りつこの読書と落語メモ

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ピギー・スニードを救う話

ピギースニードを救う話 (新潮文庫)

ピギースニードを救う話 (新潮文庫)

★★★★

出張の帰りの新幹線で読む本が足りない!と慌てて入った駅のKIOSK本屋さんで買った一冊。アーヴィングといえば「長編」だけど、これはアーヴィングによる短編&エッセイ集。文庫になってくれてよかった!こういう時に買って読むのにちょうどいいじゃないか。

祖母は言った。「ほんとにまあ、どうして作家なんぞになったもんだか」それは、ピギー・スニードがいたからだ。豚を飼い、豚と暮らしたこの男が、豚ともども焼け死んだとき、少年アーヴィングの口をついて出た嘘話。作家の仕事は、ピギーに火をつけ、それから救おうとすることなのだ。何度も何度も。いつまでも。創作の秘密を明かす表題作とディケンズへのオマージュに傑作短篇をサンドウィッチ。ただ一冊の短篇&エッセイ集。

かなり昔の作品もあるし正直「薄い」印象もあるのだけれど、これを読むとアーヴィングの創作の原点がなんとなくわかるというのがファンにとってはたまらない。
美しい胡桃の大木をめぐる隣人との攻防を描いた「インテリア空間」。これなんか1980年の作品なんだけど、アーヴィングらしいところが随所にあらわれていてなんともいい。主人公が大学街の泌尿科の医師で妻から「エッチ」とあだ名を付けられている男。主軸となる話と同じぐらいの熱心さで主人公が遭遇するどうでもいいような話が語られていて、それがもうおかしいのだ。そしてどうでもいいような話なんだけど、最後に話が交錯していくところが、またアーヴィングらしい。短い話なだけに、仕掛けがわかりやすくて、ああやっぱりいつものアレはわざとだったんだなぁとわかるという…。

「ペンション・グリルパルツァー」は「ガープの世界」の中でガープが書いた処女作として出てくる作品だが、熊が共存するホテル、夢男、逆立ちで暮らす男、そしてそれをめぐる悲劇と、アーヴィングによく見られる突拍子もない設定とグロテスクとそこはかとなく漂うユーモアと悲しさみたいのが凝縮されているような感じがする。あー、これを読んだらまた「ガープの世界」や「ホテル・ニューハンプシャー」を読みたくなってきたぞー。

そしてなんといっても表題作の「ピギー・スニードを救う話」。これはアーヴィングの自伝のようでもあり創作の原点を語っているようでもある。つまらない死を遂げた男を「物語」として描くことで救うことができるのだ、と語るアーヴィング。誰も注目しないような弱者や醜悪に見える人たちをあえてこれでもかこれでもかと描くのは、こういう気持ちからだったのか。

全部を読むと、ああ、アーヴィングってほんとに「面白がり屋」なんだなぁと思う。そして面白い小説を書くことに命をかけている人なんだなぁと思う。そしてアーヴィングのながーーーい小説が読みたくなる。