りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

ブルックリン・フォリーズ

ブルックリン・フォリーズ

ブルックリン・フォリーズ

★★★★★

幸せは思いがけないところから転がり込んでくる──傷ついた犬のように、私は生まれた場所へと這い戻ってきた──一人で静かに人生を振り返ろうと思っていたネイサンは、ブルックリンならではの自由で気ままな人々と再会し、とんでもない冒険に巻き込まれてゆく。9・11直前までの日々。オースターならではの、ブルックリンの賛歌、家族の再生の物語。感動の新作長編。

素晴らしかった! 今まで読んだオースター作品の中で一番好きだったし、間違いなく自分のオールタイムベストに入る作品。

主人公のネイサンは生命保険のセールスマンをしていたのだが、癌に冒され化学療法のすさまじ試練をくぐりぬけどうにか生き延びたものの、仕事も失い長年連れ添った妻に離婚され、全てを失って死に場所を求めて生まれ育ったブルックリンに戻ってくる。
とりあえず生活に困らないくらいのお金はあるが、知り合いも友人もいないブルックリンで日々を無為に過ごすのも…と考えたネイサンは「人間の愚行の書」を綴ることにする。自分が犯した失態、ヘマ、粗相をシンプルで明快な言葉で綴ろうというのである。 目的はただ一つ、多くの時間をこれによってやり過ごし、自分もなるべく楽しむということ。

そんなネイサンがある日近所の古本屋「ブライトマンの屋根裏部屋」で甥のトムと再会する。
秀才でならし将来は学者になるだろうと一族の期待を背負っていたトムが明らかに全身に敗北の空気を漂わせて、古本屋のカウンターに座っていたのである。
ネイサン、トム、古本屋の主人ハリー、人生の敗北者と言われても仕方ないような3人。集まってワインを飲みながら3人はいつしか「ホテル・イグジステンス」という共通の夢を見る。新しい生き方。自分が愛し敬う人とコミュニティを作ること。

今の時点が不幸でもそれで終わりではない。八方塞に思えても、たった1つの出会いがきっかけになって人生がまた動き出すこともある。
歴史や記録に残らないような名もなき人々の短い人生が決して意味のないものではないこと、愚行と善行が紙一重であること、それでもいつか人生は終わること。
さまざまなことをこの小説は教えてくれる。そしてフィクション、想像力の力を見せつけてくれる。

こんなに笑えてこんなに泣けたオースター作品は初めてだった。ブラボー。