りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

エリン・モーゲンスターン「地下図書館の海」

 

★★★★★

ようこそ。あらゆる物語が集う迷宮へ。
著者名のない、謎めいた本。
それはどことも知れない地下にある、
物語で満ちた迷宮への鍵だった――
『夜のサーカス』の著者が贈る珠玉の本格ファンタジー
ドラゴン賞ファンタジー長編部門受賞作

大学院生ザカリーが図書館で出会った、著者名の記されていない本。そこには誰も知るはずのない自らの少年時代の不思議な体験が記されていた。本の秘密を追う彼は謎の男に導かれて魔法の扉をくぐり、何処とも知れない地下に広がる〈星のない海〉の岸辺にある、物語で満ちた空間にたどりつく……めくるめく書物の魅力を巡る傑作本格ファンタジイ。


大学院生のザカリーは大学の図書館で「甘い悲しみ」という本を手に取る。
バーコードシールも貼られていないその本には、ザカリーの少年時代の不思議な体験が記されていた。

ある日、我が家に向かう路地の奥に描かれていた扉の絵。中央には蜜蜂と鍵と剣の絵が描かれ、立体に見えるドアノブを回せば中に入れそうだったが、少年ザカリーは悩んだ末、ドアノブに手を触れずに去る。
実はその扉は秘密の図書館へとつながる扉だったとも知らずに。

誰にも話したことのないこの体験が書かれた謎の本。いったい誰がこの本を図書館に置いたのか、いったい誰がこの本を書いたのか…調べる中で文芸仮面舞踏会というイベントの写真に載っている女性が蜜蜂と鍵と剣のチャームが付いたネックレスをしている。これだけを頼りにイベントに出かけたザカリーは、謎の男ドリアンに頼まれて、ある本を盗むためにコレクターズ・クラブという謎の団体がいる建物に忍び込むのだが…。

 

ザカリーの物語と同時に語られるのが第一章では「甘い悲しみ」、第二章は「天使と伝説」…とこの謎の図書館で繰り広げられる物語。作中作の中にまた作中作…という入れ子構造になっていて、最初は誰が誰だか何が何だか…なんだけれど、徐々に「あ、もしかしてここに出てくる少女が…?」「絵描きは女性…ということは?」と、あちこちに散りばめられた登場人物が繋がっていくのが読んでいてワクワクするし、ザカリーの迷い込んだ図書館…ホテル…港…?も魔法が作用しているような世界でワクワクする。

なぜこのようなことになっているのかの納得いく説明が十分にされるわけではないので、そこが引っかかる人もいるかもしれないけど、私はこの分かったような分からないような…壮大ででも結局は本の中…のような、この大きくて小さい世界観がたまらなく好きで、読み終わりたくない!と思いながら、夢中で読んだ。

「人々がやってきたのは、わたしたちがやってきたのと同じ理由だろう。何かを求めてだ。もっともわたしたちは、それが何か知らなかったのだが。もっと豊かなもの。驚嘆できるもの。所属できる場所。わたしたちがここにいるのは、ほかの人々の物語の中をさまよい、自分の物語をさがすためだ。」

なぜこの不思議な図書館に人は引き寄せられるのかの答えは、なぜ旅をするのか、なぜ物語に惹かれるのかにも通じる。

「勇気を持って。大胆に生きて。声を上げて。自分以外の人間のために変わらないで。星として生きるに足る人間は、あらゆることをありのままに、それがどんなふうに変わろうと受け容れるの。あなたが感じたことを話しても信じない人間のために時間を無駄にしないで。」

エリン・モーゲンスターンの作品は「夜のサーカス」も読んでいてこちらもすごく好きだった。