りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

上野広小路亭9月中席

9/13(火)、上野広小路亭9月中席に行ってきた。
この日は鈴本演芸場も行こうと思って早退。やればできる!(なにがだ)

・南なん師匠「水屋の富」
亡くなった柳昇師匠は富士山を信仰していて、よく芸人やお客様を誘っては富士登山に行った。私も一緒に行ったことがあるんだけど、その時行った噺家は自分と米福師匠(当時は二ツ目)。

弟子は一緒に行きたがらない。師匠が疲れてくると荷物を持てとかおんぶしろとかわがままを言い出すかもしれないことを恐れて。
富士吉田に向かう4人掛けの電車でふと向かいに座っている米福さんを見るとTシャツに短パンというえらいラフなスタイル。
「その恰好で富士山に登るの?」
「ええ。動きやすいようにラフな格好がいいかと思いまして」
「…ラフすぎるよ。荷物は?」
「手ぶらです」
「ええ?水筒とか持ってないの?」

すると隣に座っていた紳士が「水筒いりますかね?」と聞いてきた
「え?あなたも富士登山?」
「ええ。柳昇師匠に誘われて」

見ればその人は背広にネクタイに革靴。えらいきちっとした格好をしている。
「その恰好で登るんですか?」
「ええ。失礼がないようにと思いまして」
「…失礼がなさすぎですよ…。」
二人とも水筒ぐらいは持っていきたいということで駅前の荒物屋で水筒を買ったんだけど、安いからというので子供用の小さいやつ。
それに水を入れて出発した。
5合目まではバスで行きそこから歩き始めて最初の山小屋。
500mlのペットボトルの水が売っていたのだがなんと300円
これ、20年前の話ですから、相当高いですよ!
「高いねぇ」
「水筒買ってよかったねぇ」
なんて話をしていてまた登り始め2軒目の山小屋に行くと、今度は水が400円!
「うわーー登るほどに値段が上がるね」
「でもぼく心配になってきました。なんといっても子供用の水筒ですから。400円だけど買っておきます」
一人が買うと我も我もとみんな買いはじめ、自分もつられて買っちゃった。
それからまた登り始めて3軒目の山小屋に行ったら水が300円。その後頂上まで行っても水は300円だった。
つまり、2軒目の山小屋が商売上手だったんですね。
 
…もうこの話がツボで笑いが止まらない。
富士登山、きっともっと大変なこととか事件とかがあっただろうけど、その中でこの話!っていうのもおかしくておかしくて。
淡々と語る南なん師匠がおかしくてたまらなかった。
 
そんなまくらから「水屋の富」。
やったーーー!!!
南なん師匠の「水屋の富」がとにかく素晴らしいというのは聞いていて、聞きたくてたまらなかったのだ。うれしいーーー。
会社早退して来た甲斐があったなぁ!
 
江戸時代も水不足というのはあって結構深刻な問題だった。
そのため天秤棒に水の入った桶をぶら下げて水を売り歩く水屋という商売があった。
水を汲んできて担いで歩く。水が売り切れるとまた水を汲みに行って売り歩く。
とても大変な商売。
そんな水屋の清兵衛さん。年もとってきたしそろそろ商売はほかの人に譲って商売替えをしたいと思っている。
湯島で富くじを買って仲間にその日は商売を代わってもらって発表を聞きに行く。
湯島天神はいっぱいの人だかり。
当たったら質屋をやろうと思う(借りに行くのに自分ちなら手間が少なくて済むから)とか、1等は当たらないけど2等は俺が当たるとか、みんな好きなことを言い合っている。
江戸っ子が集まってワーワーやってるのがほんとに楽しくて、ずっとそれを見ていたぐらい。
やっぱり当たらなかったなぁと集まった人たちが帰っていく中、1等が当たって「あわあわあわ」と腰を抜かしている清兵衛さん。
みんなが担いで連れて行ってくれて金貨を受け取る。
 
家に帰ってきて金の隠し場所をあれこれ考える清兵衛さん。
押し入れ、神棚、水がめ。入れてみてはどろぼうをシミュレーションするのがなんともいえずおかしい。
棒で軒下のお金を確認するところも他の噺家さんみたいに大仰じゃなくて、ちょっと触ってカツンといわせてほっとする。
悪夢のシーンも、入ってきたどろぼうに痛めつけられるパターンが漫画チックでおかしい。(楔帷子を首に巻き付けられて首がすぽーん!、とか)
こういう細かいところとかあっさり具合が、すごく効いていて、見ていてつらい気持ちにならないのだ。

商売に行こうと家を出てからもいろんな人が怪しく見えるんだけど、「見慣れねぇ犬だ」「あの猫、目つきが悪い」って、なんかどこかばかばかしい。
感情の吐露は決してあっさりしてないのに、師匠の軽い語り口やテンポの良さ、そういう細かいところで、普段だったら聞いていて「かわいそう」「ああ、つらい」という感情しか沸かない噺なのに、なんともいえずおかし悲しい。
ああああって絶望した後に顔をあげていう最後のセリフがほんとにたまらないんだ。実感がこもってて、かわいそうなんだけどほっともしていて見ている方もふっと笑ってしまう。
 
素晴らしかったー。素晴らしいんだけど「どうや!」感が全然なくて何気ない。
ほんとだほんとだ。南なん師匠の水屋の富ってほんとに最高!
鯉八さんが言ってた通りだ!
南なん師匠の人情噺をもっともっと聞いてみたくなったなぁ。嫌いな噺でも南なん師匠がすると嫌いじゃなくなりそう。

鈴本演芸場9月中席夜の部

9/13(火)、鈴本演芸場9月中席夜の部に行ってきた。

・小多け「道具屋」
・圭花「二人旅」
・ストレート松浦 ジャグリング
・馬石「狸札」
・さん助「真田小僧
・正楽 紙切り
・燕路「あくび指南」
・はん治「粗忽長屋」「妻の旅行」
~仲入り~
・ニックス 漫才
・玉の輔「宗論」
・馬玉「締め込み」

小多けさん「道具屋」
ものすごーくちゃんとした落語をやる前座さんだけど、見るたびに面白くなってきてる。
客の言ってる符丁がまるで分らない与太郎が「なに?日本人じゃねぇの?ココハードウグヤデース」と言って「全部日本語じゃねぇか」と突っ込まれたり、値段を決めるときに「天ぷらが食いたいな。あと久しぶりにお銚子もつけて…お刺身も…」と値を釣り上げて行ったりするのが面白い。


圭花さん「二人旅」
二ツ目になったばかりでこんな渋い噺をじたばたせずにちゃんとやってのけるのはすごい。
語りが明るいから陰気にならなくていいなー。
この噺、真打がやっても暗くなっちゃうことが多いから。
たいしたもんだな。


ストレート松浦さん ジャグリング
わーい!久しぶりのストレート松浦さんだー!
しかも今回はお客が少なかったせいか「実は僕今度披露宴に行くんですけどジャグリングじゃなくて7名でperfumeを踊るんです。僕にダンスのセンスがあるかどうか見てもらえますか」と言って、なんか見たことがないようなヒラヒラした道具を両手に持って、ダンス?のようなそのヒラヒラがジャグリング?
よくわからなかったけど、ダンスはちょっとムムムかなぁと思って見ていたら、ムーンウォーク!!うおおーすげーーー。
いつもの踊る棒も、踏切みたいな長い棒でやったり、ちょっとずつ変えているのがまたうれしい。


馬石師匠「狸札」
動物ってかわいいって言いますけどかわいいだけじゃないです。
たぬきとかリスとかだって野生だとかわいいだけじゃ生きていけないから結構すごいんです。生きていくために人に言えないようなこともしてるんです。
野生って大変なんですから。
そんなことを訴えた?あとに「狸札」。
いやこれがもうかわいいかわいい。
あのクリっとした目と斜めにかまえたポーズがかわいすぎる!

そして恩返しに来た子狸がやたらと「恩返しします。細々としたことをいろいろ。」と何度も言うのがなんともいえずおかしい。
小僧に化けておまんまを炊いた狸に「はがきで札を作ってくれ」「それが無理なら札に化けてくれ!」という男。
「さっそくそっちにいっちゃいますか」「せっかくおまんまたいたのに」「細々したことをしたいのに」
…もうなに、そのこだわり(笑)!
かわいかったー。


さん助師匠「真田小僧
前に見た時より激しくなっていた。
何がって金坊の金をくれ攻撃がもう歯を剥いて青筋立ててすさまじい。
何もそんなにまで激しくやることはなかろうに…。どうしたんだ。

正直「やれやれ…」と思いながら見ていたんだけど、金坊がだんだんやくざ口調になっていくのには思わず爆笑してしまった。
それでもこういうところを激しくやりすぎると、せっかくのオヤジのモゴモゴ講釈のあとに金坊の立て板に水の講釈、の面白さが半減してしまうんだよなぁ。
なんかやっぱりちょっともったいない。


燕路師匠「あくび指南」
寄席っていうのはこうやって芸人が代わる代わる出てきますけど、同じ板の上に上がるのでどうしてもウケたい!という気持ちになる。あんな変な「真田小僧」には負けたくない!
には笑ったー。燕路師匠って優しいよなぁ。

女目当てに稽古をする江戸っ子のまくらから「あくび指南」。
こちらのくまさんは看板(あくび指南の師匠の奥さん)に惹かれて稽古に行くパターン。
あくびの師匠のあくびの所作がすごくきれいでうっとり。やっぱりここが「風流」に見えないとこの噺の面白さが半減するよなぁ。
テンポがよくて楽しかった。


はん治師匠「粗忽長屋」「妻の旅行」
粗忽長屋」の途中(死体を見て「くまだ!」と言うあたり)でわりと大きめの地震が。
はっとなったはん治師匠。
こういう時は噺を止めちゃダメなんですけど止まっちゃいましたね
「わたし、こういうの弱いんです。人一倍弱い。多分ここに出てくる噺家の中で一ニを争うぐらい」
袖で人がそうなってるのを見てたことはあるんですけどまさか自分の時に」
などいいながら、おさまったので始めようとしたんだけど、「落語を息で覚えているので途中で止まったりするとダメです」ということで「得意な噺のダイジェスト版で」と「妻の旅行」へ。

はんちゃんがんばってーーーと心の中で何度も叫んだよー。
でもこれはこれでライブの面白さ。いいのよ、はんちゃん!気にしないで!(←何様)


玉の輔師匠「宗論」
初めて聴いたかな。
たいてい「マキシム」か医者のやつだから。
すごくばかばかしい。面白いけど「フーミン」って古すぎやしませんか?


馬玉師匠「締め込み」
みんながやってるかたちとちょっと違う「締め込み」。
明るくて軽くていいなー。楽しかった!