りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

ロンドン

ロンドン (上)

ロンドン (上)

ロンドン(下)

ロンドン(下)

★★★★★

世界最古の港湾都市ロンドンには、どんな物語が秘められているのか。ローマ時代から現代まで、歴史の転換期を舞台に、当時を生きる庶民の視点から巧みに描きあげた比類なき魅力満載の大長篇小説。

ハードカバー2段組で500ページあって上下2冊。壮大な歴史モノであることは最初からわかってはいたんだけど、まさか話が紀元前から始まるとはびっくり…!そして巻頭のロンドン周辺の地図(時代別)と巨大な家系図に頭がクラクラする。この膨大な登場人物を鳥頭の私が覚えられるのだろうか?!理解しきれるのだろうか?!
しかし心配は無用だった。各章が時代ごとに独立しているので、前の話はぼや〜と覚えている程度でも十分楽しめる。そしてそれぞれの物語がものすごく面白くて読みやすい。

この物語には主に5つの一族が出てくる。子どもの頃から前髪に一筋の白髪が混じり水かきを持つダケット家。気の荒いブル家。鼻が長くて総じて陰気なシルヴァースリーブス家。バイキングの子孫バーニクル家。ハンサムで魅力的で権力側につくことの多いメレディス家。それぞれにはっきりした「色」を持っているので、鳥頭な私でもすぐに覚えられるし、出てくるとすぐに「お、これはあの一族だな」とわかる。そしてそのほかにそれぞれの時代で、これらの一族と関わりあう人たちがいる。

この物語には出てくる一族たちは時代とともに流され、栄華を誇ったり没落したりまた巻き返しをはかったり、一族同士も争ったり憎みあったり迎合したり、時代によってさまざまに変遷していく。
歴史の大きなうねりと、それぞれの時代を懸命に生きた人たち。善人であったり悪人であったりその両方であったり、野心があったり敬虔だったり狂信的だったり無神論者だったり、したたかだったり正直者だったり、貧乏だったり金持ちだったり、革新的だったり保守的だったり。

結局時代を作るのはその時代を生きた人たちなのだけれど、そこにはそれぞれの思惑があり利害関係があり力関係がある。力のない人たちは自分たちで時代を変えることなどもちろんできなくて、不当な目にあって命を失う者もいる。富も名声もないけれど充実した人生を送る者もいる。しかしそういう力を持たない人たちが次の時代には権力を持つ側にまわることもある。
前の時代の遺恨を引きずることもあれば、力関係が入れ替わることもあれば、親友になる場合もある。

そういう歴史の大きなうねりと、一人一人の小さいけれどかけがえのない人生、それがなんともいい具合に混じりあって、読んでいてわくわくする。政治や歴史には疎い私でも、このロンドンを中心に見据えた歴史はとても面白かった。そしてとにかくその時代時代を生きた人たちのエピソードがものすごく面白い。

最後の文章に、この小説のうねりに身を任せるようにして読みながら、ぼや〜と感じていたことがはっきり書いてあった。

どんな時代でも、毎年何かが残される。もちろん押しつぶされて地面の下に消えてしまいます。でも人間の営みのほんの小さな部分は残ります。

歴史を学ぶ時、結局その時代を生きた人はただ流されて消えて行ってしまったのではないか、世の中を動かした人たちだけが残っていくのではないかという、無力感を感じるときがあるけれど、それだけではないのだ。名もなき人たちだって小さな足跡を残しているのだ。きっと私も。