったら裏へ、裏から入ったら表へ」。まさにそれでした。表の窓から入って裏口から出て行った。ああ、落語も時々は本当のことを言ってるんだなぁ、って変なところで感心しました。

それから警察を呼んで、白い粉をかけて指紋を検出したり、何をとられたのか調書をとられたり。泥棒に入られて一番のダメージは何かというと指紋をとられたことですね。両手ともぐりーーっとまんべんなく取られて…。ああ、もうどこにも入ることはできねぇな、って…。

それからスリの話。
スリっていうのは技術職。仕事を見れば誰の仕業かわかるって言いますから、すごい。
一番腕のいいのになると時計の中身だけとって外見はそのまま。だからとられた本人は気づかない。外してみて初めて「あれ?なんか軽い」。これはすごい技術です。

そんなまくらから「一文笛」。
腕自慢のスリが元泥棒の兄貴分にあんなに腕があったのに辞めて堅気になるなんてもったいない、と話している。
そして自分は泥棒だけど貧乏人からは盗らない。金持ち、盗られても仕方ないような金の余ってるやつからしか盗らない、と言う。
兄貴分は「お前ずいぶん自信たっぷりに言うじゃねぇか。本当に困ってるかどうか、一目見ただけでわかるのか?金持ちそうに見えていくら財布が膨らんでいたとしても、今日この金を返さないと死なないといけなきゃいけないかもしれないなんてこと、わからねぇじゃねえか」と言う。

そして、昨日お前は俺の長屋で仕事をしただろう?と言う。
「いやそんなことはしない」と言うと、駄菓子屋で一文笛を盗んだだろう、と兄貴。
それから兄貴が話したのが、良かれと思ってスリがした盗みのせいで貧乏な子どもが不幸に見舞われてしまった、ということで、それを聞いたスリが…。

今松師匠らしく淡々とした語りなんだけど、まくらからサゲまで…過不足なく…でも十分すぎるほど伝わってくるものがあって、終わった後しばし茫然。ああ…いいなぁ…今松師匠の落語は。くさいところやいやらしいところが何一つない。笑わせてやろうとか意表をついてやろうとかそういう雑念がなくて、でも突き放すような冷たさはなくてじんわりと温かい。
よかったー。かっこよかったー。うまいこと言えないけど、ほんとに素晴らしかった。

小燕枝師匠と今松師匠の二席を聞けて、大満足。

赤坂 はん治の会

6/6(木)、赤坂会館で行われた「赤坂 はん治の会」に行ってきた。

・小はだ「まんじゅうこわい
・はん治「君よ、モーツァルトを聴け」
~仲入り~
・小はぜ「蔵前駕籠」
・はん治「ろくろ首」


小はださん「まんじゅうこわい
池袋のはん治師匠の会のチケットについての業務連絡。
これがなんかわかりづらくて、ああ、小はださんこういうこと苦手なんだなと思っていると「す、すみません。なんか。私の事務能力の低さが出てしまっていて。申し訳ないです」に笑う。
「だいたいこちらの会では私の後に小はぜ兄さんが上がって私のことをあれこれ話して、私がそれを聞いて傷つく…というのが多いんですが。この会にいらしている方の中には小はぜ兄さんのファンのかたも大勢いらっしゃってると思いますので…私も言われっぱなしじゃないぞというところで…兄さんはこういう人なんですよ、という情報を。きっとファンの人も喜んでいただけるんじゃないかと」。

兄さんは見ての通りまじめ一辺倒、真っすぐな人、というのは見ていてお分かりいただけると思うんですが。
でもあれでいて人と感覚が違うようなところもありまして。やっぱりあの…AB型ですから。ええ。
私がしょっちゅうしくじるもんですから、そこで兄さんが厳しく注意をしてくるんですね。そういう時、兄さんは説教が持続しないんです。
例えばですね。師匠のお宅を掃除してるときに…師匠は猫を2匹飼っているので猫の毛が結構落ちてるんです。それを掃除機で吸ったりなんかしていると兄さんが「こういうところにも毛が落ちてるんだから」と言って座布団をこう裏返してですね…「こういうところもやらないとだめだ!そういうのが落語にも…」なんて説教が始まって、それを言ってる途中に猫が通りかかったりすると「あーー、よしよし。こっちにおいでー」ってもう気持ちが猫に向いちゃって、説教は途中で終わっちゃうんです。そういう人です。

…ぶわははは。小はだの逆襲?!全然たいした逆襲になってないけど、まるで違うタイプの二人。面白いなぁ。
そんなまくらから「まんじゅうこわい」。
これを聞いていて思い出した。そうだ中野ゼロで小はぜさんがやったのも「まんじゅうこわい」だった。なんで「寄合酒」って書いちゃったんだろう。あわてて修正。
小はださんはなんか独特のすっとぼけたところがあって、それが落語でもちょうどいい間になっていてとても楽しい。
聞いていて何度か本気で「ぶわはっ」と吹き出した。

はん治師匠「君よ、モーツァルトを聴け」
小はだも来年にはニツ目になるかもしれません。そんな噂が耳に入ってきています、とはん治師匠。
小はだと小はぜ。正直言って私が若かった頃に比べると格段に落語が上手です。今の前座やニツ目の水準からしたらどうなのかはわかりませんけど、私に比べたらそうです。
2人の弟子は全くタイプが違うんですけど、まぁ…なんとかなってくれたらいいなぁ、なんて思います。
それにしても…弟子とは言いながら…「師匠の落語を継ぎたいです」というような言葉は一度だって聞いたことがないというのは…。いやまぁいいんです、いいんですけど、ちょっと情けないなぁなんて思ったり。
弟子が入る前の私は年に2,3回会をやる程度でしたので…噺を覚えるにしてもずいぶんのんびりやればよかったんですが。
こうして会が増えて…それもどちらの会でも…いらっしゃるお客様の顔ぶれがほとんど同じということを考えますと…違う噺をやらないといけない…のは大変で…。

…ぶわはははは!!はん治師匠、おかしい~。
でもほんとに会が増えて素晴らしいなぁと思う。お弟子さんも二人とも魅力があってほんとに素敵な一門。大好きだ。

そんなまくらから「君よ、モーツァルトを聴け」。
この噺、久しぶりに聞いたのと、こんな近くで聞いたのは初めてだったということもあるんだけど、最初から最後までめちゃくちゃおかしくて大爆笑だった。
もうね、おかしすぎるのよ。魚屋さんの反応が。
子どもの病気を治していただいてありがとうございます、とお医者様にお刺身を届けた魚屋さん。
先生が音楽を聴くのが趣味と聞いて「あたしは北島三郎が好きです。かかぁのやつは鼻の穴がでかいなんて言って嫌がりますけどね。鼻の穴で歌うわけじゃねぇんで」と言って「はーーるばるきたぜはこだてー」。
遠慮がちにいい喉を聞かせてくれる…この加減がたまらない。
モーツァルトの話を聞きながらあれこれ聞き間違うのも、変なツッコミをいれるのもいちいちおかしい。
独特の間と独特の口調。楽しかった~。


小はぜさん「蔵前駕籠」
今日はたくさんのお客様にお運びいただいてありがとうございます、と小はぜさん。
いつも前日に主催者の方に電話をして「明日はよろしくおねがいします」とご挨拶はするのですが、その時に予約がどれぐらい入っているのかというのは聞いたことはない。なんとなくそういうことを言うのは野暮な気がするんですね。
だから予約が入っているのかいないのかは開場するまでわからない。
今日も師匠の会や自分の会のチラシを持ってきたんですけど。私、このチラシを折る作業が好きなんです。朝起きてすぐにやったりすると気持ちが晴れ晴れとするというか心が落ち着いてくるというか。
で、どれぐらい持ってくるかと言ったら、これぐらいお客様が入るといいなぁという数を持ってくるんですけど。
今日はちらっと受付の所を見たらチラシが全部なくなっていて。
あーだったらもっとたくさん持って来ればよかったなぁ、なんて思ったりして。
特選会のチケットに日付のハンコを押したり開場時間を書いたりするのも好きでして。多分小はだはそういうことは苦手だよな、と…坊主頭だってあんなふうにもさもさして…いかにも無精ですから…私は好きなので「特選会のチケットは俺がやっとくよ」と言って協会に取りに行ったんですけど、今はもう全部印刷で入ってるんですね。ちょっとがっかりしました。

そんなまくらから「蔵前駕籠」。
うーん。きれいだなぁ。小はぜさんの芸は。
テンポが速いけど言葉が明瞭でとてもきれい。もしかするときれいなところが弱点でもあるのかもしれないけど、小はぜさんがこの噺を好きだというのが伝わってきてとても微笑ましい。
追いはぎが出る、しかも侍だから質が悪いとどんなに言われても、吉原に俥で行くんだ!と言い張る江戸っ子。昨日もおとといも出たなら今日は出ないよとか大丈夫だよ俺が倒してやるからとかいろんなことを言うけど、なかなか「出す」と言ってもらえない。
最後は追いはぎが出たら俥を置いて逃げちゃって構わないから、とまで言って、ようやく出してもらえる。
「こちらにも支度があるから」と言って着物を全部脱いで紙入れや煙草も全部お尻の下へ敷いて、ふんどし一丁。
それを見た親方が「まるで寄席の決死隊だね」。
そこからの展開もテンポがよくて威勢がよくてとても楽しい。
よかったー。小はぜさん、どんどんネタを増やしてるなぁ。すばらしい。

はん治師匠「ろくろ首」
おなじみの「ろくろ首」。
この与太郎さんのたくまぬ可愛らしさは他の人には出せない味だよなぁ…。
お嫁さんが欲しいと言い出すまでのもじゃもじゃしたところ。
何か言われてまぜっかえすところ。
バカだけどまるでバカじゃない。ちょっと機転がきくところもあったり、一生懸命なところもあったり。
首が伸びるところは本当に与太郎さんと一緒に恐ろしいものを見た気分。

今日は珍しい噺を聞けなかったのは残念だったけど、テッパン二席ともほんとに面白かった。

鈴本演芸場6月上席昼の部

6/5(水)、鈴本演芸場6月上席昼の部に行ってきた。

・市若「堀之内」
・ほたる「子ほめ」
翁家社中 太神楽
・一之輔「出来心(まぬけ泥)」
・ニックス 漫才
・さん助「熊の皮」
・一朝「巌流島」
・ペペ桜井 ギター漫談
・菊丸「ちりとてちん
~仲入り~
・美智・美登 マジック
・小ゑん「過多ラーメン」
・燕路「お菊の皿
・小猫 動物ものまね
・甚語楼「お見立て」

一之輔師匠「出来心(まぬけ泥)」
「寄席っていうのは緩いからいい。お客さんもぼーっとしてる。気合を入れて落語を聴いてやろうぜという姿勢が見えない。だからやる方も25%ぐらいの力でやる。それがいい」。
25%の力でやった「まぬけ泥」(笑)。それでも面白いんだからずるいなぁ~。いやでも確かに全然力入ってないし「笑わせてやろう」という気負いもないしゆるく楽しんでる感じ。余裕だなぁ。

さん助師匠「熊の皮」
なかなか家にあげてもらえない甚兵衛さん。
洗濯は毎日してるから好きだけど腰巻は洗えないよと小さな抵抗。でも干し終わると嬉しそうに「やってきた」と報告する従順さがかわいらしい。
甚兵衛さんを迎える「先生」もかなり変人っぽいのがさん助師匠独特。
久しぶりに先生が嬉しくて滑るような変な動きをするところが見られてうれしい。
「甚兵衛さん…あたしゃお前さんのことが少し嫌いになったよ」のセリフもしっかり。
楽しかった。

一朝師匠「巌流島」
最初から最後まで完璧。楽しさしかない。これ以上の「巌流島」はない気がする。たまらない。

菊丸師匠「ちりとてちん
昼の部のお客様にぴったりなんだなぁ、菊丸師匠の落語が。
わかりやすい面白さ、なのかなぁ。
え?ここで笑わないの?というお客さんたちが菊丸師匠の落語にはピタっとピントが合う感じ。
なんかすごいな、と思う。

小ゑん師匠「過多ラーメン」
初めて聴く噺。
いやこれはもう最初から最後まで全部面白くて、サゲがもうたまらない!絶妙の間でめっちゃかっこいい!!
小ゑん師匠の落語ってJAZZなのかもしれない。痺れた~。

小猫先生 動物ものまね
物まねの精度ももちろんのこと、トークがほんとにうまい。もう楽しみでならない。
アルパカが大うけで「今日のお客様には、人間に喩えるのが合ってるようですね」と、猿の鳴き声。笑った笑った。

甚語楼師匠「お見立て」
テッパンの面白さ。杢兵衛と喜瀬川の間を行ったり来たりする喜助のとほほぶりがほんとに楽しい。
表情、テンポ、押しと引きのバランス、すべてが完ぺき。
…なんだけど、甚語楼師匠のトリの時に「お見立て」に当たる確率が高いので、別の噺も聞きたかったな、とも思う。ファンとはどこまでも勝手なものなのです。

夜が暗いとはかぎらない

 

夜が暗いとはかぎらない

夜が暗いとはかぎらない

 

 ★★★★★

奇跡が起きなくても、人生は続いていくから。
『大人は泣かないと思っていた』で話題沸騰の著者が贈る感動作!

大阪市近郊にある暁町。閉店が決まった「あかつきマーケット」のマスコット・あかつきんが突然失踪した。かと思いきや、町のあちこちに出没し、人助けをしているという。いったいなぜ――? さまざまな葛藤を抱えながら今日も頑張る人たちに寄りそう、心にやさしい明かりをともす13の物語。

とてもよかった。読んでいて何度か泣いてしまった。

あかつきマーケットのマスコット・あかつきんを軸に商店街の近くで生きる人たちを描いた連作短編。

親からかけられ続けた呪いの言葉。黙って見つめるまなざしの優しさ。自分が発していた無言のメッセージで相手を縛ること。誰かを好きになること。好きになられること。

職場や学校や家庭の中で孤立をしたり誰かの一言に救われたり傷つけられたり助けられたりしながら毎日を生きている。
ドラマのような奇跡は起きなくても一歩だけ前に進めたら真っ暗に見えた夜にも光が射すのかもしれない。ラストもとてもよかった。大好きだ。

鈴本演芸場6月上席昼の部

6/1(土)、鈴本演芸場6月上席昼の部に行ってきた。

・木はち「子ほめ」
・ほたる「たらちね」
翁家社中 太神楽
・才賀「台東区の老人たち」
・圓太郎「真田小僧
・ニックス 漫才
・さん助「狸賽」
・一朝「強情灸」
・ペペ桜井 ギター漫談
・菊丸「たがや」
~仲入り~
・美智・美登 マジック
・小ゑん「ほっとけない娘」
・燕路「出来心」
・小猫 動物物まね
・権太楼「火焔太鼓」


さん助師匠「狸賽」
若い男たちが集まって博打をやっているのを見て自分も入ってやってみたいと思ってる狸が化けずに入って捕まってしまう小話。狸が「そうだ、途中で帰る人に化けて入ってやろう」というセリフがないと、初めて聞いた人にはなんのことかわからないような気がする。
この日、初めてのお客さんが多かったので、小話で笑いが起きなくて、さん助師匠いきなりピンチ(笑)。

恩返しに来た狸に最初は「何もしなくていいよ」と言っていた男が、狸が化けられるとわかったとたんに「じゃサイコロに化けて博打の手助けをしてくれよ」と頼むところも、ちょっとわかりにくかったかなぁ。
そうなると狸に目の説明をしたり、博打場に出かけて行ってからの場面も、ついていけなくなっちゃうんだなぁ。
なるほどー。
さん助師匠の「動物」って妙な可愛らしさと哀れっぽさがあって好きなんだけど、ちょっとしょんぼり…で残念だったな。
がんばれー。(笑)

菊丸師匠「たがや」
テンポの良さと分かりやすさでお客さんがぐぐっと惹きつけられていくのがわかる。すごい。この日のお客さんにはぴったりだったんだなぁ。

首がすぽんと跳ね上がって「たーがやーー」なんて猟奇的だけど、あくまでも落語だからひたすらにばかばかしい。
楽しかったし、その掛け声とともに仲入りに入るカッコよさといったら。


権太楼師匠「火焔太鼓」
めちゃくちゃ面白かった!!
おかみさんが怖い怖い(笑)。「お前さんは商売が下手」と言われて「そうか、俺は商売が下手だな」。「お前さんはだまされやすい」と言われて「そうか、俺はだまされやすいな」。「お前さんは間抜け」と言われて「そうだな、俺は間抜けだな」。
洗脳される甚兵衛さんのおかしさったら。
お屋敷に入って歩き出した途端に「ぎゃーーーーー」と悲鳴をあげて、「松の木がある!しかも下で焚火をした跡が残ってる!!」には大笑い。

爪印を真っ赤になるまで押しちゃうところも、小判を見て我を失うところも、しぐさも声も大きくてめちゃくちゃおかしい。
ほんとに爆笑とはこのことを言うんだなというような高座で楽しかった~。

柳家小三治”春の会”

5/31(金)、中野ZEROホールで行われた「柳家小三治”春の会”」に行ってきた。


・〆治、一琴、三三、三之助、小はぜ、小ごと、マネージャー トーク&くじ引き
・小はぜ「まんじゅうこわい
・三之助「棒鱈」
・三三「元犬」
~仲入り~
・一琴 紙切り
小三治厩火事


〆治師匠、一琴師匠、三三師匠、三之助師匠、小はぜさん、小ごとさん、マネージャー トーク&くじ引き
三三師匠が描いた小三治師匠のイラスト入りのトートバッグを開演前に販売していて私もウハウハと買ったんだけど「おひとり様一個」だった。
それはお客様がどれぐらい買われるかわからなかったのでそうしたんだけど、実は…まだ余っております、と三三師匠。仲入りの時にまた販売しますのでほしい方はぜひ複数お買い上げください、と。わーい!

それから師匠以外は誰が出るかまだ決まってないということで、くじ引き。
星とハートの絵が書いてあるうちわを全員が引いて…今回は星を引いた人が高座を務めることに。
小三治一門でこういうわいわいがやがやって珍しいから見ていてとても楽しくて嬉しかった。

小はぜさん「まんじゅうこわい
袖に下がらせてもらえずいきなり高座に上がったのでおそらくパニック状態の小はぜさん。
「噺の方にはいろんな登場人物が出てまいります」というのを何回か繰り返して、なかなか何をやったらいいか決まらない様子。がんばれ~。
まんじゅうこわい」、これは芸協の方に教わったのかな。夢丸師匠かな。
若い連中のわいわいがやがやが楽しい。おそらく小はぜさんの心の中もさきほどのくじ引きのわいわいがやがやが続いているのかなと思って微笑ましかった。

三之助師匠「棒鱈」
さきほどの抽選の時に「今日高座に上がりたい人」と聞かれて誰も手を挙げませんでしたけどそれには訳がありまして…と三之助師匠。
我々噺家ですから落語をさせていただかないと話にならないわけで誰もが高座に上がりたいと思ってはいるんですよ。ただ今日はですね…普段こういう会ですと我々自分の出番じゃないときは楽屋にいるわけなんですが、今日は…全員が…袖にいるんです。ということは…師匠も…いるわけで…師匠に落語を聞かれるというのはですね…おわかりいただけますか。

そんなまくらから「棒鱈」。
たしかにこれはたちが良くないわ…とわかるほどの酔っ払いぶりと、隣の田舎侍のご機嫌ぶり。会場を大いに沸かせていた。


三三師匠「元犬」
こういう会で三三師匠を見るの、とっても久しぶり。
「元犬」、以前何回か見たことがあったけど、シロの元犬っぷりとお手をされてまんざらでもないかずさ屋さん。独自のギャグがたくさん入ってサゲも独自。

私は正直あんまり…なんだけど、うーん。師匠に怒られないかな、なんていらぬ心配?


一琴師匠 紙切り
前に見た時よりさらに腕を上げているような…。切ったもののクオリティもそうだけど、スピードが上がっていてびっくり。
トークも絶妙ですごいなぁ。

 

小三治師匠「厩火事
今日のこの会、袖で見たり楽屋のモニターで見ていましたが…お客様の本当に暖かい雰囲気に…ほんとにありがとうございます、と小三治師匠。

でも私は今日は袖にいて落語をやっておりてくる者たちに…小言ですよ、ずっと。
そうじゃねぇんだ、違うだろう、ってね…。
最初にあがったやつにも…それから次にあがった三之助にもね…。あれは「棒鱈」って噺ですけど、部屋にいる二人組と隣の田舎侍。これの声の大きさが一緒で遠近感が出てない。ウケるからってどちらも大きな声で大げさにやって…そういう噺じゃねぇんだって…。

あと最初にくじ引きして出番を決めたり仲入りの時になにかグッズを売ったりね。
噺家っていうのは何か作ってお客さんに売ったりしたがるものですけど、私は…うちの師匠はそういうことは喜びませんでしたよ。
ラーメン売ったり…そういうのはね…でもそういう一門はそれでいいんです。お客さんだって喜んでいるわけだし、みんながみんな同じ方向を向いてる必要はない。いろんな一門があってそれが寄り合って協会作ってるわけで…いいと思います。
でもうちの師匠はね…違ってた。

まぁ私ももうあんまりうるさいことは言いたくねぇやと思ってるし、弟子たちがやりたいようにやらせてやりたいとも思ってますから。
落語の小言もね…言う時は勇気がいりますよ。おい、お前はじゃぁそれだけのもんなのか?そんなに違うのか?って声が自分の中で聞こえてますから。気が付けばもう60年ぐらいやってますけど…それでもまだまだだって自分でわかってますから。
うちの師匠の噺はほんとにおもしろかった。「道灌」なんてね…たいして面白い噺じゃねぇのに師匠がしてるとなんともいえずおかしかった。「ちはやふる」だってほんとにおもしろかった。お前のも悪くないよと言ってくれる方もいるけど、まだまだです。全然違う。

私が師匠のところに弟子入りをお願いしに行ったとき、おやじも付いてきました。
おやじは私に大学に行ってもらいたがっていた。だから「落語家になるにしても、これからは教養が必要な時代になっていくから大学に入ってほしい。それからだって遅くない」というようなことをおやじが言って、師匠もそれを否定はしなかった。
私はでもそれを聞いて「それは違う。落語家に大学なんか必要ないんだ。教養のある落語なんてものはいらない。落語はそういうものじゃないんだ」って思わず言ってました。
それから10年して真打になったときに、師匠のご贔屓さんから言われました。師匠が「あいつ、入門の時、こんなことを言いましてね…」って嬉しそうに言ってたよ、って。
それを聞いて私は本当に嬉しかった。師匠はその時もその後も、私には一言もそんなことは言わなかった。だけど嬉しいと思ってくれていて本当に心を許してるお客様にそう言ってくれていた。
嬉しかったです。

…この話はあんまりしたことはないんです、とおっしゃっていて、私も初めて聞いたのでなんか胸がいっぱいになって涙が出てしまった。
「お前の噺はおもしろくねぇな」と言われたという話は何回か聞いていたけど…それは聞くたびになんて厳しい言葉なんだろうと思ったり、でもそう言ったらこいつは自分でもっと深く考えてすごいことになるだろうと思う信頼があったからこその言葉だったんだろうなと思ったりするんだけど。
入門の時の自分の青臭い…でも心からの想いを、師匠が内心喜んでくれていたって聞いたら、それはもう本当にうれしいだろうなぁ…。宝物のようなひとこまを話してくれたことにじーんときたなぁ。

袖から「時間がありません」の声をかけられて「だったら落語を短くやるからいい」と言って、そういう話を聞かせてくれた。
そんなまくらから「厩火事」。

うおおお。小三治師匠の「厩火事」は久しぶり。
なんかとてもエモーショナルな「厩火事」だった。
おさきさんに相談されたご隠居が、自分が大事にしている馬が失われたときに、それよりもなによりも家臣にケガがなかったかということを真っ先に聞いた孔子と、奥方の体のことはこれっぱかりも聞かずに瀬戸物が割れなかったということだけを聞いた麹町の主人、「ここに大きな違いがあるんだ」ということを強く言っていて…その前に話していたことと繋がってるんだなぁという…なんかメッセージ性を強く感じさせられた。
それだけに、惚れてる亭主を試すおさきさんの不安と自分の体を心配してくれたことに対する安堵…そしてこのいかにも落語らしいけむに巻くようなサゲが、なんかいいなぁ…一筋縄ではいかないなぁという感じがしておかしかったなぁ。

楽しい会だったー。小三治師匠に小言を言われながらも、またやってほしいな。

路地裏の子供たち

 

路地裏の子供たち

路地裏の子供たち

 

 ★★★★

うらぶれた路地裏が冒険と発見に満ちていた子供時代を叙情豊かに描くデビュー短篇集。夏になるとどこからか現れる行商人の秘密を知った「パラツキーマン」。高架下の廃屋でたくさんの鳥たちと暮らす風変わりな男との邂逅を描く「血のスープ」。少々ネジが飛んでいるけれど子供たちのいい遊び仲間だった「近所の酔っ払い」。人生の岐路に立った少年二人が夜更けの雪の町をさまよう「長い思い」。映画の恐怖が現実に忍び込んできて逃げ惑う少年を描く「ホラームービー」。不思議な生業を営む叔父との奇妙な日々が胸を打つ結末に行きつく「見習い」など珠玉の11篇に、日本版特別寄稿エッセイを収録。 

 「シカゴ育ち」を読んだのはもう20年前だったか。これはダイベックのデビュー作とのこと。

短編集だが、問題を抱えた家庭の子供の話が多い。

悪い方悪い方へと自ら進んで流れていったり、逃れてきたはずの故郷へ戻ってきたり、ドロップアウトした友だちを見捨てたり、あるいは見捨てられたり。違う国の話なのになぜか懐かしい。それもノスタルジックに浸るような懐かしさではなく、せっかく今まで忘れていたのにと腹が立ってくるような懐かしさ。

面白かったけどちょっと絶望。

白酒・甚語楼二人会

5/29(水)、お江戸日本橋亭で行われた「白酒・甚語楼二人会」に行ってきた。

・きよひこ「狸札」
・白酒「真田小僧(通し)」
・甚語楼「愛宕山
~仲入り~
・甚語楼「普段の袴」
・白酒「木乃伊取り」


白酒師匠「真田小僧(通し)」
札幌、新潟の落語会に行ってきたというまくら。
「ありがたい限り」と言いながら言葉の端々に毒が混じっていて笑ってしまう。
新潟ではテーマを「ファミリー」にしているものでお子様のお客様もいるというのに噺家は気にせず「お見立て」なんかやってしまう。お見立てのどこがファミリーなんじゃ?と思っていると「俺たちはファミリーみたいなもんじゃねぇか」と無理やりなセリフが挟み込まれるというのにも笑った。
そんなまくらから「真田小僧(通し)」。
子どもがどんなに極悪なことを言っても、ふっくらした体型とニコニコ笑顔でなぜか許せてしまう。
白いお洋服を着たおじさんの一件では、父親がどんどん前のめりになってきて本泣きになるおかしさ。
最後は言われる前に10銭出しちゃう。
聞き飽きた噺だけど、スピードと勢いにつられて大笑いだった。


甚語楼師匠「愛宕山
京都は山が多いというまくらから「愛宕山」。
ああだこうだと御託を並べていた一八が覚悟を決めて山を登り始めたところ。
歌を歌いながら息が上がっていく様子を一八の歩いてる様だけで表してるの、すごい。汗をぬぐったり、表情がどんどん曇ってきたり、動きが鈍くなってきたり…。
お尻を押してもらってまた元気づくところも、後ろから押すしぐさと一八の元気になるところの対比。お尻のかさぶたを押されて痛いのと、痛くないところを押されてくすぐったいのの交互の反応。これがなんかリズムが良くて見ていて楽しくなる。あーやっぱりこの噺は音感がないとだめな噺なのかも。
旦那たちと合流したところでは、山の風景が見えきて涼しい風が感じられる不思議。
かわらけ投げも、端を欠いて投げて落ちて行く様子が見えるようで、楽しい。

落ちた小判を拾いに行きたくて傘を持ってどうにか落ちようとするところ。
怖い、行きたい、金がほしい、でも怖い、の葛藤がはっちゃけてて楽しい。
旦那が長吉に「押してやれ」と耳打ちするのも、本当に一八が落ちて行って、「ことによったら一八は最初からいなかったことに」と旦那がつぶやくのもダークな一面が見えておかしい。
お金を拾うところや縄をこしらえるところも、音楽を聞いてるようなリズムの良さ。
枝をしならせるだけしならせてびゅん!と上がって来たところも動きがあっておかしくて楽しかった~。
好きだー、甚語楼師匠の落語。楽しい~。


甚語楼師匠「普段の袴」
実は膝を痛めて相引を使ってます、という甚語楼師匠。
釣りをしていて転んで痛めたのだが、早朝だったことやその後GWに突入したこともあって、病院に行くのが遅れて、そのせいで長引いてしまっているとか。
今は30分座っているのが限界。それ以上はできない。先ほどの「愛宕山」はちょうど30分ほど。実は危ないところだった。いまさら言ってもしょうがないですが。
そんなまくらから「普段の袴」。
この、もう一席「軽い噺」のクオリティの高さと楽しさったら。
最初のお殿様に威厳があってかっこいい。それだけにそれを真似する男のがちゃがちゃしているのがおかしい。
大家さんのところに袴を借りに行って「おい、大家、いるか。大家、このやろう!」。
「お前が袴?祝儀、不祝儀か?」
「そうだよ、その祝儀不祝儀だよ!」
「どっちだ?祝儀か?不祝儀か?」
「祝儀不祝儀。両方だよっ!」

道具やで鶴の絵を「文鳥」と言われて「ちがうよー鶴だよ鶴!」。このあっけらかんとした確信の強さに大笑い。
楽しかった~。


白酒師匠「木乃伊取り」
テッパン。飯炊きの清蔵がもう白酒師匠にぴったりで楽しい楽しい。
お酒を飲んで酔っ払って芸者にお世辞を言われて手を触らせてもらって「楽しいっ!!」って叫ぶのがおかしい。
パワーあるなぁ。絶対に笑わせるパワー。おそるべし。

 

世界で一番美しい病気

 

世界で一番美しい病気 (ハルキ文庫)

世界で一番美しい病気 (ハルキ文庫)

 

 ★★★★★

恋におちるたびに、僕はいつもボロボロになってしまう―。作家として、ミュージシャンとして、数々の名作と伝説を残した中島らも。「よこしまな初恋」「性の地動説」「私が一番モテた日」「やさしい男に気をつけろ」「サヨナラにサヨナラ」ほか、恋愛にまつわるエッセイと詩、小説を収録。初めての文庫化 

 中島らもの恋をテーマにしたエッセイ。笑って泣いて心に沁みる言葉の数々。

 恋におちることは、つまりいつかくる何年の何月かの何日に、自分が世界の半分を引きちぎられる苦痛にたたき込まれるという約束を与えられたことに他ならない。

「想い」とは何の意味もないガラクタであり錯覚であり、それのないところにいれば我々は「傷つかないから幸せ」でいられるのか。

自分で自分の気持ちをきれいに整理できるのであれば誰も苦労はしないわけで。想いというのはほんとにどうしようもないものであるよなぁ…と思う。

絲的ココロエ―――「気の持ちよう」では治せない

 

 ★★★★★

双極性障害Ⅰ型発症から20年。
長年この病とどうつきあってきたか、服薬ゼロになった現在からみた心得を綴る
貴重なエッセイ。
加齢、発達障害、依存、女性性、ハラスメントなどの話題も。 

絃山さんが双極性障害を発症して仕事を辞め、その後作家になったということを初めて知って驚いた。私も鬱病になりかけたことがあるので共感できたし、またとても勉強になった。

精神の病は目に見えないので、心構えだの甘えだの態度だのと言う人は必ず存在するのだが、そんなときには、反論せずに自分にこう言い聞かせることにしている。

「人間は自分の意思では虫歯ひとつ治せません」

周囲の人が心配のあまり一緒に悩んでしまうことは、好ましくない。普段どおりとまではいかなくても、病人と離れる時間、気分転換や遊びの時間はぜひ確保していただきたい。

(中略)

病人にとっては時間が他人と同じように流れていないことがつらいものÑだ。不公平だと思ったりする。

入院前に主治医に言われた言葉を私は今でもよく思い出す。
「医者にできるのは薬を使って援護射撃をすることです。矢面に立つのは患者さん自身です」
(中略)

医者との相性とは「言葉が通じるかどうか」だと思う。

完治は難しいとしても、自分の状態を常にきちんと把握して最悪の状態にならないようにすること。信頼できる医者に出会うこと。身近な人がそういう病気になったら原因や安易な安易な励ましの言葉などかけず、本を読んでまず勉強すること。心の病は気の持ちようではどうにもならないことを知ること。「人間は自分の意思では虫歯ひとつ治せない」の言葉を胸に刻みたい。