りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

つつましい英雄

つつましい英雄

つつましい英雄

★★★★★

ノーベル賞受賞後、初めて書かれた最新作!マフィアの脅しに屈せず、正面から立ち向かった実在の人物をモデルに、サスペンス・タッチで描かれる波瀾に満ちた物語。

二つの物語が交互に語られ、過去の出来事や会話が現在の物語と同時に展開するのだが、それが独特のうねりを生み出していて、読んでいてとても気持ちいい。

運送会社を営むフェリシトのもとに署名のかわりに蜘蛛のイラストが描かれた脅迫状が届く。利益の一部を自分たちに還元しなければ痛い目にあうぞとある。マフィアの仕業ではないかとフェリシトは警察に行くのだが相手にされない。
そうしているうちに第二、第三の脅迫状が届き、嫌がらせもエスカレートしていくのだが、フェリシトは叩き上げの父親から言われた「誰にも踏みつけにされてはいけない」という言葉を頑なに守り、お金を渡すことを断固拒否し、その姿勢がマスコミで話題になりすっかり時の人となってしまう。

もう片方は保険会社の社長であるイスマエル。死に床に瀕していた時、二人の息子(双子)が彼の死を待ち望んでいることを知り復讐の念にとりつかれたイスマエルは、メイドと再婚しすべての財産を彼女に残すことを決める。
この結婚の保証人を頼まれたのがイスマエルの会社で働く、イスマエルとは長年の友人でもあるリゴベルト。 イスマエルたちが新婚旅行に出かけてしまったため、リゴベルトは双子から裁判を起こされたり、散々な目に遭う。

ストーリーはかなり不穏なのだが、片方は揺るがない信念、もう片方はユーモア精神のある主人公なので、ハラハラしながらも楽しく読めた。
マスコミとそれに食いつく大衆というのは国は違えど同じなんだなぁ…。

そしてタイトルに「つつましい」とある通り、物語もいつものリョサらしくなくどこかつつましい(笑)。そこが意外でもあり面白くもあり…。
結局は家族の物語であり一人の男の物語なのだ。
名前も残らないような市井の人の中に「善」があり、それが世の中を支えているのだということをしみじみ思った。
とても良かった。