りつこの読書と落語メモ

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工場

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★★★★★

不可思議な工場での日々を三人の従業員がそれぞれに語る表題作(新潮新人賞受賞)のほか、熱帯魚飼育に没頭する大金持ちの息子とその若い妻を描く「ディスカス忌」、心身の失調の末に様々な虫を幻視する女性会社員の物語「いこぼれのむし」を収録。働くこと、生きることの不安と不条理を、とてつもなく奇妙な想像力で乗り越える全三篇。

とんでもなく好み。
少し不気味で不穏で平和で続いていく日常。気持ち悪いが存外気持ちよくもあり、停滞しているように見えて若々しさも感じる。
時折思わず吹き出してしまうユーモアとセンス溢れる言葉がたまらない。文章のリズムも良くてセリフや描写が絶妙にいい。

会社や社会に対するあきらめ感。働くことへの希望のなさ。しかしそれを大仰に嘆くわけでもなく怒りに打ち震えるでもなく、それはそれとして淡々と受け止め、日々の仕事は極めてまじめに場の空気を乱さずにこなす。
まわりの人と打ち解けたりするわけではないけれど、決してバリアを張り巡らせているわけでもなく、飲み会に誘われれば断ることはなく付き合う。少しだけうれしい気持ちでのぞむ。
そういう描写が今の若い人たちを非常にリアルに伝えている。

3話ともホラーか?と首をかしげたくなるようなところもあるのだが、自分の送る日常も不思議や不気味や不穏に満ちているとも思えるわけで、そういう意味ではとてもフツウを描いているようにも思える。
とにかく才能を感じる。素晴らしい。