りつこの読書と落語メモ

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ある家族の会話

ある家族の会話 (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

ある家族の会話 (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

★★★★★

イタリアを代表する女流作家ナタリア・ギンズブルグの自伝的小説。前書きに「この本に出てくる場所、出来事、人物はすべて現実に存在したものである。架空のものはまったくない。」とある。

ユダヤ系イタリア人である一家は第二次世界大戦の渦に巻き込まれていくのだが、こんな風に全く感傷的なところのない文章でこんな過酷な現実を書くことができるとは…。何度も裏表紙の作者の写真を見つめてしまった…。すごい作家だ。
そして須賀敦子さんの訳も実に素晴らしい。家族にしかわからない「暗号」のような会話がこの小説の要になっているから、リズムとかニュアンスとかそういうのが伝わってこないと、この小説の素晴らしさは半減してしまっただろう。

父親は解剖学の教授。誰かれかまわずバカ呼ばわりし、新しいことは受け入れられず、短気で頑固で偏屈。自分のめがねにかなわないことは「ニグロ沙汰」と一蹴する雷おやじだ。かなり強烈な人物なのだが、読んでいるうちにどんどんこのお父さんのことが好きになってくる。長男を贔屓したり、人種差別的な発言をしたり、奥さんに当たり散らしたりするのだが、しかし憎めない。多分それは作者が父親のことを理解して愛しているからなのだろうなぁ。

最近は「親が子どもに自分の価値観を押し付けたから、子どもがこんな風になってしまったのだ」というようなことが頻繁に言われるけれど、この父親を見ていると、そもそも親というのはそういうものなんじゃないのか?それでももちろん子どもは親の思い通りの道は歩いていかないものだし、ある程度親が「壁」であったり「自分の行く手を阻むもの」であっても、それは悪いことではないのではないか?
もちろん弱い子であればスポイルされてしまう面もあるのかもしれないけれど、でも親がどこまでもどこまでも子どもに寄り添って物分りよくならなくてもいいんじゃないの?
この本を読んで、そんなことを思った。

またこの父に劣らず魅力的なのが、楽観的で浪費家な母だ。この母がいたからこそ、この家族はどんな過酷な状況にあってもユーモアを失わず希望を捨てずに生きてこられたんだろうなぁとも思う。

それにしても、こんなにも悲惨で過酷な時期を生き抜き…そしてそれを家族の会話をたどることで描いてしまうなんて…。なんてすごい作家なんだろう。読みながら笑って笑って泣いて泣いて、読み終わってしばし呆然…。そんな本だった。