りつこの読書と落語メモ

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逃げてゆく愛

逃げてゆく愛 (新潮クレスト・ブックス)

逃げてゆく愛 (新潮クレスト・ブックス)

★★★★

「朗読者」の作者による全7篇からなる短編集。
普通の人たちの日常生活を描いた作品だが、その中に過去の戦争の記憶が映し出されていて、「加害者」側に立ってしまった歴史を背負う痛みが伝わってくる。

妻の死後、見知らぬ男から届いた不信な手紙。円満な夫婦生活を送っていたつもりだったが、妻が不倫をしていたことを知り、愕然とする夫。彼は妻になりかわって返事を書き、その男に会いにでかける、という「もう一人の男」。

ユダヤ人の恋人をもつドイツ人の男。
彼女の家族や親戚との交流、また彼の親戚との交流の時に、過去の戦争の痛みが容赦なく二人をおそう、「割礼」。

戦場にいて、息子のことを想う父親を描いた「息子」。

どれも、人とのコミュニケーションが不得手で、家族や恋人との関係を上手に築くことのできない男が主人公。
こんなふうに「逃げ」の姿勢で生きている男って意外と多いような気がする。
そしてある時に、自分が失ってきたものに愕然とし、後悔して、なんとか取り戻そうともがくのだが、もう手が届かないのだ。

静かで深遠な雰囲気で、モノクロの映画を見ているような物語が多くて、読んでいて、しんとした気持ちになる。