恋と夏
- 作者: ウィリアムトレヴァー,谷垣暁美
- 出版社/メーカー: 国書刊行会
- 発売日: 2015/06/01
- メディア: 単行本
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20世紀半ば過ぎのアイルランドの田舎町ラスモイ、孤児の娘エリーは、事故で妻子を失った男の農場で働き始め、恋愛をひとつも知らないまま彼の妻となる。そして、ある夏、一人の青年フロリアンと出会い、恋に落ちる―究極的にシンプルなラブ・ストーリーが名匠の手にかかれば魔法のように極上の物語へと変貌する。登場人物たちの現在と過去が錯綜し、やがて人々と町の歴史の秘められた“光と影”が浮かび上がり…トレヴァー81歳の作、現時点での最新長篇。
恋をするということはこんなにも幸福でこんなにも寂しいものなのか。
孤児のエリーは自らのせいで妻子を失ったディラハンの妻となる。エリーに他の選択肢はなかったのだが優しく思いやりのあるディラハンとの暮らしに何の不満もなかった。
両親が画家で広大な屋敷に一人で住むフロリアンは芸術の才能もなければ屋敷を維持していくだけの才覚もなく、屋敷を売りに出して海外に移り住む算段をしている。ある時フロリアンがカメラを片手に訪れたラスモイの町でエリーと出会う。
一目見た時からフロリアンに恋をしてしまうエリー。それはエリーにとっては初恋であった。
一方フロリアンの方も素朴なエリーに心惹かれ、いつしか二人は町はずれの屋敷跡で密会を重ねるようになる。
敬虔なクリスチャンであるエリーは罪悪感に苛まれるが恋する気持ちを止めることができない。
フロリアンが屋敷を売りに出して旅立つことを知ると、すべてをなげうって彼と生きていくことを夢見るのだが…。
ほとんど誰にも気付かれなかったこの恋はきっとこの先彼らの人生に光と影の両方を与えるのだろう。
後先考えずに今のこの幸福が続くことを願う女と、同じ時間を共有しながら期限を決めている男。このギャップが辛い…。
でも黙って去らなかったこと、一度は二人一緒の未来を夢見たこと、そこに救いを感じる。
近所の人たち、風景、動物、家、日々の暮らし、それらがこの物語に命を吹き込んでいる。素晴らしかった。