村上春樹 雑文集
- 作者: 村上春樹
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2011/01/31
- メディア: 単行本
- 購入: 22人 クリック: 344回
- この商品を含むブログ (147件) を見る
インタビュー、受賞の挨拶、海外版への序文、音楽論、書評、人物論、結婚式の祝電――。初収録エッセイから未発表超短編小説まで満載の、著者初の「雑文集」!
村上春樹の小説をそれほどたくさん読んでいるわけではないし、大ファンというほどでもないのだが、それでも受賞の挨拶から書評、結婚式の祝電まで、全ての文章がすみからすみまできちんと「村上春樹」で、とても面白かった。
最近の作品を読んでもそう感じていたのだが、この中におさめられている文章を読んで、この人はフィクションの力を信じている作家なのだなぁ、と思った。
小説には正しいことが描かれているわけではないし、明確な答えが示されているわけでもないのだが、でも圧倒的なフィクションの世界にどっぷりと身を委ねていると、いつもとは違った見方ができたり感情が揺さぶられたりして、この現実もまた少し違ったものに見えてくる。
フィクションの世界にのめりこめばのめりこむほど、現実が陳腐に思えてしまうことももちろんある。
でも陳腐に思える現実のなかにも、小説より奇怪なこともあるし、陳腐な中にも面白いことや興味深いことはたくさんある。
そういうフィクションと現実の間の切り替えをするっていうのがきっと大事なことなんだと思う。
何かを圧倒的に信じている人は確かにある意味強いのかもしれないけれど、でも私にはなんだか少しのっぺらぼうに見える。
全くそのとおりのことが書いてあったわけではないのだが、日頃自分がうすらぼんやりと考えていることと近いことが書いてあって、ちょっとうれしかった。
あと、村上翻訳物が大好きで、そちらの方はかなり満遍なく読んでいるので、翻訳の話はとても面白かった。
柴田元幸もそうだけど、村上春樹訳には「これは村上さんが面白いと思って訳してくれたのだから面白いに違いない」という圧倒的な信頼感がある。
この本の中でも自分の訳した作品や作家への偏愛ぶりが垣間見れて、それがとても良かった!
それにしても、まだ書きたいものがたくさんあってでも自分があと何作書けるかということを考えるようになって…という一文があって、ああっいいなぁっ!!と身悶えてしまった。
書きたいものがあって、それを職業にしていて、みんなにも認められて、きっと後世にも残って…。いいなぁ!