★★★★
過去・現在・未来、繰り返す哀しい愛の物語
ウィーン近郊の楽園のような島に軍需産業王の夫によって閉じ込められた世界一の美女。映画スターの彼女には出生にまつわる秘密があった。死者との契約により、30歳になった時から他人の思考が読めるようになるというのだ……。地軸変動により気候が激変、多くの土地が水没した未来の地球。性的治療部で働く女性W218はある日理想の男と出会う。隣国からやってきたその男と、彼女は夢のような一夜を過ごすが、男にはある目的があった……。1975年のメキシコシティ、病院のベッドでアナは語る。アルゼンチンでの過去の生活、政治について、男性至上主義(マチスモ)について、愛について……。過去・現在・未来で繰り返される、女たちの哀しい愛と数奇な運命の物語を、メロドラマやスパイ小説、SFなど、さまざまなスタイルと声を駆使して描き、新境地を切り開いたプイグの傑作。改訳決定版。
30年ほど前に会社の上司が「久しぶりに本を読んでわけわかんなくて挫折したんだよ」と話してくれて、その本を読んでみたいと言ったら持ってきてくれたのがこの本。
上司が貸してくれたのは国書刊行会の文学の冒険シリーズだったけど、私は夢中になって読んで、ついでに上司が挫折した箇所もわかって(しおりが挟まってた)挫折するのも分かると思って笑った思い出。
それ以来、自分はラテンアメリカ文学とかこういう時空が歪んだような物語が好きなんだなと自覚して、好んでそういう本を読むようになったので、貸してくれた上司には感謝しているのだった。
ま、仕事では結構ひどい目にあわされたけど。わはは。
1.ウィーン近郊の島の屋敷に閉じ込められている絶世の美女。武器製造実業家の夫は美しくて30歳になると人の心を読めるようになるはずの妻を閉じ込めて24時間監視している。
彼女のお付きの女中テアは実はテオという名の男性で、監視対象である美女のことを好きになり二人で逃げようと彼女に持ちかける。
2.アナ(アニータ)は夫フィットと離婚し娘を実母に託しアルゼンチンを出てメキシコの病院に入院している。
アナは弁護士で左派ペロニストのポッシと愛人関係にあるが、アナにプロポーズしている右派のアレハンドロから逃れるためにメキシコに逃げてきている。
ポッシはアレハンドロのアナへの恋慕を自分の政治活動に利用しようとして、アレハンドロに接触するようアナに持ちかける。
3.地軸変動後の未来都市でW218という女性は性的治療部で働いている。
ある日彼女は自分の理想を具現化したような男性LKJSに出会い夢中になる。彼が住んでいると聞いたアグネス共和国を訪れたW218は彼が語っていたことが全てうそだったことを知るのだが、まだ彼への恋慕を捨てられないまま帰国するのだが…。
1,2,3の物語が並行して語られていく。(正確には3の物語は中盤になって始まり、上司の栞が挟まっていたのはまさにそのページだった。え?またわけのわかんない話がもう一つ始まっちゃったよ。もうーー!ってなったんだろうな)
1が過去、2が現在、3が未来。
解説を読むと2のアナが想像したのが1と3とのこと。そうだったんだ…。全然そんなこと思わずに読んでたな、私は。
アナが1の美女の娘で、3のW218がアナの娘なのかなと思っていた。
1の美女はその後女優になり30歳になると人の心を読めるようになるらしいのだが他の女優に殺されてしまう。
3のW218は20歳になった時急に人の心が読めるようになり、自分が夢中になっているLKJSの心の中を読んでしまい、真実を知ってしまう。
私は3の物語が一番好きだった。というのは能動的に行動する唯一の女性だったから。
1の女優はその美貌ゆえの運命に翻弄されただけに見えたし、2のアナはとにかく男に依存して生きていて幸せも不幸も男次第という生き方が歯がゆかった。しかも重病で身動きできないし。
アナの言葉。
男ってむかむかする。ところが、わたしは自分の人生が一人の男性、自分にふさわしい人と出会うことにかかっていると言う。どうかしてるんじゃない。なんておバカ。そして最悪なのはそれが本当ってこと。そんな夢がなければ、あと一分だって生きていたくない。どうしてこんなに馬鹿なの?いったいだれがそんなことをわたしの頭に吹き込んだの?それとも、そんなロマンスを必要とするっていうのは女の性ってこと?でも、どんなロマンス?どれも長続きしないのに。
男に振り回され男尊女卑の生活を強いられることにうんざりして離婚したにも関わらず、アナは理想の男に出会えることに未来を見出している。
でも、世界は彼らのもの。法王だって男性、政治家も科学者も。そして世界はそうなってる。彼らに似せて世界は作られている。何もかもがひどく非人間的で、ひどく醜悪で、ひどく荒っぽい。
女を政治の道具として見る男と、自分を理解して愛してくれて外に連れて行ってくれる存在として男を見る女。
男女の性差についての記述も多いのだが、政治的に生きる人間と恋愛に生きる人間の対立と見ることもできるかもしれない。
昔読んだ時と印象は違ったけど、面白かった。プイグも再読していきたいな。
