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戦時中、高知から家族と満洲にやってきた珠子。そこで彼女は、朝鮮人の美子と横浜から来た茉莉に出会う。三人は立場を越えた友情で結ばれる。しかし終戦が訪れ、珠子は中国戦争孤児になり、美子は日本で差別を受け、茉莉は空襲で家族を失い、三人は別々の人生を歩むことになった。あの戦争は、誰のためのものだったのだろうか。『きみはいい子』『わたしをみつけて』で多くの読者に感動を与えた著者の、新たな代表作。
戦時中、高知県から親に連れられて満洲にやってきた珠子。言葉も通じない場所での新しい生活に馴染んでいく中、彼女は朝鮮人の美子(ミジャ)と、恵まれた家庭で育った茉莉と出会う。お互いが何人なのかも知らなかった幼い三人は、あることをきっかけに友情で結ばれる。しかし終戦が訪れ、珠子は中国戦争孤児になってしまう。美子は日本で差別を受け、茉莉は横浜の空襲で家族を失い、三人は別々の人生を歩むことになった。
あの戦争は、誰のためのものだったのだろうか。
『きみはいい子』『わたしをみつけて』で多くの読者に感動を与えた著者が、二十年以上も暖めてきた、新たな代表作。
満州で出会った3人の少女。開拓民として高知から来た珠子、朝鮮から来た美子、貿易商の父親の視察に付いて来た茉莉。
家庭環境も経済状況も全く異なる3人だが、3人だけで寺を見学に行った時に大雨に遭い帰ることができなくなり3人で一夜を共にする。寒さと空腹で不安な一夜を過ごす中で、一つだけ残っていたおむすびを3つに割って最年少の茉莉に一番大きなおむすびをあげ、中くらいのおむすびを珠子にあげ、自分には一番小さいおむすびを残した美子。それは珠子と茉莉の心にも深く刻まれる出来事だった。
恵まれた家庭に育った茉莉は横浜で空襲に遭い、家族全員と自分を可愛がってくれていた隣人家族(二人の兄弟を除いて)を失い、孤児となる。
朝鮮人の美子は日本が戦争に負けて親日の親戚が処刑されたりする中母国に帰ることができず日本に行き、差別に遭いいじめられる。
終戦を満州で迎えた珠子は襲い掛かる中国人やソ連兵から逃げながら日本人収容施設を目指すも、父や兄弟や仲良しだった隣人家族が死に絶える中、中国人に誘拐され売買される。
優しい父母や近しい大人たちに守られて、過酷な世界の中でも幸せに育ってきた少女たちが守ってくれていた存在を失い極限状態にさらされる。
恵まれた家庭に育った茉莉は家が丸焦げになり残った私財を近所の人に奪われ渡されたキャラメルさえ奪われる。
繊細で優しい珠子は一緒に満州に行った友達家族が全員死に絶え子どもを売れとお菓子を持って迫ってくる中国人を目の当たりにする。
気が強くて利発な美子は「朝鮮人は国に帰れ」と執拗にいじめてくる同級生に抗いながら、朝鮮人である自分や家族を恥じたりそんな自分を嫌悪したり「民族」の呪縛に捕らわれる。
親日家であるということで優遇されていた朝鮮人は日本が敗北した途端、戦犯と呼ばれる。
生まれた時から戦争があり「お国のため」という教育を受けた茉莉は、戦争に行く隣のお兄ちゃんを誇らしく戦地へ送り出したことを一生悔やみ続けることになる。
上下関係がひっくり返ったり善悪が裏返ったり守れと言われていたことが突然タブーになったり…戦争というのはなんて馬鹿げていて身勝手で残酷なものなんだろうと思う。
日本が降伏した途端、満州で日本人に土地を奪われ労働させられていた中国人が日本人を襲うようになり、さらった日本人の子どもを売買することが当たり前になる。
しかし中国人全てがそうだったわけではなく、なかにはそんな日本人の子どもに同情を寄せてくれる中国人もいたのだ。
そこへ、中国人の男がやってきて、手真似で草履も落花生もいらないからと言い、草履の代金と同じ三円を珠子と豊かにくれた。珠子と豊は顔を見合わせた。菓子で釣ってこどもを買おうとする中国人もいれば、こどもに金を恵んでくれる中国人もいる。
「加油(がんばれ)」
男はそうはげましてくれた。
自分が生きるために人のものを盗む人もいる。子どもを売買してでもお金を得ようとする人もいる。
でも自分が苦しくてもそれよりも苦しい人を助けようとする人もいる。
国や民族では括れない…ひとりひとりの生きてきた環境…大事にされた記憶…生き様がある。
庶民は、国内の対立や文化大革命など国内の政治にも振り回される。
文化大革命が終わったときに、中国人の夫・徳林が美珠(珠子。中国人に買われて愛情深く育てられる中で日本時代の記憶をほぼ失っている)に言う言葉。
「おかしな時代だったね」
美珠が工場長の死を告げると、徳林はぽつりとつぶやいた。
おかしな時代。へんな時代。そう言ってすませるしかなかった。
美珠はうなづいた。
徳林にも美珠にも、ほかに表現のしようがなかった。殺された人、自殺に追い込まれた人、失脚した人、辺境に下放されて戻って来られなかった人、みんな、おかしな時代の犠牲者となった。
そして、いつまたおかしな時代が始まるかは、だれにもわからなかった。
これは遠い昔の話ではない。私たちもいつまた同じようなおかしな時代になるか分からない今を生きている。
戦争の悲惨さを伝えながらもそれだけに終わらない。極限状態にある時の人間として有り様を考えさせられる作品だった。 素晴らしかった。読めてよかった。
